ドリフか、ズーラシアンブラスか、音楽界の笑いはギャップとベタで勝負する?
「笑い」を求めてコンサートに行くことはありますか?
動物たちが楽器を演奏するシュールなビジュアルと、本格的な音楽&本気の演出で、いつも笑い声があふれているズーラシアンブラスのコンサートは、きっと笑いが大好きなファンがついているはず(ファングッズもファンクラブも充実!)
なぜそんなに笑えるのか——その理由を、コンサートを体験したことがある音楽ライター・飯尾洋一さんが分析!
音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...
笑っていいクラシックコンサートとは?
クラシック音楽のコンサートに通っていて、客席から笑いが漏れる場面に出会うことは少ない。楽曲そのものに笑いの様子が含まれている場面でも、みんな心のなかで笑うに留め、笑い声をあげるところまでにはいかない。
それはそれで奥ゆかしくてよいと思うのだが、オペラの演出などで「ここは絶対に笑いを取りに来ているな」という場面で客席が無音だとモヤッとした気分が残る。客席に忍び笑いはあっても、声をあげるような笑いはあまり歓迎されないのかもしれない。
で、最近、客席に笑い声があがったコンサートになにがあったかな……と振り返ってみて思い出すのは、ズーラシアンブラス。純然たるクラシックではないが、クラシックを主体とするファミリーコンサートとして、長年活動している動物アンサンブルである。
2000年に金管五重奏として出発し、その後、弦楽四重奏やサクソフォン四重奏などの仲間たちも加わって、多様で柔軟な編成が組まれている。ときには、ズーラシアンフィルハーモニー管弦楽団として、オーケストラにまで編成が拡大されることもある。彼らのステージには笑いがある。
動物たちの強めのキャラと音楽パロディの掛け合わせで笑いをとる!
核となる金管五重奏は、メンバー全員が希少動物たちという設定だ。
トランペットはインドライオンとドゥクラングール(オナガザル科)、ホルンはマレーバク、トロンボーンはスマトラトラ、テューバはホッキョクグマ。これら個性豊かな5人を率いるのがリーダー格で指揮を務めるオカピ(キリン科)。仲間たちも、楽器ごとに動物が決まっており、弦楽器はウサギ、サクソフォンはキツネが演奏する。
動物たちには固有のキャラクターが与えられており、これが笑いを生み出す源泉となっている。たとえば、マレーバクはのんびり屋さんで、ステージ上でもすぐに居眠りをしてしまう。
DVD『冗談音楽の祭典 ズーラシアンブラス・ショー』には、彼らの渾身のギャグがたっぷりと詰め込まれている。
DVD『冗談音楽の祭典 ズーラシアンブラス・ショー』PV
マレーバクは、サラサーテの「チゴイネルワイゼン」の演奏中にもうっかり寝てしまう。あ、これって「スゴイ寝るワイゼン」ってこと?
やたらとドラを叩くネコちゃんは、「ドラネコ」と言いたいのだろうか。ボロディンの「だったん人の踊り」に「阿波踊り」が混入してくるといった音楽的なネタも、パンチが効いている。
お気に入りは、パーカッションのナマケモノ。ふだんはスローモーションでゆっくり動いているのに、いざ演奏に入ると動きがキレッキレ。ファミリーコンサートにふさわしく、年少の子どもたちにも理解できるネタがそろえられている。
ドリフか、ズーラシアンブラスか、音楽界の笑いはギャップとベタで勝負?
もちろん、演奏力は抜群に高い。「え、この人たち、いったい何者?」と思わせるクオリティがある。演奏水準の高さとユーモアは、ファミリーコンサートの生命線。高度な演奏力とのギャップがあるから、ギャグが成立する。
前述のDVDを見て改めて感じたのだが、ズーラシアンブラスの笑いは正統派とでもいうべきか、とてもベタな笑いになっている。かつてお茶の間を席巻したザ・ドリフターズの笑いのセンスを受け継いでいるといってもいいだろう。もともとザ・ドリフターズの成り立ちはコミックバンドであり、バンド活動からやがて笑いの要素がクローズアップされてコントグループとしての活動が主体となったことを思えば、音楽と笑いは本来近しい間柄にある。
考えてみれば、ハイドンの交響曲にも冗談音楽の要素が明確にあるわけで、作曲当時には客席で笑い声をあげて聴いている人もいたことだろう。そして、作品が「古典」として崇められるにつれて、笑いの要素が薄まっていったことは容易に想像できる。
かつてショスタコーヴィチは、「芸術音楽における笑いの正当な権利のために戦いたい」と語ったが、現代のコンサートシーンにおける「笑い」は、もっぱらズーラシアンブラスのようなファミリーコンサートが担いつつあるのかもしれない。
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