読みもの
2021.02.23
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その38

モデラート:「控えめな、節度ある」ってどれくらいの速さ?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

グリーグ「ピアノ協奏曲 作品16」第3楽章冒頭の自筆譜。
指示には「Allegro moderato molto e marcato」と書かれていますが、直訳すると「とても控えめに速めのテンポ、かつ音を強調して」という意味。なぜこのようなややこしい使われ方になってしまったのか、この記事で紹介します!

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楽譜やコンサートのプログラムを開くとよく目にする、モデラートという言葉。モデラートは、イタリア語で「控えめな、節度ある」という意味の言葉です。

これまでさまざまなテンポを表す言葉をご紹介してきましたが、モデラートは果たしてどのくらいの速さなのでしょうか……!

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モデラートという言葉が使われるようになったのは、テンポを表す言葉のなかでも少し遅い時期の17世紀の終わりごろ。当初は、フランス語で同じ意味をもつmodérémodérémentという言葉が使われていました。

ジョゼフ=ニコラ=パンクラス・ロワイエ(1705頃~1755年)によるクラヴサン曲集第1巻より「めまい」

モデラートが使われるようになってからすぐに出版された音楽事典(ブロサール、1701)を見てみましょう。そこには「モデラートは、強くなりすぎず、弱くなりすぎず、速くなりすぎず、そして遅くなりすぎず、節度をもって演奏されるときに使われる」と書かれています。こんなにいろいろと気を配らなければいけないなんて、なんだか疲れますね……。「じゃあどう弾いたらいいの?」と、演奏者を混乱させてしまう言葉だったので、使われることは多くありませんでした。

バッハもあまりモデラートを使うことがありませんでしたが、1738年に作曲された管弦楽組曲第2番のポロネーズの中に登場する、バッハの作品でも数少ないモデラートがとても興味深いのです。

バッハ 管弦楽組曲第2番 ポロネーズ冒頭

曲の最初に、lentement(遅く=レント)と書かれていますが、Continuo(通奏低音。低い音の楽器が演奏するパート)の部分に「モデラート、そしてスタッカートで」と書かれています。これはどういうことなのでしょうか。

モデラートがレントと同じくらいの速さだったのかもしれませんし、ここでのモデラートが「節度をもって控えめに」演奏する、という意味なのかもしれません。

バッハ:管弦楽組曲第2番よりポロネーズ

その後、モデラートは頻繁に登場するようになりましたが、やはり単体で表記されても理想のテンポがわかりづらいため、「アレグロ・モデラート(控えめに速く)」のように、他のテンポ表記とあわせて使われることが多くなりました。いわゆる、極端な解釈をされないための都合のいい言葉です。

このようにモデラートは、控えめに言って、使いやすい言葉となったのです!

モデラートを聴いてみよう

1. ロワイエ:クラヴサン曲集第1巻〜「めまい」
2. ハイドン:交響曲第42番ニ長調〜第1楽章Moderato e maestoso
3.ベートーヴェン:ピアノソナタ第31番変イ長調〜第1楽章Moderato cantabile e molto espressivo
4.
チャイコフスキー:バレエ「白鳥の湖」〜第1幕第2場より「小さな白鳥の踊り」Allegro moderato
5.
グリーグ:ピアノ協奏曲作品16〜第3楽章Allegro moderato molto e marcato
6.
ドビュッシー:《子供の領分》〜第4番「雪は踊る」Modérément animé

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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