読みもの
2023.09.26

弁護士・阿友子の ミュンヘンからの音楽便り#4 日墺に残された、戦時加算という代償

大好評のONTOMO連載「インターネットと音楽についての法律相談室」でおなじみの弁護士、橋本阿友子さんが、ミュンヘンでの研究生活や、社会人として音楽を学ぶ意義を考えながら徒然なるままに思いの丈を綴る連載。
今回は、友人を訪ねて行ったウィーンで、いやおうなしに想起させられたという「戦時加算」にまつわる話をお届けします。

文・写真
橋本阿友子
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橋本阿友子 弁護士・骨董通り法律事務所

京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。ベーカー&マッケンジー法律事務所を経て、2017年3月より骨董通り法律事務所に加入。東京藝術大学利益相反アドバイザー、神戸...

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ザルツブルク音楽祭、故サバリッシュ私邸でのコンサートをはじめ、イベントが盛りだくさんだった8月が終わり、9月になりました。早いもので、今年も残すところ3か月と少し。空がぐんと高く見える秋は、本来私のいちばん好きな季節なのですが、ここミュンヘンでは、日がどんどん短くなり、暗く寒い冬が迫ってくることに日々、戦々恐々としています。

季節の変化を楽しもうと思い、中庭に実ものをあしらった途端、夏に萎れたはずの薔薇が再び蕾を膨らませ、とうとう花を咲かせました。秋らしさの方は窄みましたが、中庭が一気に華やぎました。
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音楽祭のあったザルツブルクは、ミュンヘンから電車で2時間弱。オーストリア支配下に入る前にはバイエルン王国に併合されていたという歴史的背景のためか、異国にもかかわらずドイツ国内やバイエルン地方限定の電車のチケットで行けてしまう、お得な観光地です。Salz(塩)Burg(砦)との街の名が示すとおり、岩塩がその経済を支えていたといいます。

ミラベル宮殿から望むホーエンザルツブルク城(左)と、同城から望むザルツブルクの街(右)。千住明氏の音楽が見事にその世界観にハマっていた某RPGの舞台と似ている気がするのですが、同ゲームでも、塩が生殺与奪を握る資源として描かれています。
音楽祭では、会場で出会った方とホテルで深夜までお茶をご一緒していたら、この日の出演者だったルノー・カピュソンと遭遇するという幸運にも恵まれました

9月中旬には、バイロイトとニュルンベルクで一緒だった友人を訪ねてウィーンへ。ザルツブルクが音楽の街ならば、ウィーンは音楽の都。ザルツブルクに限らず、オーストリアは歴史的にドイツとは切っても切り離せない国で、この連載の前回に登場したナチスの指導者ヒトラーの出身地でもあります。ヒトラーは第二次世界大戦中、ドイツとオーストリアを併合しましたが、戦争に敗れたことで両国は連合国により分離させられ、今はそれぞれ独立した国となっています。

1938年にヒトラーが、ドイツによるオーストリア併合の演説を行なったバルコニー。左:ホーフブルク宮殿(王宮)、右:ウィーン市庁舎

連合国という言葉を聞くと否が応でも想起させられるのが、「戦時加算」。著作権は、創作時に自動的に発生し、一定の時が経てば自動的に消滅します。この創作から消滅までの、著作物が保護される期間を文字通り保護期間といい、日本では、創作時から著作者の死後70年を経過するまでと定められています。

しかし、著作権がいつ“切れる”かの計算は、死亡年に70を足せばよいといった単純な話ではありません。計算を煩雑にしている要因のひとつが、著作権法とは別の、「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」。この法律は、戦中、連合国(民)の著作物が使用されなかったことへの補償のため、終戦前に創作された連合国(民)の著作物を日本で利用する際には、通常の保護期間に「戦時」を「加算」することを義務づけています。

「戦時加算」が敗戦国に課せられた不平等条約のひとつならば、敗戦国はみな同じ境遇なのでは?と思われるかもしれませんが、実はドイツでは、著作権についての戦時加算はなされていないようです。また、イタリアにも戦時加算の考え方はありますが、同国は途中で枢軸国から抜けたためか、連合国側にも同様の加算義務を課しており、日本のように一方にだけ不利な内容ではありません。他方、オーストリアは7年の戦時加算が行なわれているとのことで、こちらは日本と同じく不平等条約の一つなのかもしれません。

暗い話題なので、写真だけでも明るく。ウィーン滞在は、友人(法政大学人間環境学部・教授 岡松暁子さん)のアテンドのお陰で、充実したものとなりました。Café Museumでウィーン名物のシュニッツェルを
ウィーン最古のカフェと言われているCafé Schwarzenberg で、私はザッハトルテを

実は、第一次世界大戦の際にも、戦時加算が行なわれたことがありました。また、2022年2月に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻に関して、ロシア政府が、ロシアに対して制裁を行なった国の知的財産の使用について、使用料を支払う義務はないことを発表したとの報道がなされています。その後、ベラルーシも、非友好国の海賊版を事実上合法化する新法に署名したとのニュースも目にしました。このように、著作権を含む知的財産は、戦時の政治的手段として利用されてきたのです。

敗戦の爪痕は、戦後80年が経とうとする今も、処々に残っています。そしてこの事実は、音楽に携わる人にとって、決して無関係ではないのです。

以上、たまたま立ち寄ったオーストリアに関連する著作権にまつわるトピックでした。次回こそ、満を持して「ミュンヘン」からの音楽便りをお届けしたいと思います……!

昔訪れたときは改修中だったので、楽友協会ホールの中には初めて入りました
楽友協会ホールは外観も美しい
文・写真
橋本阿友子
文・写真
橋本阿友子 弁護士・骨董通り法律事務所

京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。ベーカー&マッケンジー法律事務所を経て、2017年3月より骨董通り法律事務所に加入。東京藝術大学利益相反アドバイザー、神戸...

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