読みもの
2019.03.18
日生劇場/特集「ホールでひとときを」

日生劇場で“人生を大切に生きる”ための舞台体験を——建築デザインと公演のやさしい演出が光る

クラシック音楽に限らずあらゆるジャンルの舞台を上演し、親しまれてきた日生劇場。劇場のエントランスに足を踏み入れた瞬間から、日常を離れて音楽と舞台の世界に没入できる仕掛けは始まっている。大人も子どもも一生忘れられない体験ができる秘密を、建築と公演の両面から伺った。

取材・文
岸純信
取材・文
岸純信 オペラ研究家

足が短いので、長いものを好みます。俳句よりは短歌、ツイッターよりはブログ。ネットとは書かずインターネットと記します。

提供:(公益財団法人)ニッセイ文化振興財団[日生劇場]
写真:ヒダキトモコ

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舞台上から見た客席。写真提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]

言葉が伝わる……創業者と設計者の強い想いが宿る空間

東京メトロ日比谷駅のA13出口すぐ、「雨も気にせず」たどり着けるのが、1963年のオープンから半世紀以上、劇場界の注目を集め続ける日生劇場である。

エントランスは天井やタイルに開館当時の雰囲気が漂う。

オペラやミュージカル、バレエに音楽劇、芝居も人形劇も、と扱うジャンルは幅広く、芸能人の公演も多いこのステージで、筆者がいつも思うのは、オペラの《魔笛》やオペレッタの《こうもり》など、「セリフと歌がかわりばんこ」の舞台で言葉がクリアに聴きとれること。

その秘密と劇場内部の魅力を公益財団法人 ニッセイ文化振興財団 日生劇場・劇場部長の松本勝嗣さんにお話しいただいた。

日生劇場・劇場部長の松本勝嗣さん。
東京・日比谷駅からすぐの場所に日生劇場は立つ。写真提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]

「日生劇場は1330席ありますが、オペラのようにオーケストラピットを作る公演だと1230席ほどになります。この劇場サイズですと、セリフも歌声も2階の最後方の席まで届きます。

当時の日本生命社長の弘世現氏は、若い頃の観劇体験から『いい舞台作品を観ると、人は、大切に生きよう、人を大切にしようと思うようになる』と、オフィスビルに劇場併設を考えました。その設計を、今や現代建築家としてますます評価が高まっている村野藤吾氏に託しました

建築で人の心によい影響を与える

村野氏は「人の心によい影響を与える」建築を目指された方だという。

観劇に来場されるお客様のことを、とことん考え抜かれたのだと思います。細部にわたるまでこだわり抜いたデザインを、今も新鮮に楽しむことができます。

劇場入り口を入ると、床一面の白い大理石、緩やかなカーブを描く石の柱、幾何学模様の劇的な天井空間が目に飛び込んできます。ふかふかの赤い絨毯が敷かれた大階段には、村野氏がデザインした手すりが当時のデザインのままあります。螺旋階段や客席に入る扉の取っ手、いろいろな備品に至るまで、すべてが村野氏のこだわり抜いたデザインです

幾何学模様がアルミで形作られた天井。丸みのある柱は、天井や床との接地面もなだらか。
有機的な形状の螺旋階段。
喫茶コーナーの椅子や机のデザインも村野藤吾によるもの。
蝶々の形の取っ手。直に触れる部分の手触りはやさしい。

確かに、日生劇場にはロビーにも座る場所が多く、美術品がいくつも展示され、ひとりでも二人連れでもゆったり過ごせる極上のスペースになっている。

劇場にいらっしゃったら、是非、手すりや取っ手に触れてみてください。そして、人目に触れないような支柱のつなぎ目や螺旋階段の裏側などにも目を向けてみてください。村野氏のこだわりが一人ひとりにいろいろな形で伝わってくると思います

手すりと柱の留め具にも手を抜かず、場所によって異なるデザインが施されている。
ステンレスの手すりは、つかまりやすい太さで滑らかな曲線に。
客席の天井。波を打つような曲面を埋めるアコヤ貝が、見る角度によって異なる輝きを放つ。
客席内の壁も曲面で、石の1枚1枚が職人の手作業で貼られていった。

ブドウ型の電球や、壁に飾られたシャガールの絵画など、ほかにも目を愉しませてくれる調度品が揃う。

「日生劇場には、子どもたちも来場します。弘世氏の『良質な作品を青少年に観てもらい、豊かな心を育んでほしい』という想いから、学校招待公演や夏休みのファミリー向け公演などを始めました。現在も中高生無料招待公演としてオペラやバレエを上演し、たくさんの中高生に来場いただいています。

温かく優しい雰囲気で心豊かになる空間として、これからも広く愛していただける劇場でありたいと思っています」

ブドウの房を模した電球。

大人も子どもも忘れられない舞台体験を

ここで、日生劇場の主催公演を牽引する芸術参与、演出家の粟國淳さんがご登場。公演を紹介いただいた。

日生劇場芸術参与、演出家の粟國淳さん。

一般のお客様への公演と中高生無料招待公演を行なっています。2019年の一般のお客様に向けては、2つのオペラと『日生劇場 ファミリーフェスティヴァル』を上演します。

6月のメルヒェン(童話)オペラ、フンパーディンクのオペラ《ヘンゼルとグレーテル》は日本語で、11月に僕が演出する悲劇のオペラ、プッチーニの《トスカ》はイタリア語で上演します(日本語字幕付き)

《ヘンゼルとグレーテル》(2015年)の舞台写真。撮影:三枝近志 提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]

「そして、夏の『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』も毎年人気の企画です。今年は、物語付きクラシックコンサート《アラジンと魔法のヴァイオリン》をはじめ、幼児からシニア層まで幅広い世代に楽しんでいただけるステージが目白押しです。ぜひ一度いらしてみて下さい!」

物語付きクラシックコンサート《アラジンと魔法のランプ》の舞台(2018年)。撮影:三枝近志 提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]
公演情報
NISSAY OPERA 2019『ヘンゼルとグレーテル』

日時: 2019年6月15日(土)、16日(日)各日 13:30開演

出演: 角田鋼亮(指揮) 、広崎うらん(演出・振付)、新日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)

曲目:          
フンパーディンク/『ヘンゼルとグレーテル』

料金: 全席指定【大人】S席9,000円、A席7,000円、B席5,000円、学生席3,000円 *

*学生席は日生劇場電話予約のみの取り扱い。28歳以下。 法令で定められた学校に在学中の方のみ有効。要学生証提示
*
学生席発売:2019年5月15日(水)10:00~

【小・中学生】S席4,000円、A席3,000円、B席2,000円

※公演日の時点で小・中学校在学中の方。未就学児入場不可

詳細はこちら

NISSAY OPERA 2019『トスカ』

日時: 2019年11月9日(土)、10日(日)各日 13:30開演

出演: 園田 隆一郎(指揮) 、粟國 淳(演出・振付)、読売日本交響楽団(管弦楽)

曲目:          

プッチーニ/『トスカ』

料金: 未定

詳細はこちら

日生劇場ファミリーフェスティヴァル2019

物語付きクラシックコンサート「アラジンと魔法のヴァイオリン」
日程:2019年7月20日(土)、21日(日)
料金:S席 4,000円 A席 3,000円
※中学生以下は半額

 

パペット・ファンタジー「ムーミン谷の夏まつり」
日程: 2019年7月27日(土)、28日(日)
料金: S席 3,500円 A席 2,500円
※中学生以下は半額

 

音楽劇「あらしのよるに」
日程: 2019年8月3日(土)、4日(日)、5日(月)
料金: S席 4,000円 A席 3,000円
※中学生以下は半額

 

谷桃子バレエ団 バレエ「眠れる森の美女」~日生劇場版~
日程: 2019年8月23日(金)、24日(土)、25日(日)
料金: S席 7,000円 A席 5,000円
(中学生以下は半額)

詳細はこちら

 

問い合わせ: 日生劇場 Tel.03-3503-3111(10:00〜18:00)

会場: 日生劇場

日生劇場

[運営] (公財)ニッセイ文化振興財団

[座席数] 1334席

[オープン]1963年

〒100-0006

東京都千代田区有楽町1-1-1

[問い合わせ]03-3503-3111

http://www.nissaytheatre.or.jp/

取材・文
岸純信
取材・文
岸純信 オペラ研究家

足が短いので、長いものを好みます。俳句よりは短歌、ツイッターよりはブログ。ネットとは書かずインターネットと記します。

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