年金問題に揺れるパリ・オペラ座バレエ団が来日! 舞台も映画も見逃せない理由
2019年末年始にかけて行なわれた、フランスの大規模ストライキ。パリ・オペラ座も2か月に及ぶ前代未聞の休演、オペラ座前のダンサーたちの抗議活動も話題となりました。
2020年は、来日公演や映画館でも大注目のパリ・オペラ座。その最強クオリティを守ってきた「年金」とは!?
ナビゲーターは、フランス政府からの年金がそろそろ受給申請の時期とのこと、舞踊評論家・渡辺真弓さんです。
お茶の水女子大学及び同大学院で舞踊学を専攻。週刊オン・ステージ新聞社(音楽記者)を経てフリー。1990年『毎日新聞』で舞踊評論家としてデビューし、季刊『バレエの本』(...
350周年の年に異例の長期間ストライキ
パリ・オペラ座は、1661年、太陽王ルイ14世によって創立された王立舞踊アカデミーを起源とする世界最古のバレエ団である。2019年は、王立音楽アカデミー(パリ・オペラ座の前身)の創立からちょうど350年という記念すべき年に当たり、祝祭ムードが漂っていた。これに水を差したのが、昨年末から続くストライキ。
オペラ座では、昨年暮れから、政府の打ち出した年金制度の改革に反対して、ダンサーたちがストを起こし、オペラ、バレエともに公演が次々に中止に追い込まれたのだ。
12月は、バスティーユで、ヌレエフ演出・振付の豪華絢爛な『ライモンダ』が、ガルニエ宮でプレルジョカージュの現代バレエ『ル・パルク』が上演される予定だったが、12月3日の『ライモンダ』初日を除き、残りはすべて中止という異例の事態に陥ってしまった。
10年ぶりの『ライモンダ』、人気演目『ル・パルク』(写真左)の全キャンセルや、12月に予定されていたエトワールのエレオノーラ・アバニャート(写真上)引退公演なども中止・延期となった。
オペラ座の特権? フランスの年金問題
一体、何が原因だったのだろう。フランスでは、かねてから政府が年金制度の改革に着手するたびに大規模ストが発生してきた。今回は、一般の年金受給開始が62歳であるのに対し、オペラ座のダンサーは、42歳で定年を迎えると年金を受給できるという特権を廃止しようとする政策に反発したもの。
この特権はルイ14世の時代に認められたというから、いかにオペラ座のダンサーたちが優遇され、それによって世界最高峰のレベルが維持されてきたかが想像できる。もしこの特権が廃止されれば、優秀なダンサーの海外流出は避けられず、外国人ダンサーの比率が高くなれば、世界的にも類がない、エレガントな様式美を維持し続けることは難しくなるだろう。
2月1日、パリ・オペラ座で2ヶ月ぶりにバレエが幕を開けた。2020年3月の日本公演でも上演される予定のロマンティック・バレエの名作《ジゼル》である。本拠地での公演活動が早く平常運転に戻って、順調に来日公演が行なわれることを祈るばかりだ。
世界最強を保ってきた厳しいヒエラルキー
バレエ団は、2016年以来、人気エトワールとして一世を風靡したオレリー・デュポンが芸術監督に就任し、現在に至っている。約150名の団員が在籍しているが、そのトップに立つのが15名のエトワール(フランス語で「星=スター」を指す)だ。それに続くのが、プルミエ・ダンスール(女性はプルミエール・ダンスーズ)、スジェ、コリフェ、カドリーユの4つの階級だ。
詳しくは以前掲載された「芸術監督の仕事 ―― バレエ団の階級制度」を参考にしてほしいが、この厳しいヒエラルキーがダンサー間の競争意識を高め、世界最強のレベルを保つことにつながっていることは否めない。
日本公演の見どころ
今回の来日で上演されるのは『ジゼル』と『オネーギン』の2演目。
『ジゼル』は、過去の来日でもしばしば紹介されてきた。19世紀にパリ・オペラ座で初演されただけに、ロマンティックでエレガントな踊りには別格の味わいがある。
『オネーギン』は、巨匠振付家ジョン・クランコによる物語バレエの傑作で、シュツットガルト・バレエの看板演目としておなじみだが、それ以外のバレエ団の来日公演で上演されるのは今回が初めて。旬のエトワールたちが、2演目に登場し、タイプの異なる作品をいかに踊り分けるかが見どころになりそうだ。
まず、人気絶頂のマチュー・ガニオは、両演目の初日に出演。『ジゼル』で円熟の域に入ったドロテ・ジルベールと、『オネーギン』でアマンディーヌ・アルビッソン(2014年、タチヤーナを演じてエトワールに任命)と共演する。
エトワールになって16年。来日中は2演目で踊り、成熟した輝きを放ってくれることだろう。
©James Bort/Opéra de Paris
以前にも増して、女性らしく深みのある役作りが堪能できそうだ。
©James Bort/Opéra de Paris
『オネーギン』でタチヤーナを3回踊る。初日の3月5日は6年前、同役でエトワールに任命された記念の日。特別な夕べになりそう。
©James Bort/Opéra de Paris
若手のレオノール・ボラックは、両演目で若き貴公子ジェルマン・ルーヴェと組み、ジゼルとオリガを演じる。
妖精のように可憐な容姿で、オペラ座のアイドル的存在。
©James Bort/Opéra de Paris
ファッションの世界にも活躍の場を広げつつあり、魅力を倍加させているエトワール。
©James Bort/Opéra de Paris
ルーヴェと同世代で、前回2017年の日本公演で『ラ・シルフィード』を踊ってエトワールに任命されたユーゴ・マルシャンは、『ジゼル』でアルビッソンと、『オネーギン』でジルベールと共演。一回り成長した雄姿を見せてくれるにちがいない。
ノーブルでありながら、コンテンポラリーも自由自在に踊りこなす万能派。
©James Bort/Opéra de Paris
さらに、未来のエトワールと目される、プルミエ・ダンスールのポール・マルクのレンスキー、スジェのナイス・デュボスクのオリガも楽しみだ。『ジゼル』では、ペザント・パ・ド・ドゥのキャストも興味津々。オニール八菜は、連日ミルタで優美な舞台姿を披露してくれることだろう。
©Ann Ray/Opéra de Paris
©Svetlana Loboff/Opéra de Paris
日時:
2月27日(木)19:00
28日(金)19:00
29日(土)13:00/18:00
3月1日(日)15:00
会場: 東京文化会館
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
3月5日(木)19:00
6(金)19:00
7日(土)13:00/18:00
8日(日)15:00
会場: 東京文化会館
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
「パリ・オペラ座バレエ・シネマ2020」
来日公演のあと、スクリーンでもオペラ座バレエの魅力を味わってもらおうというのが。このシネマ企画。2012年以降、現在までにオペラ座で収録された舞台映像が上映される。芸術監督のルフェーヴル時代からミルピエ時代を経て、デュポン時代と、三代時代にわたって収録された貴重な映像が一挙に公開されるのは何とも嬉しい。
今年前半の3作品は、オペラ座総出演の『デフィレ』やランダー振付『エチュード』などを組み合わせた「パリ・オペラ座ダンスの饗宴」、バランシン振付『真夏の夜の夢』、「ミルピエ/ロビンズ/バランシン」きら星のようなエトワールが次から次へと登場し、華麗な妙技を繰り広げる。ため息の出るラインアップである。
東京都 東劇
「パリ・オペラ座ダンスの饗宴」
2020年3月20日(金・祝)~
「夏の夜の夢」
2020年5月1日(金)~
「ミルピエ / ロビンズ / バランシン」
2020年6月26日(金)~
愛知県 ミッドランドスクエアシネマ、大阪府 なんばパークスシネマ、兵庫県 神戸国際松竹、北海道 札幌シネマフロンティア
「パリ・オペラ座ダンスの饗宴」
2020年4月3日(金)~9日(木)
「夏の夜の夢」
2020年5月8日(金)~14日(木)
「ミルピエ / ロビンズ / バランシン」
2020年6月26日(金)~7月2日(木)
東京都 YEBISU GARDEN CINEMA
「パリ・オペラ座ダンスの饗宴」
2020年5月15日(金)~
「夏の夜の夢」
2020年7月31日(金)~
「ミルピエ / ロビンズ / バランシン」
2020年9月4日(金)~
料金:一般 3300円、学生 2500 円(学生証を提示)
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