読みもの
2020.06.30
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その10

ヴィヴァーチェ:意味は活気に満ちた。速いテンポを表す言葉ではなかった?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

コレッリ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ 作品5-4 ヘ長調 より 第3楽章 Vivaceの初版

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イタリア語で「いきいきとした」「活気に満ちた」という意味をもつヴィヴァーチェ。速いテンポを表す言葉だと思われがちですが、本来はそうでもなかったようです。

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ヴィヴァーチェという言葉が登場したのは、17世紀半ば。フランスの音楽学者ブロサールが1703年に音楽事典に「きいきと燃えるように。しばしば速く演奏されることも。ほぼアレグロに同じ」と記したことや、レオポルト・モーツァルト(モーツァルトのお父さん)が1756年に「速いテンポと遅いテンポのあいだくらいの速さ」と述べたように、当初はテンポを表す言葉というよりはむしろ音楽の表情に比重がおかれており、そこまで速いテンポでは演奏されなかったようです。

18世紀半ばまでは単独で用いられることが多かったヴィヴァーチェですが、それ以降は、当時すでにテンポを表す言葉として用いられていたアレグロと併記して「アレグロ・ヴィヴァーチェ (Allegro vivace)」のように用いられることが多くなりました。

アレグロ以外にも、ベートーヴェンが1807年に作曲した「ミサ曲 ハ長調 」作品86のキリエでは“Andante con moto assai vivace quasi Allegretto ma non troppo (十分にいきいきと元気よく歩くような調子で、おおよそ若干速めだが度を超えず)” という指示があり、落ち着いた遅めのテンポでも、いきいきとした雰囲気がほしい場合に用いられることもありました。

ただ、いきいきと活気に溢れる演奏はやはり躍動感をもつことが多いため、結果的に速いテンポでの演奏に繋がっていったのです。

ベートーヴェン:ミサ曲 ハ長調 作品86のキリエ (ピアノ・リダクション譜)
“Andante con moto assai vivace quasi Allegretto ma non troppo (十分にいきいきと元気よく歩くような調子で、おおよそ若干速めだが度を超えず)”という、周りくどいほどの長い指定が書かれていますが、当時耳の聞こえが悪かったベートーヴェが自分の頭の中のイメージをできるだけ正確に書こうとした結果、細かい指定になることが多かったようです。
ブラームス:弦楽五重奏曲第2番 ト長調 作品111 より第4楽章
“Vivace ma non troppo presto(いきいきと、しかし速すぎず)”との指定がありますが、あくまでもVivaceを音楽の性格、Prestoを音楽の速さとして捉えていたことがわかります。

ヴィヴァーチェを聴いてみよう

1.  コレッリ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ 作品5-4 ヘ長調 〜第3楽章 Vivace
2. L. モーツァルト:狩の交響曲〜第1楽章 Vivace
3. W. A. モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 KV551 《ジュピター》〜第1楽章 Allegro vivace
4. ベートーヴェン:ミサ曲 ハ長調 作品86〜第1曲キリエ Andante con moto assai vivace quasi Allegretto ma non troppo
5. ブラームス:弦楽五重奏曲第2番 ト長調〜第4楽章 Vivace ma non troppo presto
6. 
バルトーク:ピアノ五重奏曲 Sz.23〜第4楽章 Poco a poco più vivace (だんだんいきいきと)

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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