P.ヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィル “交響曲の飛躍”を現代最上の名演で聴く
“黄金のコンビ”が、東京オペラシティに帰って来る――。アグレッシヴなプレーと新鮮なサウンド創りで、来日を重ねる度に強烈な印象を残してゆくドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団。芸術監督のパーヴォ・ヤルヴィに率いられて、12月に4年ぶりとなる来日を果たす。近年とりわけ力を注いでいるハイドン、常にレパートリーの核に据えているベートーヴェンと、2夜にわたって交響曲の佳品を披露。しかも、今回のアジア・ツアーでの日本国内での公演は、この2つのステージのみとなる。
1965年、神戸市生まれ。産経新聞文化部記者を経て、音楽ジャーナリストとして、『音楽の友』『レコード芸術』ほか各誌への寄稿や、数多くのCD解説を手掛ける。音楽全般を故...
自主・独立の姿勢がステージ上での積極性や音楽づくりに色濃く反映
1980年に若い音楽家有志たちにより、フランクフルトで設立(1992年からの拠点はブレーメン)されて以来、歴代の首席指揮者や芸術監督の任命も含めて、運営方針はすべてメンバーの総意に基づいて決められるドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団(Die Deutsche Kammerphilharmonie Bremen=以下、DKBと表記)。
音楽的にも、経済的にも、常に自主・独立を保つ姿勢は、トップの席に座る奏者のみならず、メンバー全員が“アインザッツ”を出しているかのような、ステージ上での積極性にもよく表れている。その姿勢はまた、音楽づくり自体にも色濃く反映。一丸となってひとつの方向へ向かうトゥッティの爽快さの一方で、各楽器のソロに滲む個々の奏者の創意が、サウンドへ限りない滋味をもたらす。
超人気指揮者パーヴォ・ヤルヴィが18年にわたりコラボレーション
そんな精鋭集団のシェフを18年にわたって務めているのが、超人気指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ。現任のチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の首席指揮者だけでなく、これまでもhr交響楽団やパリ管弦楽団、NHK交響楽団などのシェフを兼任する“売れっ子”の立場にありながら、変わらずDKBとのコラボレーションを続けてきた。
特に古典派のレパートリーにおいては、金管やティンパニにピリオド楽器を用いた“ハイブリッド”の編成で臨み、HIP(Historically Informed Practice=歴史的情報に基づいた演奏実践)に拠る透明感あふれるサウンドを基本に、さらに、DKBならではの自主性を決して妨げることなく、むしろ十二分に生かすことによって、快演を次々と生み出してきた。
東京オペラシティにおける鮮烈な名演の数々
東京オペラシティにおいても、2010年のシューマンの交響曲全曲演奏会や、2014年のブラームス・シンフォニック・クロノロジー、2018年のバッハ・モーツァルト・シューベルトと、ここで繰り広げられた鮮烈な名演の数々は、今も音楽ファンの間で語り草に。
しかし、こうした一連のコラボレーションのひとつの頂点となるはずだったベートーヴェンの交響曲全曲演奏会――ベートーヴェン⽣誕250年の2020年に予定され、DKBにとっては東京で初――が、コロナ禍を受けて中⽌に。それだけに、今回の来日公演へ寄せるファンの期待もひとしおだろう。
これまで経験したことのない、“攻め”のハイドン
第1夜[12/8]は、ハイドン後期の金字塔「ロンドン・セット」(ハイドンがザロモンの招きでロンドンを訪問するにあたり1791~95年に作曲した12の交響曲)からの3曲。“交響曲の父”の集大成となる最終作・第104番《ロンドン》を軸に、第96番《奇跡》と第102番が披露される。
「完璧なるハイドン」と題した拠点ブレーメンでの演奏会をはじめ、ウィーンのコンツェルトハウスなど、昨秋から集中してハイドンの後期交響曲に取り組む彼ら。かねがねヤルヴィは「我々の演奏するハイドンは、いわゆる“ウィーン⾵”ではない」と公言している上に、この来日公演の直前には、まさにそのウィーンでロンドン・セットからの3曲を披露するという絶妙のタイミングもあって、これまで経験したことのない、“攻め”のハイドン像が現出されそうだ。
コンビの“代名詞”であり、“進化”を続けるベートーヴェン
そして、第2夜[12/9]では、幅広いレパートリーを誇る彼らにあって、その“原点”とも言うべきベートーヴェンへ回帰。その全集録音で、ヤルヴィは2010 年のエコー・クラシック年間最優秀指揮者賞を受賞している。その後も、ステージで折に触れて取り上げるなど、ベートーヴェンは、まさにこのコンビにとっての“代名詞”に。しかも、彼らのベートーヴェンは、決して同じ演奏を繰り返すことなく、常に“進化”を続けている。
楽聖が交響曲の創作において、最初の劇的な飛躍を遂げた第3番《英雄》を軸に、ハイドン風の瀟洒な第8番、さらに《コリオラン》序曲を取り上げる今回。そんな彼らのベートーヴェン解釈の“いま”を捉える、好機ともなろう。
ベートーヴェンとその師ハイドンを続けて聴くことの価値
そしてつい忘れてしまいがちな事実だが、ハイドンはベートーヴェンの師でもある。さらにこの2人の大作曲家によって、いかに「交響曲」というジャンルが劇的な発展を成し得たか、という事実も……。こうした面からしても、彼らの珠玉の交響曲を2夜続けて、しかも極めて先鋭的な演奏で味わえることに、どれほどの価値と愉悦が見出せることか。
それは、未だコロナ禍の影響が続く今の状況を考えあわせれば、なおさらのこと。ぜひとも2夜のステージの両方を味わって、音楽史における“交響曲の飛躍”を、現代における最上の名演で体感してみたい。
⽇時: 2022 年 12 ⽉ 8 ⽇(⽊)19:00/9 ⽇(⾦)19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール︓タケミツ メモリアル
出演:パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団
曲⽬:
12 ⽉ 8 ⽇(⽊)
ハイドン︓
交響曲第 102 番 変ロ⻑調 Hob.I:102
交響曲第 96 番 ニ⻑調 Hob.I:96《奇跡》
交響曲第 104 番 ニ⻑調 Hob.I:104《ロンドン》
12 ⽉ 9 ⽇(⾦)
ベートーヴェン︓
《コリオラン》序曲 op.62
交響曲第 8 番 ヘ⻑調 op.93
交響曲第 3 番 変ホ⻑調 op.55《英雄》
チケット料⾦:[各⽇]S:¥15,000 A:¥12,000 B:¥10,000 C:¥8,000 D:¥6,000 (全席指定・税込)
2 公演セット券 S:¥28,000 ※セット券は東京オペラシティチケットセンター(電話・店頭・ネット予約)のみ取扱
問合せ:東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999
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