ルバート:語源はイタリア語で「盗まれた」!? 楽譜に書かれるのは19世紀以降
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
ルバートは、演奏表現の一つです。ちょっとテンポを先取りして速くしたり、または遅くしたり……テンポを揺らすことを、ルバートといいます。
ルバートはイタリア語で盗むを意味するrubareの過去分詞で、盗まれたという意味です。恐竜が好きな方はご存知かもしれませんが、恐竜の名前によく見る「ラプトル」も、「泥棒」という意味で、語源が同じです。
しかし、テンポを揺らすことを「盗まれた」と表現するのは、いったいどういうことなのでしょうか?
18世紀までは、ルバートは演奏者の感性に任せられており、楽譜にわざわざルバートと書かれることはありませんでした。すなわち、18世紀よりも前は、ルバートをしながら演奏することが当然だったのです。
フローベルガー(1616〜1667)は、テンポにとらわれず、自由に弾いてほしい場合に、「自由さを持って」と記していました。彼自身も、テンポにとらわれない自由な演奏をしており、聴き手を楽しませていたそう。これはルバートと似ていますが、どのように自由だったのかは、いまだに謎な部分が多いのです。
フローベルガー:「トンボー」FWV632
ルバートについて、初めて詳しく書かれたのは、1723年のことです。
イタリアの作曲家のP.F.トージ(1653?〜1732)が、自身の著書『過去と現代の楽長の意見(Opinioni de’ cantori antichi e moderni)』で、ルバートのことを「テンポの略奪(rubamento di tempo)」と称して、その演奏法を次のように説明しています。
「アンサンブルの中で、伴奏がテンポ通りに演奏する際、一緒に弾いている人は、ある決まった場所で、表情の豊かさを表現するために速くしたり、遅くしたりします。しかし、そのあとは正確さを取り戻します」
モーツァルトも、ほかの人による自分のピアノ曲の演奏を聴いた際、「彼らは、アダージョでルバートするとき、左手の伴奏まで一緒にルバートしちゃうんだよ……」(1777年10月23日の手紙)と述べています。
このことからも、やはり古典派以前にもルバートをしながら演奏するのは、当時の習慣だったことがわかります。
19世紀に入ると、さまざまなことを楽譜に記すようになり、同時にルバートも楽譜に書かれるようになりました。
このようにルバートは、まるでその部分だけテンポの概念が盗まれたようになることから「盗まれたテンポ」、すなわちルバートと呼ばれるようになったのです。盗まれたテンポだなんて、なんだか粋な表現ですよね……!
ルバートを聴いてみよう
1. ショパン:マズルカ 嬰ヘ短調 作品6-1
2. ブラームス:ピアノソナタ第3番 作品5〜第5楽章 アレグロ・モデラート・マ・ルバート
3. ドビュッシー:映像 第1集〜第1番「水の反映」 アンダンティーノ・モルト(テンポ・ルバート)
4. バルトーク:10のやさしいピアノ小品 Sz.39〜第5番「セーケイ人たちとの夕べ」
5. ガーシュュウィン:前奏曲 テンポ・ルバート
6. リゲティ:無伴奏チェロソナタ〜第1楽章 アダージョ・ルバート・カンタービレ
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