ローム ミュージック ファンデーション スカラシップ コンサート2022~希望と勇気~直前緊急座談会
音楽を通じて豊かな文化を作ることを目指している、公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーションは、若手音楽家の育成に力を注いでいる。そのためにさまざまな事業を展開しているが、なかでもローム ミュージック ファンデーション奨学生として研鑽を積んだ新進気鋭のアーティストがその成果を発表する、スカラシップ コンサートに注目。2022年は、京都府立府民ホール アルティで4回、東京・浜離宮朝日ホールで2回、さらに全公演ライブ配信が行われる。
参加アーティストのなかから、アンサンブルに出演する木口雄人、荒井優利奈、向井航、土岐祐奈、向井響の5名に、コンサートがもっと楽しみになる話を伺った。
東京生まれ。横浜国立大学卒業後、(株)音楽之友社に入社。その後、(株)東京音楽社で「ショパン」や「アンカリヨン」の編集を担当。現在はフリーランスの音楽ライター/音楽ジ...
木口雄人(ピアノ・歌曲伴奏)
向井 航(作曲)
荒井優利奈(ヴァイオリン)
土岐祐奈(ヴァイオリン)
向井 響(作曲)
*登場順
希望と勇気を胸に
——今回のスカラシップ コンサートのテーマは「希望と勇気」。それに沿った選曲や作品作りをなさったのですね。
まず、ソプラノと共演するピアノの木口さんからお伺いします。
木口 それぞれの曲がテーマにぴったり、というのではなく、全体を聴いていただいて最終的にテーマにたどり着ければいいなと考えました。オープニングは短い夏の曲、本編は物語のようなリストの歌曲、そして締めくくりは日本語の歌という、短編映画のような構成にしました。
2020、2021年度奨学生
ウィーン国立音楽大学
第27回ヨハネス・ブラームス国際コンクール最優秀歌曲伴奏賞。第23回スクリャービン国際ピアノコンクール第2位(最高位)。第26回ロスピリオージ国際室内楽コンクール優勝および聴衆賞。京都市立芸術大学大学院首席修了。現在、ウィーン国立音楽大学室内楽科に在籍中。
ⓒAndrej Grilc
——木口さんは向井 航さんの作品「その哀しみを、海に沈めて(2022) 独奏ヴァイオリンとピアノのための」で、ヴァイオリンの荒井さんとも共演なさいますね。
向井 航 コロナ禍にあって、私たち音楽家も苦しみました。今もその厳しい状況は続いています。その悲しみを「感情の海」に沈めて、希望と勇気を持とうという思いで書きました。音の質感にこだわって、聴き手とともに「海に沈める」ことができたらいいなと思っています。
2019、2020年度奨学生
マンハイム国立音楽舞台芸術大学
東京藝術大学音楽学部作曲科を首席卒業後、渡独。受賞歴に安宅賞、クロアチア国際作曲コンクール優勝、日本音楽コンクール作曲部門第2位および岩谷賞(聴衆賞)など。現在、オーストリア学術交流局奨学生としてアントン・ブルックナー私立大学およびベルン芸術大学博士研究員。
ⓒTomáš Mačej
荒井 航さんから声をかけていただき、とてもうれしかったです。楽譜をいただいてまだ間もなく、リハーサルも始まっていませんが、木口さんと共演することも含めてワクワクしています。冒頭からヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ的な聴かせどころがあって、とても魅力的な作品です。木口さんとは同じウィーン国立音楽大学に通っていたのですが、共演は初めてなんです。
2017、2018奨学生
ヤッシャ・ハイフェッツ国際ヴァイオリンコンクール第1位、プラハの春国際音楽コンクール第2位、若いヴァイオリニストのためのアルテュール・グリュミオー国際コンクール第1位など数々のコンクールに入賞。ウィーン国立音楽大学修士課程にあたるMagistra artiumを最優秀の成績で修了し、現在同大学ポストグラデュアーレ課程に在籍中。一般財団法人ITOHより1721年製ピエトロ・グァルネリを貸与されている。
ⓒAndrej Grilc
向井 航 木口さんは伴奏を得意にしておられるのですが、相手とともに演奏を作りあげるピアニストで、多彩な「色」を持っている人。また、荒井さんの演奏は何度か聴いていたので、ぜひ!とお願いしました。
——航さんの双子のお兄様である、向井 響さんの作品「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」を演奏するのはヴァイオリンの土岐さん。
土岐 響さんの作品をいくつか聴かせていただきましたが、幻想的で非現実的な美しい世界へと導かれる印象を受けました。
2019、2020年度奨学生
ベルリン芸術大学大学院
第12回リピンスキ・ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール第1位。第83回日本音楽コンクール第2位、ほか国内外のコンクールで受賞。これまでに東京交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団などと共演。ベルリン放送交響楽団アカデミーを経て、現在シュターツカペレ・ドレスデン契約団員。ベルリン芸術大学大学院にてM.ゴトーニ氏に師事。
ⓒT.Tairadate
向井 響 今回の作品は、祈りを感じるJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン作品に影響を受けて書きました。ヴァイオリン1本でどこまで表現できるのか、という挑戦でもあります。私はポルトガル民謡も研究しているので、その要素も取り入れました。苦しい生活を送る漁師たちの中から生まれた民謡には、希望の光もあるんです。
2019、2020年度奨学生
アントワープ王立音楽大学大学院、ポルト大学大学院
第84回日本音楽コンクール作曲部門第1位、第6回マータン・ギヴォル国際作曲コンクール第1位。マリン・ゴレミノフ国際作曲賞、ストラスブール現代音楽祭にてグランプリ。現在、ポルト大学大学院工学研究科博士課程に在籍中。
ⓒAyane Shindo
土岐 バッハのスタイルとポルトガル民謡の融合は興味深く、演奏のために民族音楽特有のリズムや歌い方を研究しています。
向井 響 土岐さんは桐朋学園大学での1年後輩。大学に入学する前から有名で、どんな作品にも「歌心」を持って演奏する人。ぜひ、土岐さんのために書きたいと思いました。
——土岐さんはシューマンとブラームスのヴァイオリン・ソナタも演奏しますね。
土岐 シューマンは特に好きな作品。全体を通してほの暗いのですが、そこから這い上がろうとするエネルギーを感じます。ブラームスは勇壮な雰囲気から始まり、優美なメロディを経て、嵐が過ぎ去った後に射し込む光で終わります。コロナ禍など苦境に耐える方々の勇気を讃え、心からの応援の気持ちとともに演奏したいと思います。
ローム ミュージック ファンデーション奨学生ならではの学びと経験
——話題を変えて、ローム ミュージック ファンデーションの奨学生として学んだことを教えてください。
木口 2020年9月から2年間でしたので、コロナ禍にすっかりかぶってしまい、演奏活動はできませんでした。そこで演奏の録音に加え、演奏のネット配信にも取り組みました。最近のヨーロッパはコロナと共生するあり方が定着してきましたので、演奏活動も再開できそうです。
荒井 私は2017年からウィーンに留学しました。尊敬する恩師にも出会えて、私の音楽観が変わりました。また、すばらしいコンサートやオペラに、安価でたくさん触れられることは幸せそのものです。
向井 航 2019年からドイツに留学し、作曲に集中できた2年間でした。コロナ禍のもとでは、自分の作品を見つめ直し、論文も書きました。アウトプットだけでなく、インプットができました。
向井 響 2019年にアントワープ、21年にはポルトガルに行きました。金銭的なストレスなく作曲に打ち込めました。
土岐 2019年にドイツに留学し、レッスンやマスタークラスなど当初は充実した日々でした。コロナ禍でオンライン・レッスンとなりましたが、新たなレパートリーに取り組んだり、自身の音楽表現を研究し直すことができました。
——ローム ミュージック ファンデーションでは認定式や報告会や、アーティスト研修会なども奨学生事業として行っていますね。これは奨学生の交流の場にもなっているそうですね。
木口 私は誰かと共演することが多いものの、それ以上に音楽仲間ができることは、活動の幅の広がりにもつながるのでありがたいです。
荒井 今回のようなコンサートは刺激になりますね。以前の奨学生の方々との出会いも大切にしたいと思っています。
向井 航 作曲家は孤独なので、こうした出会いは貴重です。同じ志を持った音楽家を見ると、身が引き締まり、また元気ももらえます。
向井響 私も同様です。今回のコンサートを機に、土岐さんのために当て書ができたことも大きな経験となりました。
土岐 出会いとともに、今回のように共演できることは大きな喜びです。音楽を通した対話には多くの学びや発見もあります。
——本日はありがとうございました。不透明な状況下でも、希望を持って前向きに海外でチャレンジしている若い音楽家のみなさんの勇姿に、胸が熱くなりました。おひとりおひとりの学びと想いがつながって生まれるスカラシップ コンサートを楽しみにしています。
【京都公演】
会場:京都府府民ホール アルティ
Vol.33
日時:7月30日(土)14時開演
出演:上野明子(ヴァイオリン)、佐山裕樹(チェロ)、東 亮汰(ヴァイオリン)、山本明尚(音楽学)、吉見友貴(ピアノ)
Vol.34
日時:7月30日(土)19時開演
出演:木口雄人(ピアノ・歌曲伴奏)、髙木凜々子(ヴァイオリン)、東條太河(ヴァイオリン)、五十嵐薫子(ピアノ)ほか
Vol.35
日時:7月31日(土)15時開演
出演:小野田健太(作曲)、橘和美優(ヴァイオリン)、土岐祐奈(ヴァイオリン)、久末 航(ピアノ)、リード希亜奈(ピアノ)、吉武 優(ピアノ)※「吉は土+口」
Vol.37
日時:8月19日(金)18時30分開演
出演:石井希衣(フルート)、石原悠企(ヴァイオリン)、開原由紀乃(ピアノ)、齋藤優貴(クラシックギター)、向井 航(作曲)、木口雄人(ピアノ)、佐藤元洋(ピアノ)、荒井優利奈(ヴァイオリン)
Vol.38
日時:8月21日(日)14時開演
出演:亀井聖矢(ピアノ)、佐々木つくし(ヴァイオリン)、佐藤元洋(ピアノ)、三村梨紗(トランペット)、山下愛陽(クラシックギター)、小井土文哉(ピアノ)、秋山紗穂(ピアノ)
Vol.39
日時:8月21日(日)19時開演
出演:小井土文哉(ピアノ)、鳥羽咲音(チェロ)、服部百音(ヴァイオリン)、リード希亜奈(ピアノ)、亀井聖矢(ピアノ)
【東京公演】
会場:浜離宮朝日ホール
Vol.36
日時:8月7日(日)15時開演
出演:有冨萌々子(ヴィオラ)、太田糸音(ピアノ)、香月 麗(チェロ)、向井 響 (作曲)、吉見友貴(ピアノ)、土岐祐奈(ヴァイオリン)、古海行子(ピアノ)、樋口一朗(ピアノ)
Vol.40
日時:8月27日(土)14時開演
出演:桑原志織(ピアノ)、清水勇磨(バリトン)、谷 昂登(ピアノ)、古海行子(ピアノ)ほか
Vol.41
日時:8月27日(土)19時開演
出演:秋山紗穂(ピアノ)、進藤実優(ピアノ)、高橋 維(ソプラノ)、中橋祐紀(作曲)、石原悠企(ヴァイオリン)、吉兼加奈子(ピアノ)
※全公演有料ライブ配信実施
料金:公演チケット・全席指定・税込各1,000円、オンラインコンサートチケット・税込各500円
※公演によっては、完売の可能性がございます。
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