読みもの
2021.03.09
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その40

ミサ:カトリックの典礼歌。名前の由来や基本の5曲をおさらい!

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

カトリックのミサ(ヒョードル・ブロンニコフ作、1869年)

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カトリック教会で行なわれる儀式、典礼のことを指すことば、ミサ。のちにミサで演奏される音楽のこともミサと呼ぶようになりましたが、この2つはどうしても混同してしまうので、記事ではミサで演奏される音楽のことを「ミサ曲」と呼ぶことにします。

カンタータと似ていますが、カンタータは同じキリスト教の別の宗派である、プロテスタントの礼拝にて演奏されます。

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ミサは、イエス・キリストが最後の晩餐で、弟子にパンを自分の肉、ワインを自分の血と見立てて分け与えたことを再現し、そして処刑ののちに復活したキリストを祝う儀式として、毎週日曜日に行なわれてきました。

レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》(15世紀末)

その儀式で読まれるラテン語の典礼文が、いわゆるミサ曲の歌詞となっています。

この典礼文は、ある程度の抑揚を持って読まれていました。たとえば、仏教における般若心経も、お坊さんが読む際に不思議な抑揚がありますよね。

こうして抑揚を持って読まれていたミサの典礼文を単純なメロディにしたグレゴリオ聖歌が、ミサ曲の始まりなのです。

グレゴリオ聖歌「キリエ」のネウマ譜 (中世で使われていた4線譜)
©︎University of Missouri-Kansas

ミサでは、決まった形式で、決まった文言(典礼文)が読まれます。最後に司祭が「イテ、ミサ・エスト(Ite, missa est)」と述べ、解散となるのですが、これがなぜか信者たちの耳に残ったそうです。そして象徴的な言葉として、真ん中の言葉だけを取って「ミサ」と呼ぶようになりました。

この言葉は「解散、(あなたたちは)使命を任された。」という意味で、ミサという言葉自体は使命を任される遣わされるという意味です。英語のmissionの語源でもあります。

さて、ミサ曲の説明に入りましょう。ミサ曲は合唱を伴い、その際の歌詞はラテン語で歌われます。そして、ミサの典礼中に歌われるため、歌詞や順番はすべて決まっています。

ミサ曲には、基本的に決まった5つの曲があります。そのなかのいくつかの曲を含まないもの(宗派による)や短いミサ曲は、小ミサ(ミサ・ブレヴィス)と呼ばれます。そして長さや編成など、規模の大きなミサ曲を荘厳ミサと呼びます。

基本の5曲がどんな内容なのか、少しご紹介します。なんだか難しい言葉が並んでいますが、これらの意味がわかると、それぞれの曲の持つ雰囲気が理解できるはずです!

キリエ(Kyrie)

ギリシア語で「主(=神)」を指します。

主に憐れみを乞う内容となっています。

なんと歌詞は「キリエ・エレイソン(主よ、憐んでください)、クリステ・エレイソン(キリストよ、憐んでください)、キリエ・エレイソン。」の3文のみ。

この歌詞の構造から、ABA形式(三部形式)といって、あいだに違う雰囲気を持つ部分が登場する形式で作曲されることが多いのです。すなわち、最初と最後の部分で「キリエ・エレイソン」が、あいだの部分で「クリステ・エレイソン」が繰り返し歌われます。

グローリア(Gloria)

ラテン語で「栄光」という意味。英語のgloryは、この言葉が語源です。

「グローリア・イン・エクチェルシス・デーオ」で始まり、神の栄光を讃える言葉を次々に歌い上げます。

クレド(Credo)

ラテン語で「信じる」を表すクレド。英語のcreditの語源となった言葉です。

「私は神を信じます」という冒頭の言葉の通り、神に対する信仰を宣言する内容です。

サンクトゥス(Sanctus)

ラテン語で「聖なる」という意味。

神に対する感謝を伝える内容です。

アニュス・デイ(Agnus Dei)

ラテン語で「神の小羊」という意味。

フランス語で子羊や、子羊の肉をアニョー(agneau)と呼びますが、アニュスはこの言葉の元となりました。

このアニュス・デイでは、世界の平和を祈る文言が並びます。

このように、決まった歌詞(典礼文)をもとに、それぞれの作曲家が多様な音楽をつけました。

逆に決まりを守って作曲すれば良いため、それ以外の部分は何をしてもいいのです。ロッシーニは、なんとおうちやサロンでも演奏できる「小荘厳ミサ」という作品を書き、ミサの概念をも打ち破りました!

ミサ曲は、制限のある音楽だからこそ、まさに作曲家たちの個性が光るのです。

モーツァルト《大ミサ曲 ハ短調 KV427》自筆譜、キリエ冒頭。

ミサ曲を聴いてみよう

1. グレゴリオ聖歌:キリエ
2. ギョーム・ド・マショー:《ノートルダム・ミサ》〜イテ・ミサ・エスト
3. バッハ:《ミサ ロ短調》BWV232〜サンクトゥス
4. モーツァルト:《大ミサ曲 ハ短調》KV427〜ベネディクトゥス

5. ロッシーニ:《小荘厳ミサ》クム・サンクトゥ・スピリトゥ

6. ギルマン:ミサ第3番作品11〜グローリア
7. ファンショー:アフリカン・サンクトゥス〜グローリア
8. チルコット:ア・リトル・ジャズ・マス〜グローリア

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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