読みもの
2020.12.01
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その30

クラリネット:シャリュモーが改造されて17世紀に誕生! トランペットとの関係は?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

モーツァルトの歌劇《魔笛》序曲、自筆譜。白い枠にはクラリネット(Clarinetti)、黄色い枠には、クラリーノ(Clarino=トランペット)と書かれています。紛らわしいです。

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楽器のなかでも新しい部類に入るクラリネット。

バロック時代に使われていたシャリュモー(chalumeau)という楽器をもとに、1690年、ヨハン・クリストフ・デンナー(1655〜1707、ドイツ)が音域を広げて改造したのが、クラリネットです。

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紫檀で作られたシャリュモー。リコーダーのような見た目をしています。 ©︎Blockflöten-Museum
デンナーが製作したクラリネット。

テレマン:2本のシャリュモーのための協奏曲 TWV52 〜第4楽章

シャリュモーはフランス語で「笛」という意味で、息を吹き込んで音が出る楽器全般を指していましたが、発展段階で、リードと呼ばれる板のようなものを1枚挟んだもののみがシャリュモーと呼ばれるようになりました。この構造は、改造されたクラリネットでも同じです。

そのシャリュモーを改造して作られたクラリネットは、シャリュモーより高い音域が出せるようになりました。そして、その高い音がトランペットのように聴こえることから、当時のトランペットの呼び名だったクラリーノという言葉から派生した、クラリネットと名付けられました。

少し説明を加えると、クラリーノ(clarino)はイタリア語で明瞭な(claro)という言葉に由来します。

その言葉に、“-etto”という、意味を弱める時に用いる接尾語をくっつけたのがクラリネット(clarinetto)です。直訳するとクラリーノっぽい」といったところでしょうか。

クラリネット協奏曲を初めて書いたのは、ヴィヴァルディ(1678〜1741、イタリア)とされています。

しかし、まだ新しかったクラリネットはあまり頻繁に使われることがない期間が続きました。モーツァルトは、クラリネットが入った交響曲を、41曲中3曲しか書かなかったものの、晩年にクラリネット奏者のアントン・シュタードラーと知り合ったことで、クラリネットのポテンシャルに惚れ込み、クラリネットための作品を多く書きました。

モーツァルトは彼のクラリネットの演奏について、このような言葉を残しています。

なんて素晴らしい! こんな体験ができたことに感謝でいっぱいです。まさかクラリネットが人間の声のような音がするなんて思ってもいませんでした……すべてはあなたの演奏のおかげです。クラリネットのこんなに柔らかくて、こんなに美しい音には、もう誰も抵抗できないですよ。

1785年、シュタードラー宛の手紙より

アントン・シュタードラー(1753〜1812年)

さらに、アメリカのジャズ・クラリネット奏者ベニー・グッドマン(1909〜1986)の演奏を耳にした当時の作曲家らも、彼の演奏からクラリネットのポテンシャルに魅せられました。そこで、バルトークらがジャズ・クラリネット奏者であるグッドマンに。作品を次々と書きました。

ベニー・グッドマンに関連する作品

1. ベニー・グッドマン:Sing, Sing, Sing
2. モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 KV581〜第1楽章(グッドマンが好んで演奏した曲)
3. バルトーク:コントラスツ〜第1楽章 ヴェルブンコス (グッドマンに献呈)
4. バーンスタイン:前奏曲、フーガとリフ〜リフ(グッドマンに献呈)

 

こうして聴衆からも作曲家からも、クラリネットの人気は不動のものとなりました。作曲家が書きたくなってしまうような音色を持った楽器、それがクラリネットなのです。

バーンスタインとリハーサルをするグッドマン
右からシゲティ、バルトーク、グッドマンが、バルトークのコントラスツを演奏する様子(1940年撮影)

クラリネットを聴いてみよう

1. ヴィヴァルディ:クラリネット協奏曲第3番 ヘ長調 第4楽章
2. モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 KV622〜第3楽章
3. シューベルト:岩の上の羊飼い D.965
4. ブラームス:クラリネット・ソナタ第2番 作品120-2 変ホ長調〜第2楽章
5. アンダーソン:クラリネット・キャンディ
6. 作者不詳:クラリネット・ポルカ

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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