インタビュー
2023.05.12
新アルバム「リヒャルト・シュトラウス:ホルン作品集」が発売中!

福川伸陽が語るR.シュトラウスと父、その愛憎を超えて作り出されたホルン曲の数々

取材・文
片桐卓也
取材・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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空飛ぶ指揮者(リヒャルト・シュトラウス?)がホルン奏者に迫る? とてもユニークなジャケットが印象的なアルバムだが、それはホルン奏者としてさまざまなコンサートで活躍を続ける福川伸陽の最新録音「リヒャルト・シュトラウス:ホルン作品集」だ。

ホルンを吹きたいと思った経験のある方々にとって、R.シュトラウス(1864〜1949)の2曲の「ホルン協奏曲」は憧れの作品だろう。R.シュトラウスにとっては一種の「運命の楽器」でもあったホルン。その作品を取り上げた福川に、作曲家の心のうちを覗いてもらった。

「ホルンのヨアヒム」を父にもったリヒャルト・シュトラウス

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——ホルン奏者にとって、R.シュトラウスの「ホルン協奏曲」が占める位置は大きいと思います。

福川 僕は実はトランペットをやりたかったのですが、吹奏楽部に空きがなく、仕方なくホルンを吹くことになったのです。その先輩がたに聴くべき録音などを教わったのですが、その中のひとつにR.シュトラウスの「ホルン協奏曲」がありました。

学校の近くには中古レコード店があって、学校帰りによくそこに寄ってはレコードを物色していたものです。その時からの憧れの作品でもありました。

——R.シュトラウスのお父さん、フランツ・シュトラウスはホルン奏者でした。

福川 それも「ホルンのヨアヒム」と呼ばれるくらい、凄腕の奏者だったのです(注・ヨアヒムとはブラームスの親友でもあった19世紀を代表するヴァイオリニストで、ベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」の真価を世の中に再認識させたことでも有名)。

1886年、21歳の頃のリヒャルト
フランツ・シュトラウス(1822〜1905)

——やはり、そのお父さんの影響は息子リヒャルトにとっても大きかった?

福川 リヒャルトのお父さんは実は当時としては保守的な音楽観の持ち主で、新しい音楽には否定的だったと言われています。しかし息子は、ワーグナー以降の新しい音楽に関心を持っていました。そのあたりで、意見が食い違うこともあったでしょう。

ただ、そうした音楽的な考え方の違いを乗り越えて、やはり父親をリスペクトする気持ちというのが、「ホルン協奏曲」の中には表現されていると思います。

自身も、作家でクラシック音楽が好きだったお父さまから芸術家としての影響を受けているという福川さん。

大作曲家が愛したホルンを軸にその生涯を聴くアルバム

——今回のアルバムでは、R.シュトラウスの意外な作品もたくさん取り上げられていて、こんなところにもホルンが使われているのだ、と発見が多かったです。

福川 第1番の「ホルン協奏曲」が18歳(1883年)の時の作品で、その後、さまざまな作品の中にホルンを活かしているのです。生涯を通してホルンに関心を持ち続けた彼の音楽的な歩みを、僕も一緒に振り返る良い機会となりました。

福川 第1番が18歳の時なら、第2番はほぼ60年後の作品です。長生きだったこともありますが、シュトラウスの音楽は20世紀の生きた歴史とも言えますね。

1945年、晩年に撮影されたリヒャルト
「第2番」の初演(1943年)は、指揮カール・ベーム、オケはウィーン・フィル、ホルンはその首席奏者であったゴットフリート・フォン・フライベルクによって行なわれた

福川 その長い人生のなかで、リヒャルト・シュトラウスがどんな風に自分の音楽を発展させてきたのか。ホルンという楽器を通して、それを振り返ることもできます。オペラ、リート、ホルン・ソロ、協奏曲とスタイルの違ったホルンの味わいも楽しんで欲しいです。

——「アルプホルン」は歌手、ホルン、ピアノのための作品で、実演で耳にすることはレアだと思います。それを今回は、小林沙羅(ソプラノ)、山中惇史(ピアノ)、そして福川さんという豪華なメンバーで録音されましたね。

福川 リヒャルト・シュトラウスの作品集を作るなら、ぜひ収録したいと思っていたのが「アルプホルン」でした。これも1878年の作品で、つまりまだ14歳ごろ。録音も少なく、実際に歌手の方もあまり知らない作品かもしれません。しかし、すでに作曲家としての力を発揮していますよね。

福川 シュトラウスのホルンと言えば《アルプス交響曲》が有名かもしれませんが、それ以外にも実にホルンの使い方が上手くて、それは最後のオペラとなった《カプリッチョ》の有名な「月光の音楽」でもよく分かるはずです。

福川 父親への敬愛と反発、そして回想など、ライフワークとしてのシュトラウスのホルン作品はもっと掘り下げたいし、多くの音楽ファンに知っていただきたい世界です。

——僕もこれを機会にシュトラウスのホルン作品を深堀りします。ありがとうございました。

リヒャルト・シュトラウス:ホルン作品集/福川伸陽
CD情報
リヒャルト・シュトラウス:ホルン作品集/福川伸陽

●収録曲目

R.シュトラウス:  1.歌劇「カプリッチオ」より間奏曲「月光の音楽」

2-4.ホルン協奏曲 第1番 変ホ長調 作品11

5.序奏、主題と変奏 変ホ長調 6.アンダンテ ハ長調

7-9.ホルン協奏曲 第2番 変ホ長調

10.アルプホルン

 

【演奏】 福川伸陽(ホルン)、山下一史(指揮)、愛知室内(オーケストラ 1-4、7-9)、小林沙羅(ソプラノ 10)、山中惇史(ピアノ 5,6,10)

 

【録音】 2022年11月17,18日 三井住友海上しらかわホール(1-4、7-9) 2022年11月21日 キング関口台スタジオ第1スタジオ(5、6、10)

取材・文
片桐卓也
取材・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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