読みもの
2022.06.29

アーティスト名やマッチングは要チェック!今音楽好きが注目するNHKの Eテレ番組

NHK Eテレの番組改定ニュースは、春の風物詩のような存在だ。特に子育て世帯にとって、Eテレ子ども番組の時間割は、朝と夕方の時計代わりと言っても過言ではない。我が家でも、目覚まし代わりに『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』を、『忍たま乱太郎』が始まる前にはお風呂に……と、親子ともどもEテレありきの毎日を送っている。小さな子どものいる家庭は、なかなか腰を据えてテレビを見ることが難しいが、Eテレ番組は”ながら見”でも十分に素敵な音楽を感じることができる。本稿ではそんなEテレの音楽番組を中心に、この春の新しい動きやレギュラー番組の魅力を伝えたい。

NIEDA IKU
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編集、ライター、A&Rなど。神奈川県生まれ。音楽大学でピアノを専攻し、レコード会社に就職。その後出産を機にフリーランスに。好きな音楽は雑多でジャンルを問わず聴...

稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾による『ワルイコあつまれ』

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『ワルイコあつまれ』~RAM RIDERがアレンジした「ワルイコソーラン」

今回の改定の大きな目玉である、香取慎吾、稲垣吾郎、草彅剛による『ワルイコあつまれ』(土曜日 10:15〜10:45)のレギュラー化。本番組は、2021年度に4回特番として放送されており、好評を受けてのレギュラー化となった。世の中や社会への疑問などを子どもの目線で照らしていく少し斜めの着眼点がユニークで、子どもが記者となって大人を取材するコーナー「子ども記者会見」や、”稚語”を用いてプロの俳人が句を読む「稚語俳句」など、笑えて学べるコーナーが実に楽しい。

中でも音楽コーナー「おとなのダンス音楽」では、「シリシリダンス」や「ワルイコソーラン」といったキャッチーなダンスを扱う。「シリシリダンス」は、ルーマニア出身のアーティスト・マッテオが2013年に発表した《Panama》を原曲としたダンスで、2018年に動画共有アプリTikTokで流行したことも記憶に新しい。YouTubeでは香取慎吾がしんごちんというキャラクターに扮し、同ダンスを躍る映像も話題になった。

「ワルイコソーラン」は編曲を音楽プロデューサー・RAM RIDERが担当したことが音楽好きの間で話題を呼んだが、北海道の民謡として多くの人に耳馴染みのあるソーラン節を気鋭の音楽家がアレンジするという取り組みは、ただ楽しいだけではなく新しい音楽の可能性を知ることにも繋がっていくように思う。

一見関わりのなさそうな2つの要素を組み合わせることで思わぬ発見をさせる、ということは番組のテーマの一つであるように感じるが、根底に流れる、”子どもにもわかりやすく、大人も楽しめる”といったポイントを追い求めた結果、エンターテインメントとして強度の高いコンテンツが誕生しているとも感じるのである。

『星野源のおんがくこうろん』~「学び」の中に知的好奇心をくすぐる心地よさ

音楽を学ぶ、という点では完全に振り切っている番組がある。今年の2月から3月にかけて4回放送された『星野源のおんがくこうろん』だ。アーティスト星野源が、音楽に詳しい「かいせついん」(著名な音楽評論家が中の人として名を連ねる)たちと毎回一人の「歴史を変えた」音楽家にスポットを当て、楽しく音楽を学んでいくというコンセプト。

取り上げる音楽家は番組の独自視点が光るが、J・ディラの回(初回放送/2月11日)でJ・ディラの母親がビデオコメント出演した際には歴史的な瞬間を垣間見たような興奮を覚えたし、続くジョージ・ガーシュウィンの回ではピアニストの角野隼斗がコメント出演し、演奏も披露した。ガーシュウィンを得意なレパートリーとする今最も勢いのあるピアニストの出演により、SNSを中心に多くの反響が見られた。

真面目なテーマに真面目に収集された資料、プロの評論家のコメント……と、「学び」色が強い構成であるが、番組の内容はとてもわかりやすく、「かいせついん」であるパペットの存在が画的にも柔らかくしてくれる。この知的好奇心をくすぐる心地よさは『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』(2010年4月3日〜6月19日)を彷彿とさせるものがある。

長寿番組の音楽も大胆なマッチングでイメージチェンジ

『おじゃる丸』
『天才てれびくんhello,』

そのほか、長寿番組を彩る音楽のイメージチェンジも話題を呼んだ。1998年から長年にわたり人気の『おじゃる丸』の主題歌は、自身も子育て中の母親であり、作品のファンだと言う椎名林檎がエンディング曲を担当。「​いとをかし​」というタイトル、さらには歌詞字幕は縦書きという、作品とのシンクロ率の高さも印象的だ。

また、4月の改定期に先駆け、『天才てれびくんhello,』では、2月より音楽コーナー「MTK(Music Terebi Kun)」が8年ぶりに復活、子ども時代にMTKの大ファンだったというラッパーのあっこゴリラが楽曲《圧倒的》を書き下ろしている。彼女は、若い世代を中心に支持を集める存在であり、エイジズムやフェミニズムといった社会的発信も積極的に行なうアーティストだ。こういったマッチングの高いコラボレーションを大胆に叶えることができるのも、NHK Eテレならではの醍醐味だと感じる。

『クラシックTV』~「クラシックの持つ可能性を広げること」に向き合う

『クラシックTV』

コラボレーションといえば、清塚信也がMCを務める『クラシックTV』では放送開始時から「クラシックの持つ可能性を広げること」に向き合っている。6月9日の放送ではゲストに関ジャニ∞の村上 信五を迎えて、村上とクラシックとの出会いについてトークを繰り広げた。村上が好きなサッカーとクラシックとのコラボコーナーもあり、「サッカー×音楽」で活躍するユニット「LA CLASSIC」と清塚のスペシャル・パフォーマンスや、サッカー界のスター・メッシがピアノを弾く意外な姿を登場させるなど、クラシックという枠を超えて楽しめる番組となっていた。

*

ここで挙げた事柄以外にも、『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』が週3回に減ってしまった(その実は再放送が減り話数自体は増えた)ことや、『宇宙なんちゃら こてつくん』の主題歌の変更……など、Eテレの一挙手一投足に注目してしまう筆者だが、Eテレがこの春の改定で見せた新たな顔つきはとても芳醇で、子育て世帯のみならず、新たな音楽ファンを着実に増やしているように感じる。

『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』
『宇宙なんちゃら こてつくん』©Space Academy/ちょっくら月まで委員会2
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編集、ライター、A&Rなど。神奈川県生まれ。音楽大学でピアノを専攻し、レコード会社に就職。その後出産を機にフリーランスに。好きな音楽は雑多でジャンルを問わず聴...

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