《クライスレリアーナ》と牡猫「ムル」の深い関係。そして音楽家のコンディションの話
人気実力ともに若手を代表するピアニストの一人、牛田智大さんが、さまざまな音楽作品とともに過ごす日々のなかで感じていることや考えていること、聴き手と共有したいと思っていることなどを、大切な思い出やエピソードとともに綴ります。
皆さまこんにちは! 私はいま日本へ帰国する機内でこの原稿を書いているところです。2月末から各地でリサイタルをさせていただくことになっています。今回のプログラムで中心に置いているのは、ロベルト・シューマンが28歳のときに手がけた大作《クライスレリアーナ》です。
私が作品に取り組むとき、なによりも大切にしているのはその作品がもつ「本質的な感情(フィーリング)」を理解しようとつとめることです。ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーの言葉に「作品をつくりはじめるとき第1段階にあるのは、作品のプロットでもアイデアでも技術的なことでもなく、フィーリングである」というものがあるのですが、音楽もこれに似ていて、つまりどのような作品であっても作曲家のなんらかの感情(フィーリング)が根底にあり、それをもとにいろいろな情報を肉付けした「プロット」がつくられ、具体的な音楽的情報に変換されていくのです。
いわゆる「絶対音楽」では感情やプロット(上の図でいう緑枠の部分)はそれほど重要視されていないことが多いので、それらを理解する作業はさほど複雑ではなく、おおよそ「神への祈り」とか「苦悩からの復活」とか「完全なる調和と美の希求」みたいな比較的パターン化されたものです。純粋に楽譜のなかにある音楽的情報を取り出して整理する作業(上の図でいうオレンジ枠の部分……もちろんそれも困難な作業ですが)を終えたときには、なかば自動的に作品の本質に辿り着くことができています。
しかしシューマンのような「標題音楽」的な作品では、楽譜のなかにある音楽的情報を読み解いたあとに、さらに作品のプロットや感情を理解するという複雑な作業が待っています。こういった作品での音楽的情報はプロットや感情と密接に結びついていて、その内容によって意味が変わってしまうことさえあるのです。
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