読みもの
2020.12.29
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その33

マズルカ:ポーランドのマズーリ発祥の踊り! 実は数種類の組み合わせ?!

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

マビーユ邸でマズルカを踊る人たち(E.C.F.ゲラール、1844年)

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3拍子の踊りであるマズルカは、ポーランド北東部の地名であるマズーリ(Mazury)に由来しています。英語では、マゾヴィア(Mazovia)と呼ばれます。

独特のアクセントとリズムが大きな特徴であるマズルカですが、マズルカはマズルカでも、実はさまざまな種類が存在するのです。ショパンのマズルカを例に、ご紹介いたします。

この記事を読めば、あなたもマズルカに詳しくなれる……はずです!

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マズール

まず、ポーランドのマズーリ発祥である踊りを、マズール(Mazur)と呼びます。

舞踏会で踊られるか、農民たちに踊られるかでアクセントの位置が異なることがありますが、下に示している《マズルカ 作品67-1》は、農民たちのあいだで踊られるものです。こちらには3拍目にアクセントがついており、3拍目で「ヘイ!」という感じで掛け声をかけながら踊られます。

ショパン:マズルカ 作品67-1 ト長調 フランス初版

特に、ポーランドの作曲家であるモニューシュコ(1819〜1872)が書いた歌劇《ハルカ》の農民が踊るシーンでは、かなり伝統的なマズルカが用いられています。

モニューシュコ:歌劇《ハルカ》 第1幕より「マズルカ(マズール)」

マゾエフ地方の民族舞踊グループ「ゼスプー・マゾフシェ」が踊るマズール

マズルカ/マズレク

現在一般的に知られているマズルカは、実は伝統的な踊りとは少し異なります。

現在のマズルカはポーランド語ではマズレク(Mazurek)と呼ばれ、上で紹介したマズール、オベレク(Oberek/速い踊り)、そしてクヤヴィアク(Kujawiak/遅い踊り)の3つが混ざった曲を指します。

ショパンが60曲近く作曲したマズルカは、この3つが混ざった作品となっています。ショパンの場合は、踊りの特徴をうまく捉え、自分が見聞きした旋律やリズムを取り入れて芸術的作品に昇華させました。

オベレクは、“プレスト”などの速いテンポで書かれていることが多いです。さらに、目まぐるしく動くメロディも特徴です。

ショパン:マズルカ 作品7-4 変イ長調(オベレク)、ドイツ初版

一方、クヤヴィアクは、強いリズムが少ないのが特徴です。

ショパン:マズルカ 作品63-3 嬰ハ短調(クヤヴィアク)、フランス初版

マズレク? マズルカ? 呼び方の謎

さて、マズルカの呼び名についてです。

マズルカは3つの踊りが混ざってはいるものの、基本的にマズールをベースに書かれています。そのためポーランド語で意味を弱くする接尾語「-ek」をつけた「Mazurek(マズレク)」と呼ばれるようになりました。日本語に訳すと「マズルカっぽい」という感じでしょうか。ちなみに、ポーランド語でマズルカは、正しくは「マズレク」と呼びます。 

では、なぜマズレクが正しい呼び名なのに、マズルカと呼ばれるようになったのか……ポーランド語では、「マズレク」が目的語になるときに、格変化をして「マズルカ」となります。それが外国人に定着して広まってしまったのです(例えば、「ショパンがマズルカを演奏する」をポーランド語でいうと、「Chopin gra mazurka」となります)。

紆余曲折ありましたが、マズルカはポーランドの象徴的な踊りで、ポーランドの国歌も「ドンブロフスキのマズルカ」というマズルカなのです。

これからマズルカを聴く際に、「これは3つのうち、どの踊りが混ざっているんだろう」なんて考えながら聴いて見るのも面白いかもしれません!

マズルカを聴いてみよう

1. ポーランド国歌「ドンブロフスキのマズルカ」
2. ショパン:マズルカ 作品56-2  ハ長調
3. ショパン:マズルカ 作品68-3 ヘ長調
4. ドビュッシー:マズルカ
5. スクリャービン:マズルカ 作品40-1 変ニ長調

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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