読みもの
2024.11.20
大作曲家たちのときめく(?)恋文 7通目

シューマン「神と並ぶほどに愛してやまない君にすべて知ってもらいたい」結婚前にクララと交わした手紙

大作曲家たちも、恋に落ち、その想いを時にはロマンティックに、時には赤裸々に語ってしまいました。手紙の中から恋愛を語っている箇所を紹介する、作曲家にとってはちょっと恥ずかしい連載。
第7回は、ロベルト・シューマンと妻となるクララが結婚前に交わした熱いラブレターを紹介します。

山取圭澄
山取圭澄 ドイツ文学者

京都産業大学外国語学部助教。専門は18世紀の文学と美学。「近代ドイツにおける芸術鑑賞の誕生」をテーマに研究し、ドイツ・カッセル大学で博士号(哲学)を取得。ドイツ音楽と...

イラスト:ながれだあかね

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ドイツ・ロマン派を代表する作曲家ロベルト・シューマンは、情感あふれる歌曲を多く残した。なかでも、妻クララに捧げられた歌曲集《ミルテの花》には、彼女に対する想いが詰まっている。「君はまるで一輪の花のよう」という歌詞を耳にすれば、ロベルトがどれほどクララを愛しく思っていたかがわかるだろう。

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ロベルトとクララはいかに愛を育んでいったのか。2人の間で交わされた手紙を覗いてみよう。

「心の奥深く」をさらけ出したいロベルト

クララの父フリードリヒ・ヴィークは、高名な音楽教師だった。音楽家を目指すロベルトは、そんなヴィークの門戸を叩き、ピアノのレッスンを受けていた。1830年にはヴィーク家に住み込み始め、クララとも次第に親しくなったという。

父からピアノの英才教育を受けていたクララは、幼い頃からヨーロッパ各地で演奏し、天才少女として国際的な名声を得ていた。音楽家として順調なキャリアを積んでいく姿に刺激されたのだろうか。クララに宛てて、ロベルトは次のような手紙を送っている。

1837年11月2日

まだ誰にも見せたことがない心の奥深くを、僕は君にさらけ出したいのです。神と並ぶほどに愛してやまない君には、すべて知ってもらわなければならないんだ。自分について知り、自分の才能を悟り、芸術をとると決心し、自分の力を正しい方向に向かわせたときに初めて、僕の本当の生活が始まるでしょう。

母に音楽の道へ進むことを反対されたこともあってか、ロベルトは自分の音楽的才能を信じながらも、将来への不安を拭いきれずにいたのかもしれない。上の手紙では、そうした芸術家としての葛藤をクララに打ち明けているように思える。

16歳頃のクララの肖像(1835年)

クララの父に反対され秘密の文通を交わす

ロベルトはクララよりも10歳年上であり、出会った頃の2人は兄妹のように過ごしていた。恋愛へ発展したのは、1835年になってからだという。

しかし、その恋愛は実に前途多難であった。フリードリヒ・ヴィークの猛烈な反対によって、ロベルトとクララは会うことさえままならず、隠れて文通せざるをえなかったという。

一抹の不安に駆られたのだろうか。それとも、気持ちが抑えきれなくなったのだろうか。クララへの手紙で、ロベルトは「結婚したいと伝えてよいか」とたずねている。

1837年8月13日

あなたはまだ心変わりせず、動じていませんか?(中略)私にとって、この世でもっとも愛しいのは、あなたです。何千回も私は考え抜きましたが、その度にお告げがあるのです。「私たちが望み、行動すれば、叶うはず」と。あなたは私からお父様へ誕生日に手紙を渡してほしいと望んでいるのでしょうか、「はい」とだけ返事をください。

わずか2日後、クララは次のようにはっきりと答えている。

1837年8月15日

あなたは「はい 」という言葉だけを求めているのですか? こんな短い言葉が、そんなに大切だなんて! 私の心には、言い表しようのない愛が溢れています。どうやって、この短い言葉を心から語ればいいのでしょう。(中略)心の痛み、たくさんの涙を表現することなど、私にはできません。

この手紙では、友人などに向けた親称のdu(君)ではなく、目上の人などに向けた敬称のSie(あなた)が使われている。もしかすると、クララは自らの決意の固さを伝え、相手の背中を押したかったのかもしれない。

ロベルトとクララの文通からわかるのは、会うこともままならなかった2人にとって、手紙が貴重なコミュニケーション手段だったことである。秘密裏に手紙を交わす中で、ロベルトとクララは互いの気持ちを確かめ合い、結婚への思いを募らせていった。

ロベルトとクララの肖像
山取圭澄
山取圭澄 ドイツ文学者

京都産業大学外国語学部助教。専門は18世紀の文学と美学。「近代ドイツにおける芸術鑑賞の誕生」をテーマに研究し、ドイツ・カッセル大学で博士号(哲学)を取得。ドイツ音楽と...

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