読みもの
2020.10.12
林田直樹のミニ音楽雑記帳 No.31

アンニュイな雰囲気のヴォーカルと弦の名盤『武満徹ソングブック』がコンプリート版に

林田直樹
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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1990年頃のことだったと思う。ある真面目なシンポジウムの席で、作曲家・武満徹(1930-1996)はぼやくようにこう語っていた。

「ユーミンは200万枚もCDが売れるのに、僕のCDは2万枚も売れやしない」

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現代音楽の作曲家なのに、そもそもポップスの世界とそういうふうに自分を比較すること自体が妙に滑稽に思われて、そのとき会場からは笑いが漏れたが、武満さんは真剣だった。映画やテレビや歌謡曲のような大衆文化との接点は、武満さんにとって大切なものだったから。

のちに武満さんは石川セリの『翼~武満徹ポップ・ソングス』(日本コロムビア)に寄せた文章の中で、こう書いている。

きっと多くの方が、なぜクラシックの、しかもこむずかしい現代音楽を書いている作曲家がこんなアルバムをつくったりするのか、不思議に思われただろう。

『翼』といううたにも書いたように、私にとってこうした営為(いとなみ)は、「自由」への査証を得るためのもので、精神を固く閉ざされたものにせず、いつも柔軟で開かれたものにしておきたいという希い(ねがい)に他ならない

そんな武満さんが、もし生きていたらきっと喜んだであろうアルバムが、2011年7月に発売された『武満徹ソングブック』(ソングエクスジャズ)だ。

編曲・演奏をショーロクラブが担当し、7人の歌手たちが参加したこのレコーディングは、作曲家の手を離れて、遺された歌の数々が、こんなにも洒落たアンニュイな雰囲気を身にまといながら、新たな生命を得ているという点で、画期的なものだった。

編曲・演奏を担当したショーロクラブは、笹子重治(アコースティック・ギター)、秋岡欧(バンドリン)、沢田穣治(コントラバス)の3人によって89年に結成された弦楽ユニット。ブラジル音楽の影響を受けた独自のサウンドには根強いファンが多い。

この名盤が、未収録曲やライブ音源を追加した2枚組の『武満徹ソングブック-コンプリート-』として、日本コロムビアから10月21日に新たにリリースされることとなった。

歌手の名前を挙げると、アン・サリー、おおたか静流、おおはた雄一、沢知恵、tamamix、松田美緒、松平敬、そして今回は畠山美由紀、優河の2人、さらにライブ音源では詩人・谷川俊太郎も加わっている。

どの曲も色とりどりの歌手たちの個性とともにじっくり聴かせるが、中でも、現代音楽のスペシャリストとして知られるバリトン歌手・松平敬が、艶やかで色気のある声を披露していることには驚かれる向きもあるだろう。

今回のコンプリート版の登場を機に、改めてじっくり耳を傾けてみたい。

「見えないこども」(1963)作曲:武満徹/作詞:谷川俊太郎/編曲:笹子重治
ヴォーカル:松平敬/演奏 : ショーロクラブ/収録:2011年

ライブ情報
ショーロクラブ&おおたか静流、アン・サリー sing 武満徹ソングス

日時: 2020年10月24日(土)16:30開演

会場: たましんRISURUホール(立川市市民会館)大ホール

出演:

  • ショーロクラブ(笹子重治:ギター、秋岡欧:バンドリン、沢田穣治:コントラバス)
  • おおたか静流(ボーカル)
  • アン・サリー(ボーカル)

予定曲目:
めぐり逢い、明日ハ晴レカナ曇リカナ、翼、小さな空、三月のうた、死んだ男の残したものは ほか

料金: 全席指定 4,500円

林田直樹
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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