読みもの
2018.09.20
夜遊びクラシック 第2回

東京フィル・メンバーの演奏が聴ける「Cafe NABE」~初台の住宅街にたたずむお店

働き盛りの忙しいあなたに、クラシックを気楽に楽しめるスポットをご紹介するコーナー「夜遊びクラシック」。

第2回は東京・初台にある「Cafe NABE」を訪れました。音源制作などを行なう株式会社ノモスの渋谷ゆう子さんによる妄想ストーリー、お楽しみください!

妄想した人
渋谷ゆう子
妄想した人
渋谷ゆう子 音楽プロデューサー

株式会社ノモス 代表取締役。音楽プロデューサー。クラシック音楽を中心とした高音質な音源制作に定評がある。音楽家のマネジメントやコンサルティングも行う。コラムの執筆やラ...

写真:各務あゆみ

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初台に君が住みたいと言ったとき、そうだね、大きな公園も近いし、庶民的な商店街もあって、いつか子どもができたときにもそのまま暮らせそうだねと答えたことを、今も覚えてるだろうか。

そして、僕はこう付け加えた。オペラシティに歩いて行けるね、と。

 

けれど結局ここに越して以来、一度もオペラシティには入っていない。

いつでも行けるからという油断が、チケットを取る手間を惜しんだからかもしれない。あるいは音楽へ向かう気力も興味も、家族を維持していくという日常の積み重ねに埋もれてしまったからからかもしれない。リビングでかけるCDもいつしか知育ソングだ。

オペラシティのビルを見上げるたびに、少しだけ胸の奥に棘のようなものを感じる。

 

新宿方面から初台の不動通りに入る。
厳荘寺の入り口をすぎたところにある、庶民的な飲食店やお惣菜のお店に囲まれているこのカフェが、もうずっと気になっていた。

ウッディな外観と、ワイングラスの陳列の奥に、アップライトのピアノが見える。グリーンのソファ。イラストが大きく飾ってある。

「いらっしゃいませ」

迎えてくれるマスターが、カウンターでシェイカーを振っている。

品のいい小さめな音でかかっているのは、ベートーヴェンか。中期のカルテット。

見たことのないウッドなエンクロージュアで包まれた背の高いスピーカーと、真空管アンプが並んでいる。マスターはかなり音楽が好きなようだ。

ファブリックが優しいグリーンのソファに座る。家具はアンティークか。どれも丁寧に手入れされている。

平板のスピーカーユニット「FLATエンジン」のメーカーFALが、立体感のある音の再現を追求して作ったスピーカー
左:知る人ぞ知る逸品! 平板のフルレンジ・スピーカーユニット「FLATエンジン」のメーカーFALが、立体感のある音の再現を追求して作ったスピーカー。東京フィルハーモニーの首席指揮者バッティストーニやフルートの巨匠ゴールウェイのサインが書かれている。
右:インテリアは、マスターの奥様で、東京フィル第2ヴァイオン首席奏者、水鳥路さんのご実家にあったもの。

「アイスコーヒーをお願いします。」

「それでは、おすすめのアイスコーヒーがあります。シェイカーで氷とシェイクして一気に冷やすんですよ。ちょっと見た目が黒ビールのようにも見えるんですが」黒ビールのようなコーヒーと言われて興味がわく。「では、それを」

不思議な空間だ。初めてなのにすでに懐かしく、心地いい。

「お待たせいたしました」

シェケラート
シェケラート

泡の上にコーヒー豆が乗っていなければ、ビールと見分けがつかないだろう。泡を避けてストローを刺し、一気に喉を通過させる。

ああ。これはうまい。冷たいのに氷がないから、コーヒーの香りと苦味がしっかりわかる。振っていたシェイカーはこれを作るためだったのか。面白い。

「ここで時々演奏会をやってますので是非。ちょうど来週は、東フィルの方のカルテットのコンサートがありますので」
マスターはそういって僕に小さなお知らせを渡してくれた。

このカフェの中で弦楽四重奏が聴けるのか。しかも東フィルメンバーで。
会社帰りにふらっと立ち寄れるこの落ち着く空間で、プロのオーケストラメンバーの演奏が聴ける。
チケットを買うことすら遠のいていた自分に、ふと目の前にまたクラシック音楽の世界が扉を開けてくれた気がした。

君は今も覚えているだろうか。

初台に住みたいと言ったとき、オペラシティに歩いて行けるねと僕が言ったことを。ああ。忘れていたのは僕のほうだった。そしてあのとき、君はこう答えた。「行きたいコンサート見つけたら、誘ってね」と。

日常に埋もれた長い年月が、生活のサイクルの中からクラシック音楽を排除した気になって、勝手に寂しく思っていたのは僕のほうだったかもしれない。

来週、君は一緒に来てくれるだろうか。

ハイドンとベートーベンの違いがわからないわって言いながら。

——おわり

8月23日(木)に行なわれたコンサート

カルテットのメンバーは、左から1st ヴァイオリン水鳥路さん、2nd ヴァイオリン堀越瑞生さん、ヴィオラ須藤三千代さん、チェロ大内 麻央さん。
ヴィオラの須藤さんの語りは、ハイドンの人生のどういうときに《ひばり》という作品ができたのか、ハイドンより24歳若いモーツァルト、さらにベートーヴェンはどういった人間だったのか、場面が想像できて、親近感をもって面白く演奏を楽しめる。
この至近距離! 演奏者は緊張するそうですが、演奏の意図すべてが見えて贅沢な空間。音のバランスも自然で心地いい。
水鳥さんは演奏が終わるとヴァイオリンを置いて、キッチンに立つ。ご夫婦の連携で、手早くパーティ料理が作られていく。

東フィルのメンバーによるコンサートでは、ハイドンとモーツアルトの楽曲を演奏した。ヴィオラの須藤さんが合間に軽快な解説を入れる。作曲家がより身近に感じられるような逸話を作風に合わせて、丁寧に説明する。その話術も必聴だ。

普段はステージの上にいる演奏者が、至近距離で奏でる姿は圧巻のひとこと。楽器の胴鳴り、弓が擦れる音、合わせる呼吸の細部まで味わえる。

一流のオーケストラを身近に感じ、またここをきっかけにオペラシティで東フィルの演奏を聴いてほしいと語る、マスターの渡邊烈さん。美術を学びながら、東フィルのステージスタッフとして働いた経験をもつ。お店に使われているイラストは渡邊さんによるもの。

東フィルのヴァイオリニスト路さんのご実家にあったアンティーク家具からインスピレーションを受け、渡邊さんが自身で内装を考案したという。

ショップカードや名刺のイラストは、油絵を専攻していたという渡邊さんが描いている。
きれいなラインで並ぶ照明も、空間を印象的に演出している。
帰り道にふらっと立ち寄って、美味しいコーヒーやワインで過ごし、本物の音楽を楽しんでほしいと、マスターの渡邊烈さん。
この日はパーティメニュー。ひよこ豆のサラダ、イチジクとサニーレタスのバルサミコ・ドレッシング、カレーボール(さつま揚げ)、チキンバーベキューとジャガイモもち。
豚の角煮のピザ。
デザートに新鮮な葡萄。
カフェだけど、昼からアルコールも飲める。
お昼のカフェメニュー。
パーティではない日の夜のアルコールメニュー。
お店情報
第2回 0歳からのコンサート

0歳の赤ちゃんから入場できる気軽で親しみやすいコンサート。聴きやすいけれど本格的なクラシックを、40分間のプログラムで。

日時: 2018年10月13日(土) 10:00開場/10:30開演

会場: Cafe NABE

料金: 0歳~未就学児 500円、小学生以上 1,500円(全席自由)

出演: ヴァイオリン水鳥路、ソプラノ中森美紀/平井裕子、ピアノ渡辺ら夢

※プロのカメラマンによる写真撮影タイムあり

予約/問い合わせ: Tel.03-6276-8333(火曜~日曜14:00~18:00)

Cafe NABE

住所: 東京都渋谷区本町2-39-1 eフラット渋谷本町 1F (京王新線 初台駅より徒歩6分)

電話番号: 03-6276-8333

営業時間:
火~金  11:30~23:00(L.O.22:00)
土 14:00~22:00(L.O.21:00)
日 14:00~18:00
月曜定休、木曜のみランチ営業は休み

http://cafe-nabe.com/

妄想した人
渋谷ゆう子
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渋谷ゆう子 音楽プロデューサー

株式会社ノモス 代表取締役。音楽プロデューサー。クラシック音楽を中心とした高音質な音源制作に定評がある。音楽家のマネジメントやコンサルティングも行う。コラムの執筆やラ...

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