読みもの
2022.08.03
「音大ガイド」6.音大・音大卒業生関連の取材

(4)音大に行く人生は幅広く奥深い 悩まなくても大丈夫 感性を磨けば進路は開ける

作・編曲の仕事と大学講師を両立している、堀優香さんにインタビュー。音大を目指す人たちがまず知りたい大学の選択や受験勉強の仕方、また音大でしか学べないこと、さらに卒業後の進路などなど、普通高校出身の堀さんに音大や「音楽人生」のリアルを伺いました。

*記事は内容の更新を行っている場合もありますが、基本的には上記日付時点での情報となりますのでご注意ください。

『音楽大学・学校案内』編集グループ
『音楽大学・学校案内』編集グループ 音楽之友社

執筆:堀内亮(音楽大学講師)、荒木淑子(音楽ライター)、各編集グループスタッフ。音楽之友社および『音楽大学・学校案内』編集グループは、1958年に年度刊行書籍『音楽大...

取材・文:青野泰史

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子どもの頃からピアノと作曲のレッスンを続けていました

――幼少期はどんな音楽環境だったのですか?

両親が音楽好きで、母は音楽教室でピアノや歌を教えていました。私は、とくに音楽に満ちたディズニー映画が好きで、その世界に入り込み登場人物になり切って歌っていました。情景や感情を表現するのが好きでしたね。私にとって、音楽は楽しい遊びの一つでした。

――習い事はされていたのですか?

幼稚園に入る前に、音楽教室でまずリトミック、追ってピアノを習い始めました。手を動かして遊んでいる感覚でしたので、弾いているのが楽しかったです。

その後小学生になって入ったコースは、年に1回生徒が作曲して発表するというカリキュラムになっていました。自分の弾けるレベルの曲を作って弾けるのが楽しかったです。

――作曲も習っていたと伺いました。

小学2,3年生の頃に、作曲も習ってみたら?という話になって。作曲の先生はとても優しかったです。先生がきれいな曲を作って、私がそれを初見で歌うと先生はとても褒めてくれる、という感じで楽しい授業でした。

そんな延長で、このモチーフと同じものを楽譜の中からほかにも探してみましょう、みたいなことで、実は基本的な楽曲の構造や和声などを学習していたんですね。

このピアノと作曲のレッスンは高校生になっても続けていました。

小学校1年生の頃。発表会でモーツァルトを弾きました。

初めて歩いた大学への道で、「私はここに行く!」と決めました

――大学の進学先を決めた経緯を教えてください。

高校の先生からの指導もあって、オープンキャンパスには1年生の時から行っていました。最初は、地元の県の国立大学教育学部の音楽コースを見に行きました。そもそも自分のなかで、音楽は外の習い事、学校は日常生活、と住み分かれていて、そこが一体化する「音大」の生活は、イメージできなかったんです。

――すると音大を検討したのはもっと後なんですね。

2年生のある日、母から「音大も行ってみたら?」と言われ、東京の音大の講習会に2校行ってみました。地方の高校生が「東京に行く」というのは一大イベントだったので、せっかくだからと若者の街渋谷や原宿へも行き、その足で芸大(東京藝術大学)にも行ってみました。

上野駅から上野公園を通って芸大に行く道を歩くと、そこには田舎の高校生が抱く大学生活への憧れのようなものが、すべて集約されていました。きれいな広い道、色とりどりの街路樹、レトロな建物……それを全身で体感したら、何の自信も根拠もないのに「私はここに行く!」と思ってしまったんですね。そこからは、まっしぐらでした。

作曲専攻は、はじめから決めていました。それは、それまで続けていたやさしい先生の楽しいレッスンの延長上にあったんです。

――受験勉強と入学試験はいかがでしたか?

受験勉強はそこから始め、まずはつてをたどって先生を探しました。楽典は、それまでの音楽教室のレッスンで、いつのまにか身についていました。

問題は和声です。これまでのレッスンで手と耳で実践していたことを、本で初めて読むルールにひたすら一致させていきました。またソルフェージュも別に通いました。あとは、芸大作曲科の試験対策もやりました。

入試は、自分を信じてやるのみ、でしたね。この分野には模試による偏差値もないし受験は初めてだし、つまり自分のレベルがわからないんです。それがかえって良かったのかもしれません。

千葉県君津市出身。幼少時から高校までヤマハ音楽教室でピアノ、作曲等を習う。中学の部活はソフトボール部。千葉県立木更津高校卒業。東京藝術大学音楽学部作曲科を経て、同大学院音楽研究科作曲専攻修士課程修了。在学中、長谷川良夫賞受賞。卒業時にアカンサス音楽賞受賞。これまでに、作曲を小島佳男、高畠亜生、野田暉行、安良岡章夫の各氏に、作曲理論を尾高惇忠氏に師事。現在、昭和音楽大学、同大学短期大学非常勤講師。活動内容等は自身のホームページにて

自分の感性を磨く、その手段を知る、それが私の7年間の勉強でした

――大学に入学して驚いたことはありましたか?

入学してすぐ作曲科の2年生の作品を聴く会があったのですが、全員現代音楽を書いているんだ、と驚きました。えらいところに入っちゃったなと(笑)。

また私は普通高校だったので、すべての教室が五線の黒板で、ピアノがあって、皆さんが廊下で音を出しているのが新鮮でした。様々な環境から入学する人も多いので、今まで出会ったことのないような背景の方が同級生になるのには驚きましたね。授業も、深堀りするばかりと思っていたので、科目の幅広さは衝撃でした。

――大学生活で最も学んだことは何でしょう?

1年生の時は、課題の楽譜を担当の先生に見てもらうと「具合が悪いね」とだけ言われて戻されていたんです。それはつまり、自分の感性を磨いて来い、ということでした。

感性を磨くためには、音楽をはじめ、映画、美術、文学など、多様な作品に触れて感じたものを吸収して自分の中に取り込むことが必要です。私が高校生のときに初めて芸大に行って感じたような、自分の心が震えるものですね。

そしてそれを取り込むためには、自分ならではの心がまえ、視点、スタンスも確立していくことが重要です。それが私の勉強の方向性でした。大学院を含めた7年をかけ、少しずつできるようになっていきました。

勉強は内に向けることでしたが 仕事はどんどん外に拡がります

――卒業間近になったとき、進路、仕事についてどのように考えていましたか?

在学中から、編曲の仕事や、地元の学習塾の先生のアルバイトをしていました。卒業後を考えたときに、引き続き学びたい意欲が強かったので、作曲する時間や環境は確保しながら継続的に収入を得る方向を模索しました。できれば音楽にかかわるほうがいいですよね。また、大学院まで行ったので、大学で教える仕事もしたかった。

――東京成徳大学で教えていらっしゃいましたね。

先に社会に出た友人から、幼児教育のコースの学生にピアノを教える講師の仕事を紹介してもらいました。学んできたこととジャンルは違うけれど、新しい世界なのでおもしろそうだと思いました。

その後は昭和音楽大学、同短大の公募に受かって、今に至ります。当初は週2日2コマずつから始めて、今は週10コマ程度に増えています。ソルフェージュ、和声学、楽典、管弦楽概論、対位法などを担当しています。ポピュラー音楽、バレエなど様々な専攻の人が同じクラスにいて、ユニークな環境です。

自分の言葉が学生の何かのきっかけとなり動いてくれるのを見ると、やりがいを感じますね。

――仕事は公募や紹介で見つけることが多いのですか?

最も重要なのは、先輩、後輩、同期とのタテヨコの繋がりです。フリーの先輩から、ホームぺージを作ると名刺代わりになって拡がりができ、仕事に繋がることもあると教えてもらったり。

また卒業したての頃は、皆さんいろいろ手探りでチャレンジしますから、旗揚げ公演の編曲を依頼されたり、ということもありました。

――学生時代との違いはどのようなことですか?

学生時代は内に向けて自分の感性を深めていくことがメインでしたが、卒業してからは外に向いて新たな世界をどんどん拡げていく感じですね。人との新しい出会いを繋いでいく。頂いた仕事を精一杯やる。すべてが勉強です。無茶な編曲の依頼もありましたが、まず考える前にやってみよう、と思っています。

音楽を学ぶ道に飛び込んだら そのあと存分に泳げます!

――今後、どのような未来を描いていますか? 

作曲はずっと続けていきたい。もちろん人に聴いてもらいたいのですが、それと同時に、変わってゆく自分のその瞬間を発見するが楽しみです。私の初演曲《三奏者のアンプリチュード》が披露された2022年6月1日の演奏会「21世紀音楽の会」で、初めて自分の書く音が少し変わったと思いました。今後も自分を見つめ、分析していきたいです。

また、幼児教育を学ぶ学生さんについて、ピアノを初めて学ぶときの嫌悪感を取り除く私ならではのメソッドを構築していければいいなと思っています。

私は話す力、書く力をもう少し付けていきたいと思っています。最近は、そのような「足りないところを求めて追いかけて勉強していく」のが、人生なんだなと思うようになりました。

――では最後に、これから音楽を学ぶ大学を目指す中・高校生にメッセージをお願いします。

音楽を学ぶ学校へ行っての人生は、思ったよりも幅広く奥深い。飛び込んだら、いっぱい泳げます。道のりはそれぞれです。人生、どうにでもなりますので、ここを選んだらどうなってしまうのか、と悩まなくても大丈夫です。

興味を持って感性を磨く、それが仕事につながる。結果がどんどん何かに繋がっていく、という未来へのおおらかな心を持つことが大事ですね。

「21世紀音楽の会」にて自作曲を初演したフルート奏者に拍手を贈る堀さん(撮影:進藤綾音)
■お知らせ1

堀優香さんのくわしい活動内容等はご自身のホームページにて! ときどきブログも更新中です。

■お知らせ2

堀さんも執筆陣に加わった受験生待望の新刊が、2022年7月27日に発売されました!

 

 

『音大入試の「楽典」解き方のコツ&過去問トレーニング』

 

本書は、楽典の基本知識をインプットした人が入試問題を効率的に解けるようになるために、出題パターン別に解き方のトレーニングを行う、これまでになかった画期的な一冊です。

 

 

菅原真理子(監修・著)、井上ゆり子、堀優香、辻田絢菜(著)

2022年7月27日発売、B5判、176ページ、税込1870円



本書は、25年にわたり『音楽大学・高校 入試問題集』楽典問題の解答・解説執筆の中心人物であり、音大附属音楽教室で多くの受験生の指導も長年行うことで、音大の入試問題に精通している「受験生の味方」菅原真理子氏監修によるものです。

 

これまで楽典の入試対策書籍は、基礎知識の本と問題集は刊行されていたものの、これを繋ぐ入試対策のための「アウトプット・トレーニング」が効率的にできる書籍が見当たりませんでした。

 

本書はそこを解消すべく、菅原氏はじめ執筆陣の総力による知識体系と指導経験をベースにして、解き方や間違えやすいポイントを「まるで隣りで教えているように」わかりやすく解説しています。

 

特長は、近年の出題傾向に対応・実際に出題された近年の問題を使用、難問・奇問・レア問を排しオーソドックスな出題のすべてに対応、スムーズに学習が進む出題パターン別のアウトプット練習、「あるあるミス」「解き方のポイント」など工夫を凝らしたレイアウトなどです。

『音大入試の「楽典」解き方のコツ&過去問トレーニング』

『音楽大学・学校案内』編集グループ
『音楽大学・学校案内』編集グループ 音楽之友社

執筆:堀内亮(音楽大学講師)、荒木淑子(音楽ライター)、各編集グループスタッフ。音楽之友社および『音楽大学・学校案内』編集グループは、1958年に年度刊行書籍『音楽大...

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