読みもの
2023.01.07
『実践的和声学習の手引』翻訳者・山本明尚、監修者・森垣桂一のクロストーク

日本語版がついに出版!チャイコフスキーが著したロシア初の和声の教科書を読み解く

チャイコフスキーが著したロシア初の和声の教科書「実践的和声学習の手引」。ドイツ語版から123年ぶりに初の日本語版が出版され、話題を呼んでいます。その翻訳者と監修者が、この書の歴史的位置や日本の和声とのつながり、チャイコフスキーの作曲技法についてクロストーク!

小倉多美子
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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今、SNS上でも話題となっている、チャイコフスキーが著した『実践的和声学習の手引』。今から約150年前の1871年に書かれ、翌72年に刊行されたロシア初の和声の教科書です。

その後のロシアの音楽教育に多大な影響を及ぼした名著であり、チャイコフスキーの世代がロシアの音楽界の発展のために何を考えていたのか、当時のロシアの作曲家たちの和声への感覚も伺える貴重な教本で、発売からまもなく重版されるほどの関心を呼んでいます。

この書は1899年にライプツィヒでドイツ語訳が出版され(1900年にこのドイツ語版の英語訳が出版、2005年に再版)、このたび初の日本語版が出版されました。ドイツ語版から実に123年ぶりのことです。

翻訳にあたったのは、現在、ロシア国立芸術学研究所に在籍する山本明尚さん。次代のロシア・ソヴィエト音楽研究を担う気鋭の音楽学者です。そして、多くの大学で作曲・音楽理論の教鞭も執られてきた作曲家の森垣桂一さんが監修にあたりました。

邦訳刊行を実現したお二人に、この書の歴史的位置や、いわゆる「芸大和声」とのちがい等々、多岐に渡ってお話を伺うことができました。

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「実践的和声学習の手引」チャイコフスキー 著/山本明尚 訳/森垣桂一 解説
4,950円 (本体4,500円+税) 音楽之友社

1866年にモスクワ音楽院が開校されて以降、12年間にわたって音楽理論の教授として教鞭をとったチャイコフスキー。原書はこの間、学生たちに授業するため著されたもので、ロシア最初の和声の教科書である。在職中は幅広いジャンルの作品を数多く作曲した時期とも重なっているため、彼の作品の魅力を創り出している音楽技術の一部分を、この1冊から読み取ることもできる。また、和声の習得を目指す教科書としての利用も効果的である一方で、チャイコフスキーや同年代の作曲家たちが和声の各要素についてどのように学び、考え、作曲し、そして後進の指導にあたっていたのかをうかがうことができる歴史的・資料的価値も含む貴重な1冊。

ロシアの作曲教育の出発点となった書

――山本さんはモスクワに留学中ですが、この教本の影響を現在感じられることはありますか?

山本 150年ほど前の教本であり、モスクワ音楽院でも直接参照されることはほとんどないと思います。

この教則本以前にも和声の手引書や、教師から弟子へ口伝で教える伝統はあったと思いますが、ロシアの和声教育の歴史において秩序だった“教則本”の形で著された最初のものです。それが綿々と発展しながら今に伝えられているという印象はあります。

この教則本で使われている数字付き和声の用語など、基礎的な用語は今でも使われており、授業で習った内容がこの本の中にも出てきます。この本があったからこそ、タネーエフの作曲教育(※1)などが出来上がったということは言えると思います。

※1   タネーエフ:モスクワ音楽院でチャイコフスキー(作曲)、ニコライ・ルビンシテイン(ピアノ)に師事。1878年から母校で教鞭をとり、院長も務めた。教育者としてはスクリャービン、ラフマニノフ、プロコフィエフらの逸材を多数世に送り出した。

山本明尚(やまもと・あきひさ):1991年東京生まれの音楽学者。専門領域は19世紀後半~20世紀初頭のロシア芸術音楽。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。在学中に安宅賞、卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。同大学院音楽研究科修士課程修了。大学院アカンサス賞を受賞。現在、同大学院音楽研究科博士課程およびロシア国立芸術学研究所音楽史専攻に在籍。2017~20年日本学術振興会特別研究員(DC1)。2020~21年度ローム ミュージック ファンデーション奨学生。

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