読みもの
2021.01.16
1月の特集「宇宙」

ピタゴラスやプラトン、ケプラーからたどる「音楽がもたらす宇宙の調和」

音階を発見したピタゴラスは「宇宙が音楽を奏でており、それがこの世の調和をもたらしている」と悟り、音楽は重要視され、ハーモニーという言葉もこの流れから生まれました。「宇宙と音楽はつながっていて、音楽を知れば宇宙を知ることができる」——音楽と宇宙の深い関係について、天体観測を趣味とする大井駿さんが解説します!

天体観測愛好家
大井駿
天体観測愛好家
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

秋の天の川(撮影:大井駿、場所:鳥取・佐治)

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昔の人たちは、宇宙が音楽を奏でていると信じており、音楽はそこから発展を遂げました。音楽と宇宙の深く、切っても切り離せない関係についてご紹介します!

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ピタゴラスから発展した「宇宙のハーモニー」

音楽と宇宙の関係は紀元前500年ごろに遡ります。

中学校の数学の授業で、一度は耳にしたことがあるピタゴラス(紀元前582〜紀元前496年)。数学者の彼は、「この宇宙のすべては、数字による調和と秩序によって成り立っている!」という考えを持っていましたが、ピタゴラスがこの考えを持つきっかけとなったのは、音楽でした。

実はピタゴラスがいなかったら、今の音楽はまったく違ったかもしれないのです。というのも、ピタゴラスは、きれいに響く音程は単純な整数比であらわせることを発見し、現在使われているものの基本となる音程を決めました。

その音程とは、例えば1オクターヴ(完全8度)=2:1、ドとソの音程(純正完全5度)=3:2、ドとファの音程(純正完全4度)=4:3、ドとレの音程(全音)=9:8のような音程で、この音程を同時に鳴らすと、雑音のないきれいな音で響きます。

この発見から、「こんなこと、偶然ではないはずだ! きっときれいな音程が単純な整数比であらわせるなら、宇宙のことだって数字で全部説明がつくはず……音楽は自然の理なのだ!」という考えに至り、ピタゴラスと弟子たちは、数字を通した音楽と宇宙の関係について熱心に考えるようになります。

いろんな大きさの鐘を叩いて音程の調和を確かめるピタゴラス

ピタゴラスの時代に信じられていたのは、天動説。当時はみな、太陽や月が地球の周りを動いていると信じ、「なぜ星たちがぶつかることなく、同じリズム(周期)で回転しているんだろう……」と考えていました。

そこでピタゴラスは、「ものが動くと音がする。天体も実は動くときに音を発しており、それらは調和する音程である。この音の調和が、宇宙の調和を生み出している。しかし我々の耳は貧弱なので、崇高な宇宙の調和を聞くことはできない」と主張しました。すなわち、「宇宙が音楽を奏でており、それがこの世の調和をもたらしている」ということです!

そして、宇宙の奏でる音楽を「天球の音楽」と呼びました。

いわゆる誕生星座に用いられている黄道十二星座をはじめとする「トレミーの48星座」を作った天文学者プトレマイオス(83〜168年)も、音楽によって宇宙の不思議を解き明かそうとしたうちの一人でした。

プトレマイオスは、地球を周回する星の動きと音階の動きを同じものとして捉えていたため、ピタゴラスの音階における音程に手を加え、さらに歪みをなくしたものに改良しました。

プトレマイオスのテトラコード音律による試奏

デューラーが書いた、プトレマイオスの星座の図(1515年)

このときに用いられたのが、調和という意味の言葉、「ハーモニー」です。

ギリシア神話の調和を司る神様ハルモニアが語源で、もともとは宇宙などの調和を表す言葉として使われていました。のちに、フランスの作曲家ラモー(1683〜1764)が『和声論(1722年)を出版してから、ハーモニーは和声という意味でも用いられるようになりました。

『和声論』
J.Ph.ラモー著、伊藤友計訳
音楽之友社刊
2018年

古代ギリシアの大学で音楽は天文学と並んで必修科目に

ピタゴラスの思想はあまりにも大きな影響を与えたため、音楽は宇宙の謎を解くうえで、価値のある学問として一目置かれることとなります。

紀元前387年、哲学者のプラトン(紀元前427〜紀元前347年)がアカデメイアという学園を設立します。

ピタゴラスの考えを受け継いだプラトンは、「音楽は宇宙の調和だけではなく、人間に調和を与え、魂が救済される」とし、学園のカリキュラムに音楽を積極的に取り入れました。

プラトンが作った学園アカデメイア跡地。ギリシャのアテナイ近郊にある。

さらに13 世紀になるとヨーロッパ各地に大学が設立されます。

ここでは一般教養として「自由七科」と呼ばれる、7つの学問を学ぶことが必修とされました。言葉に関わる3つの科目(文法、修辞学、論理学)に加え、数に関わる4科目として算術、幾何学、天文学と音楽です。なかでも、天文学と音楽は互いに近い学問として、音楽の調和と宇宙の調和の関連性などを議論したとされています。

そして、これらを修めた人だけが、哲学、神学、そして医学を勉強することが許されたのです。

この頃はすでに、それぞれの学問が発達していましたが、このような教育システムで学んだ天文学者や音楽家の中には、宇宙と音楽を切り離して考えられない人も数多くいました。

惑星の動きに音楽的な調和を見出したケプラー

天文学者ヨハネス・ケプラー(1571〜1630年)も、音楽と宇宙を並べて研究したうちの一人です。彼は、万有引力の発見につながる法則や、惑星の軌道が楕円であることを発見しました(実は地球もすこーしだけ楕円を描きながら太陽の周りを回っているんです!)。

ケプラーも、晩年の大作である『宇宙の調和』という本のなかで、「惑星の動きには音楽的な調和がある」と主張し、惑星の動きに合わせた音階まで作ってしまいました!

左:ヨハネス・ケプラー
下:ケプラー『宇宙の調和』より「月、惑星の音階」
左上から土星、木星、火星、地球、金星、水星、月。

これらは、楕円形に回る惑星の、太陽から一番近い点(近日点)と遠い点(遠日点)の差から導き出された音階です。例えば、金星(Venus)は太陽系の中でも真円に近い軌道を描くため、同じ音にとどまっていますが、惑星の中でももっとも歪んだ軌道の水星(Mercurius)は、一番振れ幅の大きな音階となっています。

ちなみに、近代の作曲家ヒンデミット(1895〜1963年)は、ケプラーの思想に影響を受け、ケプラーの著作と同名の《宇宙の調和》というオペラを書いています。冒頭はケプラーの書いた地球(Terra)の音から始まります。

ケプラーの生涯を描いたオペラなのですが、終盤には太陽、月、惑星たちが登場し、「知ること、学ぶことを超えたすぐそこに、きっと宇宙の調和の真実がある!」と大合唱します。

ヒンデミット:歌劇《宇宙の調和》〜前奏曲

ヒンデミットの歌劇《宇宙の調和》より前奏曲の冒頭

それでも宇宙と音楽はつながっている

ケプラー以降、「それでも地球は動いている」という言葉で有名なガリレオ・ガリレイ(1564〜1642年)を筆頭に、データ重視の即物的な研究が盛んとなり、音楽と宇宙を結びつけて考えることが少なくなっていきました。

そんなガリレオ・ガリレイですが、もともと音楽家の家庭で生まれ育ち、父親ヴィンツェンツォが作曲したり、音響を研究したりする背中を見て、ガリレオ自身も物理学、天文学に興味を持ったそう。

「宇宙と音楽はつながっていて、音楽を知れば宇宙を知ることができる」

今ではこのような考えを持つ人は少ないですが、かつて音楽が宇宙を知るうえで重要な学問と位置付けられ発展してきたことを考えれば、実は音楽は宇宙を抜きにしては語れないのです!

夏の大三角(撮影:大井駿、場所:鳥取・佐治)
こと座のベガ(右)、はくちょう座のデネブ(左)、わし座のアルタイル(下)を結ぶ夏の大三角。真ん中に天の川が流れています。
この3つの星座は、音階を研究したプトレマイオスが作ったものです。

参考文献
アリストクセノス/プトレマイオス『古代音楽論集』(西洋古典叢書)
ケプラー『宇宙の調和』(工作舎)
キルヒャー『普遍音楽 〜調和と不調和の大いなる術〜』(工作舎)
廣川洋一『プラトンの学園アカデメイア』(講談社)

天体観測愛好家
大井駿
天体観測愛好家
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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