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2023.07.23
ライプツィヒ・バッハ音楽祭2023ではBCJがファイナルで演奏

《ロ短調ミサ曲》はなぜ名曲と言われるのか~特殊な成立事情と込められたバッハの願い

バッハ《ロ短調ミサ曲》は、バッハが最後に完成させた作品であり、ライプツィヒ・バッハ音楽祭で毎年ファイナルで演奏されるほど重要な作品。それなのに、有名な《マタイ受難曲》の陰に隠れて実演に触れる機会が少ないのはあまりにも勿体ない。実はバッハの作品の中でも極めて特殊な成立過程をもち、教会音楽家バッハの軌跡が詰まっているというこの曲の魅力を、バッハ研究家の加藤浩子さんが解説します。

加藤浩子
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

J.S.バッハがカントル(音楽監督)を務めたライプツィヒの聖トーマス教会

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《マタイ受難曲》に勝るとも劣らぬ名曲

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685~1750)の《ロ短調ミサ曲》は、名前が知られている割に生演奏に触れる機会が少ない作品ではないだろうか。バッハの声楽作品の大作といえば《マタイ受難曲》がなんと言っても有名で、上演される回数も多い。《マタイ》はキリストの受難を偲ぶ聖金曜日の礼拝のために作曲された作品なので、聖金曜日に演奏されるのが筋であり、欧米ではその時期に上演が集中するが、非キリスト教国の日本では1年中上演されている印象だ。

だが時期ものである《マタイ》に比べて、カトリックの礼拝の通常文(〈キリエ〉〈グローリア〉〈クレド〉〈サンクトゥス〉〈アニュス・デイ〉)に作曲されている《ロ短調ミサ曲》は、時期を問わずに演奏できる作品なのだ。だから本来なら、もっと上演回数が増えてもいいように思う。《マタイ》の名声の陰に隠れて《ロ短調》の上演が少ないのは、あまりにも勿体ない。それだけ名作なのである。

J.S.バッハ《ロ短調ミサ曲》

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《ロ短調ミサ曲》はバッハの声楽、とりわけ合唱の集大成である。バッハはなんでも集大成する傾向のある作曲家で、例えば《フーガの技法》はその名の通りフーガの集大成だし、親しみやすく人気の高い《ブランデンブルク協奏曲》も、協奏曲の可能性を極め尽くした作品集。これも人気の《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》も、ヴァイオリン1本による多声音楽の可能性を極め尽くした作品集だ。

ライプツィヒの聖ニコライ教会。バッハはここで、聖トーマス教会と1週間交替で、自作のカンタータの上演を行なった

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