世界最大級のクラシック音楽祭でライブパフォーマンスの醍醐味を
世界最大級のクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2018」が、今年もゴールデンウィークの丸の内を活気づける。ラ・フォル・ジュルネ発祥の地ナントも取材した音楽ジャーナリスト・飯尾洋一が、見どころをご案内。
音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...
旅を計画するように、音楽祭のハシゴ計画を練る
2月、フランスのナントで「ラ・フォル・ジュルネ」音楽祭を取材してきた。毎年5月の連休には東京で「ラ・フォル・ジュルネ」が開催されているが、この音楽祭の発祥の地がナント。音楽祭の創設者ルネ・マルタンの故郷でもある。
ナントでも東京でも「ラ・フォル・ジュルネ」のフォーマットは同じだ。開催期間中は朝早くから夜遅くまで、複数の会場で多数のコンサートが集中開催される。ひとつの公演の長さは45分程度が基本で、入場料は安価。最初に音楽祭のプログラムを目にしたときは、あまりにも公演の数が多くて目がくらむが、そのなかから自分が聴きたい公演を選び出して、ハシゴ計画を練るのはなかなか楽しい作業だ。
「旅は旅そのものよりも計画しているときがいちばん楽しい」などという人がいるが、この音楽祭にも似たところがある。豊富な選択肢から、自分だけのオリジナルコースメニューを作る。楽しいに決まっている。
東京の「ラ・フォル・ジュルネ」はうららかな5月の連休中に開催されることもあって家族連れの姿が目立つが、ナントの「ラ・フォル・ジュルネ」が開催されるのは冬の寒い時期である。お天気もいまひとつ。なぜそんな時期に開催されるかといえば、あえて他の音楽祭やイベントが開かれていない時期を狙って、話題が集まるようにしたからなんだとか。来場者は圧倒的に年配層が多く、東京より平均年齢ははるかに高い。しかし、客席の反応の敏感さという点では、ナントは東京に負けていない。というか、むしろよりはっきりしているといってもいいかもしれない。演奏が気に入ったときのお客さんたちの反応は、かなり熱烈だ。
ライブパフォーマンスの醍醐味を味わう
ナントで足を運んだ中で、もっとも客席がわきあがったのは、アンドレイ・ペトレンコ指揮エカテリンブルク・フィルハーモニー合唱団によるロシア・ソ連の宗教音楽と民謡集。前半はラフマニノフ、ペルト、シュニトケ、グレチャニノフらの宗教曲という、かなりシブいプログラムなのだが、後半になってロシア民謡が歌われると、客席の雰囲気はぐっと熱を帯びた。ロシアの大地を思わせる深く野太い声。土の匂いが伝わってくる。最後はお客さんは大盛り上がりで、総立ちで拍手喝采を送った。同じプログラムで東京でも公演が予定されるが、客席の反応はどうなるだろうか。
逆のパターンもある。これはもう何年も前にナントを訪れた際の出来事だが、メシアンの大作「峡谷から星々へ」が演奏されたことがある。客席は満員だ。ところが曲が進むにつれて、どんどんお客が席を立つ。演奏はよかったのだが、21時半開演という時間帯の遅さもあってのことだろうか。曲の途中でも平気で立つ。曲の切れ目でもなんでもないところで、ふっと立ち上がって帰ってしまうのだ。演奏が終わるころには空席だらけになってしまった。20世紀を代表する母国の偉大な作曲家に対して、それはないんじゃないの。ともあれ、最後まで残った少数派は大喝采を送った。なあ、メシアンの音楽、最高だよな。感動を分かち合うことで、客席には不思議な連帯感が生まれていた。
見知らぬだれかと体験を共有する。これこそライブパフォーマンスの醍醐味だろう。
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