読みもの
2020.10.13
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その25

トランペット:紀元前1400年代に遡る歴史ある楽器

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

ペーメーの女神

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トランペットは、世界でももっとも古い楽器のうちの1つです。紀元前1400年代にはすでに、トランペットのような楽器を持つ兵士がヒエログリフとともに描かれています。

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アマルナ時代に彫られたトランペットを持つ兵士(紀元前1480年頃作)

その後、トランペットのような楽器がヨーロッパに入りました。当初、古代ギリシアのトランペットは巻貝のような形をしており、その様子から巻貝を意味するストロンボスと呼んだのが、トランペットの語源だと言われています。

世界最古の歴史書を書いたことで知られるヘロドトス(紀元前5世紀ごろ・古代ギリシア)は、「おならの音のようだ」と言ったそう。13〜14世紀に書かれたダンテの神曲でも、地獄でお尻の穴でトランペットを吹く様子が描かれていますが、そりゃこんな不届き者は地獄に落ちますよ!!

ダンテ『神曲』第21歌より、地獄に堕ちた者がお尻でトランペットを吹くイラスト。

ヨーロッパではまず、リトゥースという長い管を大きく巻いた形をした楽器ができました。兵士が持つ楽器です。さらに、10世紀にはツィンクイタリア語でコルネットという楽器も登場しましたが、今のトランペットの形とはかけ離れています。

リトゥースです。かっこいいですね!

しかし、バッハの時代はまだこれらの楽器は使われており、バッハのカンタータ第118番「おお、イエスキリストはわが命の光」では、この2つの楽器が指定されているのです。

J.S.バッハ:カンタータ第118番「おお、イエスキリストはわが命の光」
実際にリトゥースとツィンクが用いられている演奏。柔らかい音色です。

上の2段にはLituo(リトゥース)、その下にはCornetto(ツィンク/コルネット)と楽器が指定されています。

12世紀になり、音が明瞭に聞こえるクラリオン/クラリーノ(英語のclearと同義語)という楽器が登場します。現在のトランペットにとても近くなりました。

ギリシア神話にはペーメーという名声の女神がいるのですが、手に持っているのはこのクラリオン。ペーメーという名前から、英語の名声を意味するfameという言葉が生まれましたが、のちにバッハはブランデンブルク協奏曲第2番で、辺境伯の名声をトランペットにて表しました。(それに影響されて生まれたのが、ビートルズのペニー・レインの間奏です!)

ペーメーの女神

ヴェルディの歌劇《アイーダ》に登場する凱旋行進曲では、ヴェルディがさまざまな博物館へ足を運び、エジプトのトランペットを再現させ、「アイーダ・トランペット」を作りました。

トランペットは名声や名誉、そして勝利の象徴なのです!

トランペットを聴いてみよう

1. J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第2番 BWV1047〜第3楽章
2. F.J.ハイドン:トランペット協奏曲〜第3楽章
3. ハチャトゥリアン:交響曲第3番 作品67 (ソロ・トランペットが15人!)
4. アンダーソン:ラッパ(トランペット)吹きの休日
5. マイルス・デイヴィス:マイルストーン
6. ビートルズ:ペニー・レイン

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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