近藤さをりのお酒と音楽のおいしい関係 no.3

酵母にモーツァルトを聴かせる! 喜多方の酒造を訪ねて雪見酒の気分に浸る

読みもの
2019.01.28

ソムリエの資格をもつワインライター、近藤さをりさんの連載第3回は、雪深い地方で育った地酒。
会津は喜多方の小原酒造では、酵母にモーツァルトを聴かせて日本酒を醸造している。モーツァルトの音楽に想いを馳せながら、日本酒を味わってみませんか。

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メインビジュアル:小原酒造(筆者撮影)
ナビゲーター
近藤さをり ワイン&グルメ PRスペシャリスト、ライター、イベントプランナー
近藤さをり
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日本ソムリエ協会認定 ソムリエ / ジャパンビアソムリエ協会認定 ビアソムリエ。大学では哲学を専攻。卒業後に渡独し日本企業現地法人勤務を経てワイナリーに転職。帰国して...

正月のお屠蘇気分は抜けても、日本酒飲みたいモードは立春あたりまで続きそう。音楽を聴きながら、音楽を聴かせた酒を飲むのもまた一興。でも、首都圏の冬の寒さは緩くて、今ひとつピリッとしない。せめて雪深い地方で育った酒を愛でつつ、季節感に浸ろうか。寒造りの現場を見たい、冬をしっかり感じたいという気持ちが私を雪の会津に向かわせた。

音楽を聴かせた〇〇って、よく聞くけど……

日本酒にクラシック音楽を聴かせたら味が良くなった。初めてそんな話を聞いたのは、私が地酒を飲み始めた90年代前半のこと。今や似たようなものが複数あるので、どの銘柄かもわからない。昨年末、日本酒に詳しい友人が教えてくれた情報と曖昧だった記憶とが一致した。

享保2年(1717年)創業、300年以上の歴史をもつ会津は喜多方の小原酒造。10代目の小原公助がモーツァルトの曲を聴かせて醸した日本酒「蔵粋(くらしっく)シリーズ」を、平成元年にリリースしていた。

当初はかなり衝撃だったようで、朝のニュースで報道されるや否や、問い合わせ電話が殺到したそうだ。NHKゆえ蔵の名前は出ていなかったにもかかわらず。後日、夕刊紙に社名が出てからは、鯛養殖者や椎茸栽培者など酒類業界外からもデータが欲しいというリクエストが。

なるほど、それで音楽を聴かせた〇〇という文字を各所で見るようになったのか。そういえば音楽仕込焼酎というのもあったなぁ……と思いきや、どうやら似て非なるもののようだ。

1717年創業、300年以上の歴史をもつ、会津は喜多方の小原酒造。
創業者・小原嘉左衛門の名前を記した立看板。
10代目・小原公助。

生きている酵母に働きかける

熟成タンクや樽に音楽による微細な振動を与え、液体の分子集団を切り離して小さくするのが、焼酎の音響熟成。蒸留酒特有のアルコールの刺激を抑え、飲み口がまろやかになるらしい。

だが、小原酒造の日本酒たちは、醪(もろみ/原料と麹、水、酵母を発酵させた、かゆ状の酒のもと)の段階で音楽を聴いている。つまり生きている微生物であるところの酵母への働きかけなのだ。

社長が若かりし頃、国税庁醸造試験所での酵母の突然変異の実験で、紫外線や超音波を当てていたところ、有音での実験に派生。その頃のチームメンバーには焼酎の酒造が多かったそうだ。

小原は自社に戻り、清酒酵母にさまざまなジャンルの音楽を聴かせた。演歌は北島三郎、ジャズはマイルス・デイビス、クラシックはモーツァルト、ベートーヴェン、バッハ。演歌もジャズも醪の勢いがある間は酵母の増殖速度は上がったが、長くは持たなかった。

醸造場
仕込蔵

なぜモーツァルト?

小原自身、熱心なモーツァルト・ファンというわけではない。チェンバロの音が好きなことから、むしろバッハやハイドン派だった。

が、実験の数値がモーツァルトを選んだ。ベートーヴェン、バッハと同条件下で実験を重ねていくと、モーツァルトを聴いた酵母は密度が大きく上がり、死滅率が低いという顕著な結果が出た。酒質は良好、アミノ酸の生成が抑制され、まろやかな酸味の味わいになった。

当初、クラシックは蔵人たちに不評で「演歌にしてほしい」と言われたが、今はすっかり慣れたそうだ。アイテムによって聴かせる曲目が異なる。これはイメージや好みではなく、酵母の状態を根拠に決めている。

酒の質は麹の段階で90%決まる、と語る小原が30年以上前からずっと使い続けているのが9号酵母。他の酵母を試したこともあるが、華やかな香りで、吟醸でも燗をして美味いと感じられるほど酸がしっかり出る9号が自身のスタイルに合うという。

タンク1基につき、ボーズのスピーカー1台

美味しさの秘密は水にもあり

ここまで音楽と酵母の話をしてきたが、日本酒の場合、その土地らしさを決定するのは水だ。

生果が原料のワインと異なり、日本酒の原料は米で、遠隔地から運んで来られる穀類だから、小原酒造では兵庫県の山田錦がほとんど。

が、酒の成分の8割は水。水の質が、土地の個性を酒に反映する。ここの仕込み水は、飯豊山(いいでさん)の伏流水だ。喜多方は扇状地。地下に浸み込んだ雪解け水が天然のフィルターを通り、100年かけて上がってきて超軟水として湧いて出る。

昔は、硬水に含まれるカリウムやマグネシウムが、酒の発酵力を助けると考えられていて、酒造に働きに来ていた南部杜氏や越後杜氏が塩を入れていたそうだ。

小原自身は、軟水のほうが美味しく仕上がると思っている。プライベートでは山に登って、焚火で珈琲を淹れるのが趣味という。社長手ずからの仕込み水抽出ハンドドリップは、まろやかで優しくデリケート。酒の味わいに通ずるものを感じた。

仕込み水で淹れたコーヒー

蔵粋シリーズを、酵母に聴かせた曲とともに

純米 協奏曲 蔵粋

モーツァルトが29歳のときの作品だが、この酒のラベルには、マリア・テレジアの前で午前演奏をする幼少時の姿が描かれている。ニ短調を基調としながらも、ところどころ長調に転旋してドラマチックに展開するこの作品に渡り合う飲み方をしたい。

リーデルが約8年間の開発期間を経て、昨年世に出した純米酒専用グラスで、ちょっと贅沢にいってみよう。大ぶりで飲み口の口径が大きい形状が、福島県産の煌(きらめき)酵母使用のやわらかな香りを華やかに開かせる。飲むほどに奥深い旨味が引き出されて、最終楽章が華々しく幕を閉じる頃には、大きな余韻に浸っていることだろう。

純米酒グラス、<リーデル・スーパーレジェーロ>純米

大吟醸 交響曲 蔵粋

酒造での売り上げ人気No.1アイテム。それだけに、数ある交響曲の中でも、もっとも有名な作品を聴いている。低温発酵による香り高い大吟醸を、ト短調の翳りのある曲想に身を任せて、ため息をつきながらしみじみ味わおう。やがて円熟した深みのあるふくよかな味わいに気づく頃には、曲はフィナーレに。

大吟醸純米 交響曲 蔵粋 720ml 詰化粧箱入 販売価格:3,294円(税込)

特別純米 アマデウス 蔵粋

淡麗辛口の飽きのこない酒。ディヴェルティメント第3楽章のメヌエットの聞き慣れた安心感を、または第27番の軽やかで明るい穏やかさを感じながら普段の家飲みに。曲の変化に合わせて、冷やして・常温で・ぬる燗あるいは熱燗を付けて強弱を付けて楽しみたい。

アマデウス 蔵粋 720ml詰 化粧箱入 販売価格:1,080円(税込)

純米大吟醸 管弦楽 蔵粋

フルーティーな香り、ほのかな甘みとフレッシュ感のある酸味。深みと広がりのある味わい。この酒を片手に各楽器の多彩な音色と楽章ごとの表情の違いを追いかけていると、一度も気が逸れないまま演奏を聴き終えていることに気づく。

純米大吟醸 管弦楽 蔵粋 720ml 詰化粧箱入り 販売価格:2,754円(税込)

大吟醸純米 マエストロ

山田錦を40%まで磨き、袋吊りして滴り落ちる雫だけを集める手間暇かけた贅沢な少量仕込み。この極上の一品を巨匠が作曲した最後の交響曲と共に。気品ある香りと喉をなめらかに滑り落ちる酔い心地にうっとりしつつ、崇高で壮大な楽想のスパイラルに溺れたい。

大吟醸純米 マエストロ 720ml詰 化粧箱入り 販売価格:5,454円(税込)
お酒に関する問い合わせ先

お酒に関する問い合わせ先
小原酒造株(株)
http://www.oharashuzo.co.jp/

グラスに関する情報
<リーデル・スーパーレジェーロ>純米
https://shop.riedel.co.jp/products/detail.php?product_id=634

 

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