読みもの
2021.07.05
「音楽家である前に、人間であれ!」その1

ヴァイオリニスト・石田泰尚の硬派なメッセージ「直感で選ぶ。迷わない。」

超ド級のヴァイオリニスト・石田泰尚さんの初めての連載は、各世代に向けて発信する本音のメッセージ集。これまでの歩みを辿りつつ、さまざまな逆境を乗り越えてきたその類まれな信念の軌跡を追います。

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

『anan』元編集長。『Hanako』『POPEYE』元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

撮影:岩本慶三

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「奇抜な格好ですね」と言われるし、道を歩いているとジロジロ見られることもあるのですが、僕は決してファッション好きではありません。単純に「あ、かっこいい」と思ったものを着ているだけです。結果的に目立つ服なので、「こんな格好でも、やることやってんだぜ」と言えるように、自分にプレッシャーを与えているところはあるかもしれません。

今着ているのは、ほぼ〈SOU・SOU〉(ソウソウ)という京都のブランドです。昨年2020年4月に京都市交響楽団の特別客演コンサートマスターに就任したのですが、京響の団員さんの方に以前から「もう絶対似合う服がある」と言われていて、それで昨年夏頃お店に連れていってもらいました。見た瞬間「うわー、俺っぽい、俺好みだ」と惹かれ、それからは行くたびに買っています。昨年夏からですから、まだ1年経っていませんが、ちょっとした店ができるぐらいの服があります。

それまで10年ぐらいはずっと〈Yohji Yamamoto〉(ヨウジヤマモト)ばかり着ていました。母の知り合いの方からシャツをいただいたのがきっかけです。その前は、ジャージです。白ジャージ、黒ジャージ、赤ジャージ。僕はジーパンが苦手で1本も持っていないぐらい、体を締め付ける服が嫌いなのですが、〈Yohji Yamamoto〉も〈SOU・SOU〉もダボっとしていて着やすいです。

メガネは〈ジャポニスム〉という福井県鯖江のブランドです。僕が行っている店は、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の練習場の近くにあります。誰かに教えてもらって行き出して、それからいくつ買ったことか。時計は、ご縁があって三笠会館鵠沼店でコンサートをしているのですが、その入り口にあるブティックのもので、やはり行くたびに増えています。

服を買うときは店員さんが驚くぐらい即決。

服も小物も、たまたま人に紹介されたり、よく行く場所でご縁があったりで、「あ、かっこいい」と1度気に入ってしまうと、店に通い詰めて、うわーっと買い物をする。「これとこれ」と即決です。店員さんから「1回ぐらい着たほうがいいんじゃないですか」と言われ試着しても、着た瞬間、「じゃあ、これ」という感じです。まったく迷わない。

僕は22歳で新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、24歳からコンサートマスターになったのですが、新星日響が2001年に東京フィルハーモニー交響楽団と合併することになり、その名前が消滅すると聞いたとき、すぐ辞めると決意しました。新星日響の名前がなくなるなんて冗談じゃない。両親や新星日響の団員の方に一応相談……、相談ではないですね、伝えはしました。もう辞めますと。止められたりもしたのですが、全然揺るがなかったです。

僕は若い頃から何事にも迷わないのですが、もし迷えば迷うほど、より良い結果が得られるのだとしたら、迷ってみるかもしれません。深く悩んで正解がわかるのであれば、悩んでみるかもしれません。でも、そうでないならば、迷うだけ悩むだけ面倒くさいです。僕、面倒くさがり屋なので。それより自分の直感を信じたい。自分の直感で行動すれば、その分、結果も自分の責任。たとえ失敗しても、それはそれで仕方がないと諦めもつきます。だから後悔もない。まったくない。

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僕の直感は個性あるものに惹かれる。

つまり、〈Yohji Yamamoto〉も〈SOU・SOU〉も、たまたま巡り合い、たまたま直感が働いたということです。今は服に関しては、ほぼこの2種類だけです。でも、もしかすると、何かのきっかけで、また新しいブランドに「あ、かっこいい」と思うかもしれない。そして、またハマって、うわーっと買いまくるかもしれない。

〈SOU・SOU〉は京響の団員の方たちも着ていますが、〈Yohji Yamamoto〉に比べ東京ではあまり見かけないので、その点でも気に入っています。そういう意味では、みんなと同じものは嫌だという気持ちはあるのだと思います。〈Yohji Yamamoto〉も〈SOU・SOU〉も個性的なブランドですから。僕は個性的なものに惹かれるのかもしれません。

好きなヴァイオリニストでいうと、例えば、ナージャ・サレルノ=ソネンバーグさん。大学の時に教育テレビ(Eテレ)でやっているクラシック番組でカザルスホールでのリサイタルを見て衝撃を受けました。女性ですがロックっぽくてかっこよくて超個性的。死ぬほど巧いです。もしかしたら僕のスタイルも影響を受けているぐらいです。

音源:ナージャ・サレルノ=ソネンバーグ「Classical Violin & Guitar Selections」

全盛期のチョン・キョンファさんも個性的でした。それこそ、ピアニストの及川浩治さんも最初めちゃくちゃ衝撃でした。そういった個性を目の当たりにした衝撃は何度かあります。

服も音楽も、個性あるものにガツンと衝撃を受けたい、いつもそう思っています。

チョン・キョンファ「Vivaldi: The Four Seasons」

及川浩治「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番、ピアノ・ソナタ第2番」

本日の私物拝見!

真ん中のパープルのは家用。透明レンズの2つはクラシック用。レンズに色が入っているのはクラシックじゃない用です。〈ジャポニスム〉のメガネばかり、こんなに必要かと言われれば必要ないのですが、なんか違うのをかけてみたくなっちゃうのです。

「石田泰尚の初めての単行本、できました!」

この連載をまとめた単行本が出版されます。

新たに「番外編 私が感じた、素顔の石田泰尚さん」や

石田さんをよく知る13人の方々へのアンケートなどを収録。

未公開のカラー写真も惜しみなく掲載しています。

発売は6月13日ごろ(地方によって発売日が異なる場合があります)。

6月10日(金)の「熱狂の夜」ミューザ川崎公演、

6月11日(土)の「石田組」サントリーホール公演で、

先行販売を行う予定です。

ぜひお手に取ってお確かめください!

 

『音楽家である前に、人間であれ!』 石田泰尚 著
ヴァイオリニスト石田泰尚の硬派なメッセージ。
その言葉の一途さが、やわらかな音楽を生む。
四六判・112頁 定価1980円(本体1800円+税)音楽之友社
石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

『anan』元編集長。『Hanako』『POPEYE』元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

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