イベント
2022.03.18
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール/春の特集「ホールの1年間」

琵琶湖のほとりにそびえる舞台芸術のオアシス〜滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールは、1998年に開館。音響の良さと、関西で初めて四面舞台を備えたことで話題になった大ホールは、それだけで訪れた人を魅了しますが、湖が一望できる環境の素晴らしさも備えた稀有なホールです。大中小3つのホールの特徴を生かした来シーズンのラインナップを聞きました。

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

写真提供:びわ湖ホール

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湖を一望できる唯一無二のロケーション

加藤 この湖のほとりに立つロケーションは、唯一無二ですね。ガラス張りのホワイエからは琵琶湖が一望できますし、開演の前後や休憩時間には、ホールから湖畔に出て、遊歩道を散策することができます。公演の余韻を噛み締めながら湖を渡る風に吹かれるのは、びわ湖ホールを訪れた人の特権です。

舘脇 そう言っていただけると嬉しいですね。びわ湖ホールには大、中、小の3つのホールがあり、それぞれの良さを活かした出し物を組んでいます。大ホールはおよそ1800席、客席より舞台のほうが広く、どんな演出にも対応できるような舞台機構が整っています。音響も、何をやっても自然に響くと評判です。

中ホールは800席で、2.5面の舞台があり、演劇からオペラまでさまざまな用途に向いています。小ホールは323席で、舞台と客席が近く、一流アーティストの演奏を身近に感じていただけます

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 総括プロデューサー舘脇昭さん。後ろに琵琶湖の景色が広がっている。©️飯島隆

ホールの顔は、沼尻竜典芸術監督の肝入りオペラ

加藤 恵まれた施設を生かして、年間を通して多彩なプログラムが組まれていますね。

舘脇 主催公演は年間57公演あります。オペラやコンサートに身体表現、伝統芸能、演劇など、あらゆるジャンルの舞台芸術をバランスよく楽しんでいただけるように、そして多くの方に繰り返しお越しいただけるように、魅力のある演目作りを心がけています

加藤 主催公演の目玉は、開館以来続き、ホールの「顔」とも言える「プロデュースオペラ」でしょうか。

舘脇 前芸術監督の故 若杉弘さんの時代はヴェルディの日本初演シリーズを、第2代の現芸術監督、沼尻竜典に代わってからは、ワーグナーを中心に上演。おかげさまで菊池寛賞、ENEOS音楽賞、ミュージック・ペンクラブ音楽賞、三菱UFJ信託音楽賞など数々の賞をいただいています。

ワーグナーはバイロイト音楽祭で上演される10作品が、2023年3月の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》で完結します。ちょうど沼尻の任期の最後で、大きな区切りになります。

「プロデュースオペラ」の《ローエングリン》第1幕から(2021年3月6日)。写真提供:びわ湖ホール

舘脇 沼尻は他館との共同制作にも積極的で、削減できた経費で「オペラセレクション」のシリーズが2007年に始まりました。2022年11月26、27日はロッシーニのオペラ《セビリアの理髪師》で、黒田博、祐貴の人気バリトン父子が共演します。

開館以来のオペラシリーズとしては、中ホールで上演される入門編「オペラへの招待」もあります。ホール専属の「びわ湖ホール声楽アンサンブル」のメンバーを起用して、大人向けの本格的なオペラと、青少年向けの日本語オペラの二本立てでお届けしています。今年は前者が7月のヴェルディ《ファルスタッフ》、後者が2023年1月の林光《森は生きている》を予定しています。

2021年1月に上演された「オペラへの招待」モーツァルト《魔笛》より(出演:びわ湖ホール声楽アンサンブル)

声楽アンサンブルが地元に足を運ぶ

加藤 ホール専属のプロの声楽家の団体「びわ湖ホール声楽アンサンブル」は、びわ湖ホールならではの強みですよね。

インタビュアーで音楽評論家の加藤浩子さん。©️ヒダキトモコ

舘脇 声楽アンサンブルは、オペラに限らず企画の核となる存在ですね。企画を考えるときは、声楽アンサンブルをどう展開していくかということが常に念頭にあります。アンサンブルが出る公演は、2022年度は70公演あり、学校への巡回公演を含めると100公演に上ります。

声楽アンサンブルが出る人気のシリーズに、12月の「美しい日本の歌」があります。歌謡曲の名曲を、メンバーの声域に合わせて編曲し、オーケストラ伴奏でお届けする企画です。ジャンルを超えた内容なので、初めてホールにお越しいただけるお客さまも見受けられ、多くの方に楽しんでいただいています。

びわ湖ホール声楽アンサンブルによる「美しい日本の歌」のステージ。本山秀毅の指揮による京都フィルハーモニー室内合奏団とともに(2021年8月7日)。©️栗山主税

加藤 地元への定着は、地域ホールの課題ですが、びわ湖ホールはどのような状況ですか。

舘脇 オペラ公演でいえば、「プロデュースオペラ」だと30パーセント近く、「オペラへの招待」は50パーセント以上のお客さまが県内からお越しいただいています。声楽アンサンブルが、学校巡回公演などで地元に入り込んでいるのも大きいかと思います。

地元の施設との連携も進めています。今シーズンは、10月に小ホールでリサイタルを開くピアニストの北村朋幹さんが、昨年リニューアルした滋賀県立美術館でジョン・ケージのプリペアド・ピアノの作品を弾くイベントも企画しています

音楽祭や子ども向けのコンサートなど、入り口を増やす

加藤 クラシックコンサートの敷居を低くするための催しも盛んです。

舘脇 沼尻がプロデュースする、「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」は、前日祭の4月29日と2日間で14公演と凝縮した催しです。価格もお手頃で時間の短いコンサートがたくさんあるので、いらしていただきやすく、人気ですね。

2021年の「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」から「生誕93年~田中信昭の至芸」

舘脇 オーケストラ入門としては、3月に大ホールで「子どものための管弦楽教室」(2022年2023年)を実施し、藤岡幸夫さんのような人気の指揮者を招聘しています。

普及事業も幅広く行なっていまして、沼尻が講師を務めるオペラ指揮者セミナー、山崎美奈さんや林康子さんが指導する声楽研修など、演奏者の成長を見ていただける機会を提供しています

加藤 小ホールではピアノや室内楽の公演が主ですが、最近は弦楽四重奏が人気ですね。

舘脇 カルテットは、ホールで最後にお客様が集まるところと言われているのですが、企画するととても人気で、大入り袋が出たりするんですね。

それで今シーズンは「室内楽への招待」と銘打って、海外の有名弦楽四重奏団を招聘しています。新しいお客様が開拓できるのではないかと期待しています

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

[運営](公財)びわ湖芸術文化財団

[座席数]大ホール 1848席(オーケスラピット設営時 1712席、親子室 2室)中ホール 804席、小ホール 323席

[オープン]1998年

[住所]〒520-0806 滋賀県大津市打出浜15−1

[問い合わせ]Tel.077-523-7136

https://www.biwako-hall.or.jp/

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

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