読みもの
2020.08.03
林田直樹のミニ音楽雑記帳 No.24

ウルトラの遺伝子よ、永遠なれ~『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』を読んで

林田直樹
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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2013年にアルテスパブリッシングから刊行され、今年の春に文庫化された『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』(青山通著 新潮文庫)を読んで、幼い頃に同じような体験をしてきている、ほぼ同世代の一人として、強い共感を覚えることばかりだった。

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改めて申し上げると、「ウルトラセブン」(初回放映はTBS系列で1967年10月1日~68年9月8日に放映)とは、円谷プロ制作による一連のウルトラシリーズの中でも、人間ドラマとしても音楽性においても、いまもなお愛され続ける最高傑作である。

本書は、この「ウルトラセブン」への深い愛に満ちながら、特に音楽面について詳述した楽しい読み物であると同時に、クラシック音楽への自然なガイドにもなっている。

後半で、音楽的な観点から選ばれたオススメ名作の回のなかに、自分の好きなものばかりが入っていたのは、うれしい驚きだった。第8話「狙われた街」(メトロン星人)や第40話「セブン暗殺計画 前編・後編」(ガッツ星人)は当然としても、第29話「ひとりぼっちの宇宙人」(プロテ星人)と第25話「零下140度の対決」(ポール星人、ガンダー)が挙げられているのだ。

セブンを観ていない人には、何のことやらさっぱりわからないと思うので、補足すると、プロテ星人は真夜中の都会の幻想であり、ポール星人とガンダーは真冬の雪の中の幻想なのだ。

ウルトラセブンは、怪獣との対決のみならず「宇宙からの侵略」が基本テーマとなっているが、そこには、夕暮れ時や真夜中といった、暗い光や闇への志向、あるいは白昼夢や雪といった、幻想的な世界に対する感覚の鋭敏さが、ドラマを豊かにしていたし、それがまた音楽とよく響き合っていた。

そこには、作曲家・冬木透のつくりだす楽曲の、多様式によるコントラストの妙、そして格調高さがあった。本書のなかでも、そこは重要な記述となっている。

本書の前半の核をなしているのは、最終回で使用されたクラシック音楽が、シューマンの「ピアノ協奏曲イ短調」第1楽章であることを、少年時代の著者がようやく知り、その演奏が、ディヌ・リパッティのピアノ、カラヤン指揮、フィルハーモニア管弦楽団であることをつきとめるまでの探求についての描写である。

あの曲は、あの演奏は一体何? 簡単に答えは出ないからこそ、執念にも似た「こだわり」が始まり、その試行錯誤から、豊かな体験が生まれた。そのプロセスには、人が音楽を愛するということについての、何か大切な秘密がある。本書はそこに触れているという点で、単なる昭和のノスタルジーにとどまらない、世代を越えて普遍的に楽しめる読み物となっている。

最後にひとつだけカミングアウトを。

著者の青山さんほどではないが、私もウルトラセブンには圧倒的な影響を受けた。あの音楽によって、どれほど音楽的な感受性を育てられたかわからない。

その感謝の思いもあって、「レコード芸術」編集部に私が在籍していた2000年1月号では、「ウルトラセブンとクラシック」というテーマで、演出家・実相寺昭雄と作曲家・冬木透の対談を組み、円谷プロで怪獣倉庫の写真を撮り、セブンから平成ウルトラ三部作(ウルトラマンティガ、ダイナ、ガイア)への影響も取材し、メトロン星人やエレキング、ウルトラホークの写真を掲載した。周囲からはあきれられながらも、レコ芸時代に一番燃えた仕事だったかもしれない。

いつか青山さん(実は音楽之友社の編集者の先輩でもある)と、ウルトラとクラシックをテーマに語り明かしたいものである。

林田直樹
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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