イベント
2019.12.18
名物楽団員にもアンケート! 九州交響楽団

九州交響楽団が音楽監督・小泉和裕とともに目指す姿とは?

「あなたの街のオーケストラ」をうたう九州交響楽団。来場者と楽団員との「交流カフェ」や「ロビーコンサート」、「クラシック講座」など、地元を大切にする企画を立てながらも、音楽監督・小泉和裕をはじめ、名だたる指揮者やソリストを迎えて躍進中!

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

写真:ヒダキトモコ

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目次

音楽監督・小泉和裕にきく!

小泉和裕の力の源は、博多の後援会や農作業

九州交響楽団は、福岡のまちのオーケストラとして、定期演奏会で開演前にロビー・コンサートを行ったり、「名曲♪午後のオーケストラ」では、終演後に、指揮者、独奏者、楽団員を交えて、「九響交流カフェ」をひらいたり、聴衆と身近な関係を作ろうと努力している。

「名曲♪午後のオーケストラ」終演後30分ほど、「九響交流カフェ」が行なわれる。
来場者と楽団員とが語らうことができる貴重な時間だ。
定期演奏会の約2週間前に、「目からウロコ!? のクラシック講座」で聴きどころを無料で解説。聴衆とのざっくばらんな意見交換の場ともなっているそうだ。会場はアクロス福岡円形ホール。

小泉和裕は、1990年代前半に7年間、九響の首席指揮者を務めたあと、2013年に九響の音楽監督に就任した

「僕の女房が唐津の出身で、九響は親近感のある近い存在でした。首席指揮者時代に博多の街で僕の後援会が作られて、それは今でもあり、支援し続けてくれていて、僕にとって、大きな力となっています」

小泉は現在、九響のほか、名古屋フィルの音楽監督、神奈川フィルの特別客演指揮者、東京都交響楽団の終身名誉指揮者を兼務している。

そんな超多忙の身ながら、春、夏、秋にはそれぞれ2、3週間、必ず、飛騨古川の家に行き、農作業に取り組む。

「リラックスできます。あそこは空気が良いので体が活性化され、動きたくなります」

師匠カラヤンを彷彿とさせる指揮

2020年度、九響は9回定期演奏会をひらき、そのうち4回、小泉が登場する(日本のオーケストラのシェフとしてはかなり高い頻度といえるだろう)。

シーズン・オープニングの4月には、ベートーヴェンの生誕250周年を祝して、《ミサ・ソレムニス》を取り上げる。9月は、昨年の第8番、今年の第3番に続いてマーラーの交響曲第2番《復活》を振る。12月は、ヒンデミットの交響曲《画家マチス》とシューマンの交響曲第2番などのドイツ・プログラム。そして21年2月はチャイコフスキーの交響曲第6番《悲愴》を指揮する。

ベートーヴェン・イヤーということで、それなら一番の大作である《ミサ・ソレムニス》をやりたいと思いました。九響合唱団がとても優秀なのです。

マーラーの《復活》は、昨年度の第8番と今年の第3番が大成功したので、連続して取り上げます。結果的に、合唱付きの交響曲となりました。ここでも九響合唱団を聴いていただけます。

シューマンは、オーケストラにとって難しいのであまり演奏機会がありませんが、僕はよく取り上げています。ポピュラーではありませんが、素晴らしい作品であることをお客さんに知っていただきたいです。

ロシア音楽は僕に合っているようで、自信をもって《悲愴》を取り上げます」

今年70歳になった小泉の指揮は、ますます師匠であるカラヤンを彷彿とさせる。1973年にカラヤン国際指揮者コンクールで優勝し、カラヤンのもとで学び、20歳代半ばでベルリン・フィルやウィーン・フィルを指揮した。

「カラヤン・コンクールの演奏を聴いてカラヤンさん自身が第1位を決めたのですから、可能性があると思ってくれたのでしょう。

カラヤンさんから『すべてのリハーサルに勉強に来なさい』といわれ、ザルツブルクではオペラの仕込みから全部を学びましたし、ベルリンに住んで、ベルリンのフィルハーモニーでレパートリーの勉強ができたのは一番大きいですね。

カラヤンさんのリハーサルでは、当たり前のことが特別なことになりました。人に魔術をかけていたのですね」

クオリティの高い音楽を地元に

小泉が登場する以外の定期演奏会では、フィンランドの名匠、オッコ・カム、東京交響楽団で音楽監督を務めたユベール・スダーン、指揮者・鍵盤奏者としてバロックから現代音楽までマルチに活躍する鈴木優人、シンガポール出身の気鋭のマエストロ、カーチュン・ウォン、コンサートとオペラの両方で活躍する沼尻竜典が客演する。

深澤功音楽主幹は、九響の今後について次のように語る。

九州交響楽団の元コントラバス奏者、深澤功音楽主幹。

街の人たちにとって近い存在でありたいと思っています。九響は昔に比べて演奏技術がレベル・アップしました。そういうクオリティの高い楽団が身近にあることを知ってほしいと思います。さらにパワー・アップして、ソフトバンク・ホークスのような、地元の誇りとなるようなオーケストラになりたいと願っています

そのためにも、来年3月の東京公演のように外に出て、評価を受けて、日本全国での九響の認知度もアップさせたいですね

東京公演

日時:2020年3月14日(土)19時開演

会場: サントリーホール

曲目:ベートーヴェン/交響曲 第4番 変ロ長調 作品60、R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」作品40

指揮:小泉和裕

詳しくはこちら

九州交響楽団の紹介映像(制作:株式会社 カウテレビジョン)

楽団員にきく! 新シーズンのベスト・プログラム

「休日は何をしていますか?」「とっておきの練習方法は?」「本番前のジンクスは?」のいずれかの質問にお答えいただく形で自己紹介。そして、来たる2020/2021年シーズンに楽しみにしているプログラムをご紹介いただきました。

プライベート写真にもご注目!

ソロ・コンサートマスター 扇谷 泰朋(おうぎたに・やすとも)

Q. 休日は何をしていますか?

子守り。あとゴルフです。

Q. 本番前のジンクスは?

僕は本番前に特別なことは何もしていません。必ずすると決めているルーティンもないし、これを食べるとかもない。ステージ上が僕にとって特別な時間だから、公演直前まで普段と同じようにムダ話もするし、自宅で過ごすのと変わらないくらいリラックスしています。ある意味、ジンクスがないのがジンクスです。

Q. あなたにとって、新シーズンのベスト・プログラムは?

 第384回 定期演奏会

宗教を超え自由と平和を求めたベートーヴェンのメッセージ

日時:2020年4月24日(金)19:00開演

会場:福岡シンフォニーホール

曲目:ベートーヴェン/ミサ・ソレムニス ニ長調 作品123

指揮:小泉和裕

独唱:並河寿美(ソプラノ)、清水華澄(アルト)、吉田浩之(テノール)、山下浩司(バス)

詳しくはこちら

この数年、合唱付きの交響曲を演奏する機会が多くなりました。九響合唱団を主体とした合唱団との共演を重ねるごとに、彼らと九響との関係がどんどん密になっている手応えを感じています

ベートーヴェン・イヤーの2020年。シーズン最初の定期で演奏するベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」は、そういう意味でも注目です。個人的には“Benedictus”のソロがイヤなんですけどね(笑)。

チェロ首席奏者 山本 直輝(やまもと・なおき)

Q. 休日は何をしていますか?

休日といっても次の演奏会の準備で終わってしまうことが多いですが、本気で休もうと思うときは、だいたい寝ています(笑)。

その他は、コーヒーを豆から挽いて飲んだりしてリラックスしたり、最近車を買ったのでドライブに出かけたり。あと洗車ですね。洗車に没頭している間に自分もリセットされる感じがして、新しい趣味になりかけています。

Q. あなたにとって、新シーズンのベスト・プログラムは?

天神でクラシック 音楽プロムナード vol.37 安永徹と九響の仲間たち/第68回北九州定期演奏会

日時:2020年5月9日(土)15:00開演、10日(日)15:00開演

会場:FFGホール(5月9日)、北九州市立響ホール(5月10日)

曲目:ドヴォルザーク/弦楽セレナード ホ長調 作品22、シューベルト/交響曲 第5番 変ロ長調 D 485、ハイドン/協奏交響曲 変ロ長調 Hob.I-105

出演: 安永徹(ヴァイオリン&お話)、山本直輝(チェロ)、佐藤太一(オーボエ)、埜口浩之(ファゴット)

詳しくはこちら

安永徹さん(註:元ベルリン・フィル第1コンサートマスターで福岡市出身)とは、僕がまだ九響に入団して間もないときに共演させていただきました。そのときも指揮者なしの演奏会でしたが、安永さんにいつも以上に集中力を引き出していただいた良い本番だったことを覚えています。僕の⻑いソロがある楽章が終わったところで、ウインクしてくれたのも忘れられません。

その安永さんと再び共演できることはとても嬉しいですし、ハイドン の「協奏交響曲」では、自分が4人のソリストのうちの1人として演奏することもあって、僕にとっては 2020 年シーズンの一大イベントの一つです。

トロンボーン首席奏者 髙井 郁花(たかい・あやか)

Q. 休日は何をしていますか?

最近は大人のバレエ教室に通っています。

Q. 本番前のジンクスは?

楽屋でナンプレ(数独)をやっています。超難問をひたすら解く。数字だけに集中することで本番前に過度の緊張を感じることもないし、邪念が取り除かれる気がして(笑)。

写真は11月9日の第19回名曲午後のオーケストラ公演前にナンプレをしているところを撮ってもらいました。

Q. あなたにとって、新シーズンのベスト・プログラムは?

第388回 定期演奏会

戦後75年へⅡ 小泉・九響マーラー第3弾「復活」

日時:2020年9月19日(土)15:00開演

会場:福岡シンフォニーホール

曲目:マーラー/交響曲 第2番 ハ短調「復活」

指揮:小泉和裕

出演:安井陽子(ソプラノ)、福原寿美枝(アルト)、九響合唱団 ほか

詳しくはこちら

2018年の「千人の交響曲」、2019年の「第3番」に続くマーラー交響曲。

この「復活」には、オーケストラ・スタディでも取り上げられるトロンボーンの非常に美しいコラールがあります。トロンボーンという楽器は元来教会で歌われる宗教曲で演奏していたことなどから、神や死の暗示に使われることが多いですが、「復活」でもまさにそう。第5楽章でトロンボーン4本とテューバが奏でる荘厳なハーモニーとその後の力強い旋律……トロンボーン奏者冥利につきる瞬間です。

取材・文
山田治生
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山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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