読みもの
2021.05.04
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その48

アレグレット:脈拍が目安? 実はイタリア語にはない造語

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

ブラームス「交響曲第3番」ヘ長調 作品90の第3楽章(2台ピアノ版)、自筆譜。Un poco allegretto(若干陽気めに)と書いてありますが、オーケストラ版ではPoco allegretto(少しだけしか陽気めでなく)です。

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音楽のテンポや表情を表す言葉、アレグレット。「陽気に」という意味のイタリア語アレグロ(Allegro)に、“-etto”という、元の単語の意味を弱める接尾語がくっついた言葉です。なので、アレグロ(陽気に)の意味を弱めた「やや陽気に」のような意味となります。

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アレグロはイタリア語の形容詞であり、副詞です。しかし本来、-ettoという接尾語は、名詞にくっつくものです。つまり、アレグレットという言葉は、アレグロを強引に名詞化し、接尾語をくっつけたもので、音楽用語として造られた造語なのです。そう、本来のイタリア語で使われることはありません。

そんなアレグレットが使われるようになったのは17世紀末、バロック期からだと言われています。この頃のアレグロは、すでにテンポを表す言葉となっていたので、アレグレットの意味合いとしては、やや速くという感じになります。

当初は、アレグリーノ(小さなアレグロのような意味)という言葉も、アレグレットと似た意味で用いられていましたが、アレグレットで統一されるようになりました。

 

モーツァルトのピアノ・ソナタ イ長調 KV331 第3楽章「トルコ行進曲」初版の冒頭。
同作品のベーレンライター新版(1986年)、冒頭。初版の表記はアレグリーノですが、こちらではアレグレットになっています。

レオポルト・モーツァルトは『ヴァイオリン奏法』(1756年)で、「アレグレットは、アレグロより少し遅いテンポ。心地よく、感じよく、そして冗談ぽさを持っています」と説明しています。

そして、あくまでも目安としてですが、ドイツの作曲家ダニエル・テュルクは、自身の著書『クラヴィーア教本』(1789年)で、「アレグレットの1拍は、健康で情熱的な人の脈拍1つに等しい」と書いています。

まだメトロノームがない時代には、このようにしてテンポを取っていたのですが、私たちのテンションが少し高くなったときの脈拍は、おおよそアレグレットのテンポだったのです!

アレグレットを聴いてみよう

1. テレマン:リコーダー協奏曲 ハ長調 TWV51:1〜第1楽章 Allegretto
2. モーツァルト:ピアノ・ソナタ イ長調 KV331〜第3楽章「トルコ行進曲」Allegrino(Allegretto)
3. ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 作品92〜第2楽章 Allegretto
4. ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90〜第3楽章 Poco allegretto
5. ヤナーチェク:シンフォニエッタ〜第1楽章 Allegretto
6. ガーシュウィン:プロムナード Allegretto moderato

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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