読みもの
2021.01.27
特集「宇宙」

ホルスト《惑星》と西洋占星術の深い関係を青石ひかりが解説!

ポップスなどでもカバーされる「ジュピター(木星)」を始め、7つの惑星を巨大なオーケストラで壮大に描くホルスト作曲の《惑星》。これらの曲の発想の源は天文学ではなく、ホルストがハマっていた占星学! 西洋占星術研究家の青石ひかりさんが、それぞれの曲(星)のもつ意味と星座の関係を紐解きます。

青石ひかり
青石ひかり 西洋占星術研究家

1994年から女性誌・一般誌を中心に占い原稿を寄稿。アーティスト、ミュージシャン、演奏家のホロスコープを診断した連載も『STUDIO VOICE』等カルチャー誌に執筆...

ホルストの《惑星》作曲に大きな影響を与えた占星術師アラン・レオのネイタル・チャート(生まれた日時の星座配置)。

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

占星術大国イギリスが生んだ管弦楽曲

グスターヴ・ホルストが作曲した組曲《惑星》には、各曲に「戦いをもたらす者」(火星)、「平和をもたらす者」(金星)、「翼のある使者」(水星)といった副題がつけられています。火星は軍神マルスを、金星は美の神ヴィーナスを、水星は知の神マーキュリーを表しており、それぞれの神のキャラクターが、楽想に影響を与えていることに、占星術を知る者は「ニヤリ」としてしまうのです。

続きを読む

この管弦楽曲の創作に霊感を与えたのは、天文学ではなく占星学であり、ホルストは1910年代に占星術にハマり、これに関する書籍を読み耽っていたといいます。元々インド文学や神秘学など、広範なジャンルに好奇心をもっていたホルスト。中でも「近代西洋占星術の父」と呼ばれるアラン・レオには深く傾倒し、レオの著作が《惑星》に多大なる影響を与えたことは有名です。

グスターヴ・ホルスト(1874~1934)
イングランドのグロスターシャー生まれ、近代イギリスを代表する作曲家のひとり。
アラン・レオ(1860~1917)
ウェストミンスター生まれの占星術師、作家、出版社、占星術データコレクター、神智学者。「現代占星術の父」と呼ばれる。

ホルストもアラン・レオも英国人ですが、もともと英国には占星術の正統的な伝統があり、伝説的な人物にはロンドン大火や清教徒革命を予測したウィリアム・リリーがいます。占星学協会の本部もあり、ケーブルテレビにも「占星術チャンネル」がある国ですので、ホルストがここに興味関心を抱いたとしても不自然なことはありません。

1910年代はヨーロッパで降霊術などがブームとなった時代で、ドビュッシーもロシアの霊媒師ブラヴァツキー夫人と親交を深め、一緒に撮影した写真が残っています。

ウィリアム・リリー(1602~1681)17世紀イギリスの占星術師。
ヘレナ・P・ブラヴァツキー(1831~1891)
ロシア生まれアメリカやヨーロッパで活動、大衆的オカルティズムに影響を与えた。

「火星」戦いをもたらす者

なぜホルストの《惑星》が、太陽に近い順番「水金地火木……」ではなく火星から始まるのか、謎に思われる人も多いかもしれませんが、火星は牡羊座の支配星であり、黄道12宮(占星術において、黄道が経過している12の星座のこと)のスターター星座である牡羊座の支配星「火星」から始まるのは、非常に納得がいきます。金管が勇ましく、闘いの前の不穏な緊張感も表れています。

支配星とは
各星座には、それぞれ縁の深い天体が「支配星」として配当されています。
その天体は、支配星として所属する星座=オウンサインに入っているとき、一番パワーを発揮します。
 

火星の呼び名は「マルス(マーズ)」ですが、ここで思い出されるのはローマ神話の軍神マルスです。マルスは農耕の神でもあり、農耕の始まる3月の神でもあります。まさに牡羊座の神です。石器時代に始まる人間のもっとも古い本能は、戦闘精神にあったともいわれます。トロンボーン奏者でもあったホルストだけに、ホーンセクションの存在感が大きいですが、火星から天王星までの6曲は最初、2台のピアノのために書かれていました。牡羊座の人は、「俺の曲だよ火星」と思って聴くと楽しいです。

「金星」平和をもたらす者

うっとりするような美しい曲です。金星=ヴィーナスは愛と美の女神、牡牛座と天秤座の支配星で、牡羊座の火星の後に、牡牛座の金星が来るのはいかにも占星術的です。火星が男性的でアグレッシヴなのに対して、金星は穏やかで受け身、水のようなしなやかさを表現しています。ホルストは永遠に女性的なるものをイメージして書いたのかもしれません。ラスト近くのチェレスタのキラキラしたサウンドは、ヴィーナスのベッドに金色の雨に変身したゼウスを想像させます。

ちなみに乙女座のホルストのネイタル・チャート(生まれた日時の星座配置)では、水星と木星の2つの天体が天秤座にあり、「平和なるもの」をつねに美徳として考えていたふしが。「金星」には作曲家の理想の世界が描かれているように思えてなりません。牡牛座と天秤座のテーマ曲です。

ルネサンス期イタリアの画家サンドロ・ボッティチェルリ作『ヴィーナスとマルス』

「水星」翼のある使者

水星はローマ神話のメルクリウス=マーキュリーを象徴しています。双子座と乙女座の支配星。ころころ転がる水銀のようにとらえどころがなく、火星と金星が「男」と「女」だったのに対し、非常に中性的です。ギリシア神話ではヘルメスに当たり、雄弁家、盗賊(!)、商人、職人を庇護する神。この後に登場する「天王星」と「水星」は、象徴的に「ハイ・オクターヴ」の関係にあります。水星がよりハイテクで高度になった惑星が天王星なのです。ホルストは恐らく、そうした象意も考えていたのではないでしょうか。双子座と乙女座は、落ち込んだときにはちょっぴりひょうきんな感じのするこの曲を聴いて元気を出しましょう。

ロココ期のイタリア人画家ドナート・クレティ作『メルクリウスとパリス』(一部)

「木星」快楽をもたらす者

実質、《惑星》の代表曲。歌詞がつけられ、イングランド国協会の聖歌「我は汝に誓う、我が祖国よ」にもなっています。

木星=ジュピターはローマ神話のユピテル、ギリシア神話のゼウスと呼応します。ユピテルもゼウスも好色な神として描かれることが多いので「快楽をもたらす者」となったのでしょう。木星は太陽系最大の惑星であり、占星術における最高のラッキー・スターです。射手座の支配星なので、実を言うと射手座は「生まれてきただけで丸儲け」な星座なのです。

ホルストの曲は、木星を守護星としてもつ射手座の2つのキャラクターを表現しているようにも思えます。前半では、ハイテンションでイケイケな性格を、後半のアンセムでは、おおらかで寛大な性格を伝えてきます。トロンボーンは射手座の楽器、と私は勝手に決めているのですが、この曲でもトロンボーンは大活躍ですね。金管のフレーズがなんとなく「天の星座っぽい」書かれ方をしているようにも思います。

アイルランドの画家ジェームズ・バリー作『イダ山上のユピテルとユーノー』

「土星」老いをもたらす者

土星=サターン。ローマ神話のサトゥルヌスで、ギリシア神話のクロノスに呼応します。木星が拡大発展を象徴する天体なのに対して、土星は制限や制約を意味する天体なので、ホルストも悲観的に書いています。

時の神クロノスの惑星を支配星としてもつのは山羊座。山羊座は成熟の星座であり、大人になるのが早い星座ですが、「老いをもたらす星」に守られているが故かも知れません。土星は「時は有限である」と伝えてきます。青年老いやすく学成り難し。重々しいサウンドが曇り空のように分厚く重なり、ラスト近くの執拗なゴングは「時間切れ」のサインのようにも聴こえます。ちょっと悪夢のようにも感じられる曲ですが、痛みに強い山羊座には応援歌となってくれそうです。

マニエリスム期イタリアの画家ジョルジョ・ヴァザーリ作『サトゥルヌスとウラーノス』

「天王星」魔術師

デュカス作曲の交響詩《魔法使いの弟子》によく似ていますが、実際ホルストはこの曲に影響を受けて天王星の曲を書いたと言われます。天王星は水瓶座の支配星。怒りと驚きを象徴する「ビックリ星」でもあります。

ギリシア神話の天空神であるウラヌスは果てしなく巨大な身体を持ち、怒りっぽく残酷で、宇宙神ガイアの息子にして夫。12神を儲け、そのうち醜い子どもを幽閉したためにガイアの怒りを買い、男性器を切り落とされてしまいます。このとき流れ出た血から、また新たな神々が生まれたとか……奇想天外な神であることには間違いありません。「フニクリフニクラ」を思わせるところもあり、終わり方も唐突です。雷を思わせるティンパニが、とてもウラヌス的。

ドイツの建築家カール・フリードリッヒ・シンケル作『ウラヌスと踊る星々』

「海王星」神秘主義者

さすがホルスト。占星術の知識がないと、この曲は絶対に書けません。茫洋としてつかみどころがなく、最期に出てくる女声合唱も大変「あの世」的です。ラストの反復記号は「音がなくなるまで繰り返すこと」という指示がついています。

ホルストが《惑星》を作曲した当時、海王星が太陽系の最遠の惑星でした。海王星はローマ神話のネプチューン神(ネプトゥーヌス)、ギリシア神話のポセイドンに当たり、魚座の支配星です。この神の祟りに合うと河川が氾濫し、その土地は水に埋もれてしまったといいます。ケルト神話、ペルシア・インド神話にもネプチューンと同源の神がいて、古来から人々の自然観と深い関わり合いをもっていたことがわかります。魚座のコミュニケーション・スタイルは「境界が消える」こと。距離感がテーマの天秤座とは正反対です。また、年齢でいうと後期高齢者の年齢粋に当たり、すべてを生きたあとの「恍惚の境地」が海王星の時間だとも言われています。エンディングに向かって、天国へのエスカレーターを上っているような気持ちになるのは、そのせいかも知れません。

ヴェルサイユ宮殿の装飾画家ルネ=アントワーヌ・ウアス「ミネルウァとネプトゥーヌスの紛争」

2000年には、ここにホルスト協会の会長であるコリン・マシューズが書きおろした「冥王星・再生をもたらす者」が加わります(天文学的には冥王星は1930年発見され太陽系第9惑星とされていたが、2006年準惑星に降格。しかしながら占星術では膨張・増幅の象意をもつ重要な天体として、冥王星の地位は揺らぐことがない)。

指揮者ケント・ナガノがマシューズに作曲依頼をし、英国ではホルストの曲の後に「冥王星」プラスで演奏される機会も増えているとか。冥王星=プルートは蠍座の支配星です。

知恵によって「太陽系のハーモニー」を描く

ところで、蟹座・獅子座はこれらの曲と関係がないことになってしまいますが、その理由は、蟹座の支配星が月で、獅子座の支配星が太陽だからです。

クラシック音楽は元来、閉じ込められた個体から広い空間に飛翔していくような広がりをもつジャンルだと感じます。ホルストが占星学という「知恵」を得て、広大な宇宙を描こうとしたことは、ごく自然な衝動に思えます。乙女座のホルストにとって、霊感の源はつねに「書物」でした。知が憧れを生み、創造性を増幅し、果てしない宇宙への観想を誘発しました。ホルストの行動規範となる火星も、文字情報と関わりの深い乙女座にあり、神秘の星・海王星(牡牛座)と理想的な配置をとっています。作曲家は惑星のハーモニーとダンスを描きたかったのでしょう。

物理的に、惑星は大変な速さで自転を行なっているため、個々の天体がその大きさと自転周期に沿った「音楽」を奏でています。ただの轟音かも知れませんが……まだ誰も聴いたことはありません。太陽系の天体の「リアルな」ハーモニーを想像するのも、面白いです。

青石ひかり
青石ひかり 西洋占星術研究家

1994年から女性誌・一般誌を中心に占い原稿を寄稿。アーティスト、ミュージシャン、演奏家のホロスコープを診断した連載も『STUDIO VOICE』等カルチャー誌に執筆...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ