読みもの
2021.03.23
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その42

ホルン:「動物の角」が由来。日常生活や貴族の趣味に欠かせなかった楽器

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ホルンの先祖・角笛を片手に狩猟をする人。上部に獲物を見つけたときに仲間に知らせるリズムが書いてあります(14世紀)。

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オーケストラでも吹奏楽でも大活躍の楽器、ホルン。ここぞという場面で頻繁に登場するホルンは、実にかっこいいです。

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ホルンは、動物の角を使った角笛を祖先に持ちます。

英語では、楽器のホルンも動物の角もhornと書きます。このことからもホルンが動物の角を使っていたことがよくわかります。

もともと、動物の角のことをラテン語でcornūと書いており、英語やドイツ語のホルンはここから派生しましたが、フランス語では後ろの部分が抜け落ちた形のcor(コール)、イタリア語でも似た形のcorno(コルノ)と呼ばれています。

6世紀ごろに使われていた角笛。
©The Trustees of the British Museum

角笛は狩や戦争の際に、仲間に出す合図として使われていました。動物の角を使っていると、どうしても壊れやすいため、たまに青銅器や金属などで代用していましたが、中世になると金属のものが主流となります。この頃は、構造や見た目が似ているため、トランペット(トロンぺ)とも呼ばれていました。

こうして形は変わったものの、人々に合図を出す、何かを知らせるという役割はそのまま保たれました。

そのなかでも3つのさまざまなホルンと、それらが用いられている作品をご紹介します!

アルプホルン

アルプホルンは、アルプスの谷の住民同士がコミュニケーションを取るために使われていました。1527年、スイス・ルツェルン近郊の修道院の帳簿に、アルプホルン奏者にいくらか支払われた記録が残っているのですが、これがアルプホルンの最古の記録です。

モーツァルトの父レオポルト・モーツァルトは、アルプホルンのために曲まで書いています……!

L.モーツァルト:アルプホルンと弦楽のための田園風シンフォニア〜第3楽章

アルプホルンの演奏風景。

ポストホルン

ホルンと関わりが深いのは田舎での生活だけではありませんでした。

ポストホルンは、18世紀から19世紀にかけて、郵便馬車が到着、出発する際に周りに知らせるために使われていました。そのため、ポストホルンの音を聴くと「あ、手紙出しにいかなきゃ!」と咄嗟に思ったそう。当時はメールもLINEもなく、コミュニケーション手段は手紙しかありませんでした。ポストホルンの音は、人々の生活の中で、大変重要な音だったのです。

さらに、郵便馬車は長距離移動の乗り物としても使われたため、音楽の中では旅立ちの象徴としても登場します。

現在でも、ドイツの郵便局のロゴには、ホルンが描かれています。

モーツァルト:セレナーデ第9番 KV385「ポストホルン」〜第6楽章 メヌエット
バッハ:カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」BWV992〜ポストホルン風のフーガ

ドイツの郵便局(Deutsche Post)のロゴ。

トランペットに似た楽器のコルネットは、ポストホルンを祖先に持ちます。音程の取りづらいポストホルンに、ピストンをつけたものが、コルネットになりました。そのため、コルネットという名前も、イタリア語でホルンを意味するcornoに、意味を弱める接尾語-ettoをつけてできました。日本語に訳すと、「小さなホルン」のような意味になります。

コルノ・ダ・カッチャ/ヤクト・ホルン

とある人たちの趣味にもホルンは大活躍しました。

王侯貴族の狩猟です。広い領地を持つ貴族は、まるでアクションゲーム感覚で、自分たちの敷地内で友だちと狩を楽しみました。身分の高い人たちの特権です。

王侯貴族の狩猟は、中世より長いあいだ行なわれ、音楽作品のなかでも身分の高い人の象徴として登場します。

ジャック・デュ・フイユ「狩り」(1561年)、猟犬とともに狩をする人のイラスト。
貴族のフイユは、猟犬を伴った狩に関しての本を出版しました。イラストと譜例が掲載されています。
手に持っているホルンが円形にかたどられているのがわかります。
ジャック・デュ・フイユ「狩り」(1561年)、上のイラストにあるホルンを用いた合図の楽譜。猟犬係が犬を呼び戻す際の合図が書かれています。

狩のホルン、すなわち身分の高い人のシンボルの楽器として、コルノ・ダ・カッチャ/ヤクト・ホルンという楽器も作られました。イタリア語、ドイツ語でそのまま「狩のホルン」という意味です。

バッハ:カンタータ第208番「私のよろこび、それは狩の楽しみ!」〜アリア「狩は神々の愉しみ」

狩のホルン(ヤクト・ホルン)。ヤコブ・シュミット作、1710~1720年。
ベルの部分には動物が描かれています。

その後ホルンは、さまざまな音が出せるように改良され、上で紹介したホルンは使われなくなりました。しかし、のちの作曲家たちは、改良されたホルンを使って、王侯貴族の象徴、暗い森の中での狩りの愉しみ、そして壮大な山岳風景を描きました。

ホルンは、人と人がつながるために生まれ、人々の生活に溶け込み、音楽作品でも象徴的に扱われた楽器なのです!

ホルンを聴いてみよう

1. バッハ:ブランデンブルク協奏曲第1番 BWV1046〜第1楽章
2. モーツァルト:ホルン協奏曲第1番 KV412〜第1楽章
3. ベートーヴェン:ホルンソナタ 作品17〜第1楽章
4. ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》〜第3幕より「狩人の合唱」

5. ブラームス:ホルン三重奏曲 作品40〜第4楽章

6. 
R.シュトラウス:ホルン協奏曲第1番 作品11〜第3楽章
7. 
アッテルベリ:ホルン協奏曲 作品28〜第3楽章

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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