高橋彩子の「耳から“観る”舞台」第14回

気鋭振付家たちが音楽と送るダンスの「今」――NDT ネザーランド・ダンス・シアター来日公演

読みもの
2019.07.03

オランダのハーグを拠点に、世界から常に注目を集めるダンス・カンパニーNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)が13年ぶりに来日中です。
現在NDTの芸術監督ポール・ライトフットをはじめ、今回の演目にかかわる4人の振付家は、もちろん音楽にも強いこだわりが......音楽ファンも痺れる選曲ばかりです!
高橋彩子さんが作品の見どころ・聴きどころを紹介してくれました。

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『サンギュリエール・オディセ』
©Rahi Rezvani

画像提供:愛知県芸術劇場
高橋彩子 舞踊・演劇ライター
高橋彩子
高橋彩子 舞踊・演劇ライター
早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...

ダンス作品には、振付家の動きの語彙、構成力・演出力、色彩感覚などと共に、音楽の好みやセンスも映し出される。

抜群の選曲センスが光る人もいれば、ややもするとベタな音楽だが世界観と合っている人もいる。一方で、もう少し音楽の使い方を変えれば印象も違うのに、と惜しい気持ちになる人や、逆に音楽で得をしているような人もいるのだが……。複数の作品を観るうち、例えばヨーロッパの振付家たちの間ではどんな曲が流行っているか、といったことが見えてくるのも面白い。

現在公演中のネザーランド・ダンス・シアター(以下NDT)でも、振付家たちによる4作品のダンスと音楽から、さまざまなことが見えてくる。

キリアンによる黄金期を経て、新たな時代を進むNDT

NDTはかつて、世界的振付家イリ・キリアンのリーダーシップの下、頻繁に日本公演を行なう、ダンスファンにとって欠かすことのできない存在だった。才能ある若手たちからなるNDT2、そこからの生え抜きによるメインカンパニーNDT1、ダンサーが引退を考える時期にあたる40歳以上で成熟した表現を見せるNDT3の3カンパニーが、それぞれ違った魅力を放つさまは、日本の舞台関係者にも観客にも、ダンスの可能性を大いに示したものだ。

2000〜04年にかけてNDTにちなむ、さまざまな公演を行なった彩の国さいたま芸術劇場の「彩の国キリアン・プロジェクト」は、日本との蜜月を象徴するものだったと言えるだろう。

チェコ出身の世界的な振付家イリ・キリアン。1975年にNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)の副芸術監督に就任し、78年には芸術監督に就任、財政難にあった同団を世界的なカンパニーに成長させた。

Photo: Rob Bogaerts/Anefo

06年に行なわれたNDT1の公演を最後に来日は途絶え、09〜10年の創立50周年シーズンを最後にキリアンがカンパニーを離れたこともあって変質し、すっかり日本から遠い存在になってしまったNDT。

しかし、12年に芸術監督に就任したポール・ライトフットが率いる今回の来日公演では、カンパニーの“変質”が、気鋭の振付家を育て、あるいは招聘して前進するものであり、決して後退、退化ではないことがわかるはず。何しろ上演されるのが、ライトフットがレジデンス・コレオグラファー(専属振付家)のソル・レオンと共に作った新旧2作に加え、アソシエイト・コレオグラファーであり、今、国際的に注目されている気鋭の振付家であるマルコ・ゲッケとクリスタル・パイトそれぞれの作品なのだから。

NDTの芸術監督で、専任振付家でもあるイギリス出身のポール・ライトフット。
©Rahi Rezvani
スペイン・コルドヴァの出身で、NDTの専属振付家ソル・レオン。
©Rahi Rezvani

シュツットガルト・バレエの常任振付家を経て来シーズンからハノーファー州立劇場の舞踊芸術監督を務めるゲッケは73年生まれ。一方、英国ロイヤル・バレエ団やパリ・オペラ座にも振り付け、ローレンス・オリヴィエ賞最優秀ダンス賞も受賞しているパイトは70年生まれ。今回の公演は、脂の乗った彼らの作品を観られる千載一遇のチャンスと言える。なお、特に謳われてはいないが、今回来日するのはNDT1。強靭な身体を持つ精鋭たちが体現する作品群は必見だ。

1973年生まれ、オランダ出身の振付家マルコ・ゲッケ
©Regina Brocke
1970年生まれ、カナダ出身の振付家クリスタル・パイト。
©Michael Slobodian

上演される4作品のダンスと音楽の関係

1:リヒターの新曲も切ない『サンギュリエール・オディセ』

©Rahi Rezvani
©Rahi Rezvani

まず、最初に上演されるのは、ソル・レオンとポール・ライトフットが2017年に発表した『サンギュリエール・オディセ』。スイス国境のバーゼル駅での実体験から生まれたという本作では、駅の待合室を舞台に、一人で、あるいは連れ立って、人々が現れる。さまざまな踊りで描かれる、国境を前にした人たちの不安、葛藤、決意……。ドアや窓から光が差し込む中、ダンサーたちが展開する抑制された動きが印象深い。彼らは亡命者や難民にも重なるし、かつてどこからかやってきて、命の火を燃やし、そして去って行った人々の痕跡かもしれないと思わされもする。本作が、創作中に亡くなったカンパニーの古参メンバーに捧げられているのもうなずける佳品だ。

そんな作品世界を彩るのは、マックス・リヒターの書き下ろし曲。哀愁に満ちたノスタルジックな音楽が、切なさを掻き立てる。

2:早世の天才ジェフ・バックリィの歌とともに『ウォーク・アップ・ブラインド』

©Rahi Rezvani

次は、マルコ・ゲッケが16年に振り付けた『ウォーク・アップ・ブラインド』。30歳の若さで溺死した天才シンガーソングライター、ジェフ・バックリィの静かで情緒的な《You and I》と、アップテンポな《The way young lovers do》の2曲を用いて、男女の愛が描かれる。ゲッケの特徴である肩や背中の鋭角的な動きが、バックリィのソウルフルな歌声と絶妙に混じり合う作品だ。

3:テーブルで行なわれる不気味な議論『ザ・ステイトメント』

2019年6月26日ゲネプロ撮影 ©Naoshi Hatori

続いてクリスタル・パイト振付の、これまた16年発表の『ザ・ステイトメント』。オーエン・ベルトンの音・音楽が底流をなす中、カナダのエレクトリック・シアターの芸術監督ジョナサン・ヤングによるテキストの台詞に合わせ、ダンサーたちが踊る。踊るといっても、いかにもダンスらしいステップやジャンプを多用せず、日常に近い身振りを取り入れながら、ふとした瞬間にダイナミックに動くのがパイトの作風だ。

テーブルの上で、ただならぬ雰囲気で議論する人々。苦悩、説得、迫られる決断--。具体的な内容は不明だが、企業・組織、あるいは国際社会では、いつもこうした情景が密かに展開しているのではないかと思わせるリアルさ、不気味さで満ちている。ダンスを通じて現代社会をえぐるパイトの手腕は圧倒的。

4:フィリップ・グラスの音楽に移ろうカップルたち『シュート・ザ・ムーン』

2019年6月26日ゲネプロ撮影 ©Naoshi Hatori

最後はソル・レオンとポール・ライトフットの『シュート・ザ・ムーン』。ライトフットが芸術監督に就任する前の06年に発表された名作だ。回転扉のように回って3つの部屋を見せる美術の中で、複数のカップルのドラマが展開。フィリップ・グラスのチロル協奏曲2楽章の情感豊かなメロディと、回り続ける美術、そしてカップルの一人が隣りの部屋の相手と関わるさまが相まって、移ろいゆく男女の情景が描き出され、観ていて何とも言えない心地になるはず。

2019年6月26日ゲネプロ撮影 ©Naoshi Hatori

NDTの芸術監督を2020年に退任するライトフット。その集大成とも言うべき公演を堪能し、次の時代の到来にも備えたい!

公演情報
ネザーランド・ダンス・シアター

公演日時: 2019年7月5日(金)19:00開演

2019年7月6日(土)14:00開演

会場: 神奈川県民ホール 大ホール

出演: ネザーランド・ダンス・シアター

演目:
『シュート・ザ・ムーン』 振付:ソル・レオン、ポール・ライトフット 音楽:フィリップ・グラス

『シンギュリア・オデッセイ』 振付:ソル・レオン、ポール・ライトフット 音楽:マックス・リヒター

『ザ・ステイトメント』 振付:クリスタル・パイト 音楽:オーエン・ベルトン

『ウォーク・アップ・ブラインド』 振付:マルコ・ゲッケ 音楽:ジェフ・バックリィ

料金:〈全席指定・税込〉
S席 12,000円 A席 9,000円(U25 4,500円) B席 6,000円(U25 3,000円) C席 4,000円(U25 2,500円)

チケット問い合わせ: 神奈川芸術協会 TEL 045-453-5080(平日10:00-18:00/土10:00-15:00/日祝休)

問い合わせ: NDT横浜実行委員会(アンクリエイティブ)03-6712-6973(平日10:00~17:00)

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