読みもの
2022.09.21
連載「教師の悩み相談室」

既婚の先輩教師を好きになってしまった

学校に一人が当たり前の音楽科教員。「授業がうまくいかない」「相談しようにも誰にも言えない」など、教師を取り巻く悩みは尽きません。そんな教師の悩みを知り尽くした明治大学の諸富祥彦教授に、教科教育を超えた悩みに答えていただく『教育音楽』のご長寿連載「教師の悩み相談室」。今回は、同じ学校に勤めている先輩教師を好きになってしまったという悩みをご紹介します。

諸富祥彦
諸富祥彦 明治大学教授

1963年福岡県生まれ。1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。「確かな理論 楽しい語り」で定評がある。日本トランスパーソナル学会会長、教師を支え...

「教育音楽」編集部
「教育音楽」編集部  授業・行事・部活にいきる音楽教師の応援マガジン

全国の音楽の先生に役立つ誌面をつくるため、個性あふれる先生、魅力的な授業、ステキな部活……音楽教育の現場を日々取材しています。〔音楽指導ブック〕〔教育音楽ハンドブック...

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同じ学校に勤めている先輩教師を好きになってしまいました。

その人は既婚者なので、社会的にもよくないことは分かっています。でも、事あるごとに他の先生より私を気遣ってくれていると感じてしまい、気持ちを捨てきれません。

人を好きになるのは自然な感情 まずは自分を認めてあげよう

ご相談の先生は20代女性の小学校の先生ということですが、結婚している人を好きになることは誰にでもあることです。まずはそういう自分を認めてあげましょう。あなたは先輩の先生を好きになり、気持ちが大きく揺れているのかもしれませんが、それはナチュラルな感情です。

その方には奥さんがいて、もしかしたらお子さんもいらっしゃるかもしれません。そうすると「こんな気持ちを抱くのは社会的によくない」「特に教師であるからこそ、いわゆる不倫なんてことをしていいのか」と悩んでいるのでしょう。

しかし、ドラマでは昔からよくある設定です。好きになってはいけない人を好きになるというのは、いつの時代でもあることなのです。

人を好きになるときに立場を考えて好きになったり、好きにならなかったりするわけではありません。しかも、男性の先生も親切にしてくれて、あなたのことを決して嫌いじゃないということが伝わってくるのであれば、ますます好きになってしまうのは当たり前のことです。

決して自分を責める必要はありません。ナチュラルな感情なのだと自分で自分の気持ちを認めてあげることが第一段階です。

「教師だから」「既婚者だから」と考え過ぎるのはイラショナルビリーフ

「既婚者を好きになることは教師としてあるべきことではない」という考え方は、イラショナルビリーフ、非合理的な考え方です。

この連載で何度か出てきましたが、心理セラピストのアルバート・エリスが考案した、論理療法というカウンセリングの方法があります。

それは、私たちの悩みや苦しみをつくり出しているのは、出来事そのものではない、それに対して自然で合理的な考え(ラショナルビリーフ)を抱くことができるか、それともそうではない非合理的な考え(イラショナルビリーフ)を持ってしまうかが人の感情を大きく左右すると考える方法です。

今回は「教師も人間だから、相手が結婚していようがいなかろうが好きになることはある。とても自然な感情だ」と考えるのが合理的です。ただ、好きになってどこまでも突っ走って人の不幸さえも顧みないのは、また違います。それらを峻別して好きになるのは、ごく当たり前の感情です。

つまり、相手の奥さんと揉めたり、家庭に不和をもたらしたりして、その上に成り立つような幸せであれば、考え直した方がいいでしょう。

また、「奥さんのことが許せない」「不幸にしてしまいたい」とねじ曲がった感情になり、自分でも自分の気持ちに対して「醜いな」「ちょっと変だな」という気持ちになってきたら気を付けるべきでしょう。

大切なのは「突っ走って奪ってしまえばいい」とは考えないこと。「先生のことは好きだけど、相手の家庭を不幸に陥れないようにしたい」というのが健全な考えです。このことをちゃんと峻別することが、論理療法的にはとても大事になります。

ただ、何が何でもこの先輩教師と結ばれてはいけないのかというと、そんなこともありません。既婚者を好きになって、ずっと離れることなく思い合い、奥さんと別れた後に結婚するというのは、人間社会ではよくあることです。

絶対にダメということはありませんが、一度踏みとどまった方がいいということです。それでもどうしても結び付いてしまうくらいお互いの気持ちが強いのであれば、段階を踏んで進めばいいのです。

「教育者であるから、不倫など絶対ダメだ」という過剰な倫理をくっつけて、自分を責め過ぎない方がいいでしょう。「禁断の恋」だと思い過ぎることで余計に燃えて突っ走る人もいますが、それは危険です。家庭がある人を好きになってしまうのは、よくある感情だと考えた方が健全で普通の判断が下せると思います。

様子を見ることも大事 異動後の感情を見極める

今は突っ走ることなく、しばらく様子を見ましょう。お互いに好意を持っていることは分かっているけれど、相手には奥さんもいることだし、アクションには踏み切れない、という関係のまま、これからお互いの気持ちがどう動くのか観察する時間を持つのです。

一つの大きな分かれ目になるのは、お互いが学校を異動になっても、今のような気持ちが続くかどうかです。毎日会っているから燃えてくるというのは、よくあることです。これは、心理学者ロバート・ザイアンスが提唱する「単純接触効果」の分かりやすい事例です。毎日接している人のことは好きになりやすいのです。

会わなくなって相手のことを考えなくなるようなら、それだけのことです。それでも毎日考えてしまうのなら本当の恋かもしれません。でも、相手の方がすっかり冷めていたら諦めましょう。しばらく離れてみて、それでも二人ともまだ燃えに燃えているというのであれば、お互いによく考えて話し合った方がいいです。

教師というのは、もともと人間が好きだから教師になっている方が多いです。人間好きであるが故に問題も起こしやすいけれど、だからこそ魅力的だし、人に好意も持ちやすいところがあるでしょう。

加えて同僚というのは相性がいいものですから、教師同士の結婚はとても多いのです。しかし、たまたま配属された学校で出会って結婚しただけですから、もっと相性のいい相手はいるかもしれません。

「教師だから不倫すべきでない」「離婚すべきでない」というのは、時代錯誤のイラショナルビリーフです。都心部では離婚する教師も多いです。地方でも離婚する方がいますが、都心以上に世間の目を気にするところがあるでしょう。「教師のくせに」「子どももいるのに」と周りからいつまでも言われる雰囲気があるようです。

社会的に不倫はよくないことですが、ご相談者の先生はまだ若くて経験が少ないので、もう少し自分の感情を見極める必要があるでしょう。異動になったときに、どういうふうにお互いの感情が変わるのか、客観的に様子を見る時間を持つのです。

諸富先生からの一言

まず、既婚者に対する恋愛感情そのものは否定せず、自然な感情だと自分を認めてあげましょう。二つ目に「教師だからよくない」と考えるのは、イラショナルビリーフです。だからといって突っ走るのはやめましょう。三つ目はしばらく様子を見ることです。お互いが学校を異動になっても好きでいるのか、それとも冷めてしまうのか、冷静に見極める必要があります。

――『教育音楽 小学版』20201月号 連載「教師の悩み相談室」より/諸富祥彦(明治大学教授)

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諸富祥彦
諸富祥彦 明治大学教授

1963年福岡県生まれ。1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。「確かな理論 楽しい語り」で定評がある。日本トランスパーソナル学会会長、教師を支え...

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