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2022.01.21
高橋彩子の「耳から“観る”舞台」第25回

共演を重ねる山田うんと高橋悠治による「ストラヴィンスキープログラム」

演劇・舞踊ライターの高橋彩子さんが、「音」から舞台作品を紹介する連載。
数々のクラシック音楽作品に振付をしてきた山田うん。1月28〜30日には KAAT神奈川芸術劇場で、2013年と15年に群舞バージョンを上演し好評だった『春の祭典』を含む「ストラヴィンスキープログラム」を上演予定です。この公演を前に、高橋さんは何を思うのでしょうか?

高橋彩子
高橋彩子 舞踊・演劇ライター

早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...

『春の祭典』より。
©羽鳥直志

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優れた作曲家・演奏家による音楽の力は無限大だ。視覚的な仕掛けを伴わなくとも、情景を、感情を、浮かび上がらせてくれる。だがそこにユニークな視覚が伴えば、音・音楽もまた違って聴こえてくるから、これまた楽しい。ダンスカンパニーCo.山田うんの「ストラヴィンスキープログラム」は、そんな体験をもたらしてくれそうな公演だ。

クラシック音楽と積み重ねてきた歴史

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Co.山田うんを率いる山田うんは、作品ごとにバラエティ豊かな世界を提示しているが、近年は特に、クラシック音楽との関わりの深いダンスを多く生み出しているダンサー・振付家だ。

振付家、山田うん。
©HAL KUZUYA

そのターニングポイントの1つとも呼びたいのが、ストラヴィンスキーの《春の祭典》誕生100周年の2013年、Co.山田うん「ストラヴィンスキープログラム」として発表した『結婚』と『春の祭典』の2作。

『結婚』は、山田と、Co.山田うんのメンバーでもあるダンサー川合ロンのデュオ。音楽の諧謔味や混沌としたパワー、そして最後にはエロティックな床入りまでをダイナミックに表現するものだった。

一方、『春の祭典』は総勢12名の群舞。豊富な舞踊言語を駆使して絶妙に編まれた立体的な振付と、激しく荒々しくそれを体現するむき出しの肉体のエネルギーは圧倒的だった。なお、この『春の祭典』は、2015年にも再演されている。このときは芳垣安洋およびクルト・ヴァイルの音楽に振り付けた『七つの大罪』とのカップリングだった。

『結婚』は、山田うんと川合ロンのデュオ作品。
『結婚』より。
©羽鳥直志
『春の祭典』より。
©羽鳥直志

『結婚』『春の祭典』を初演した2013年はもう一つ、山田にとって大きな出会いがあった年だ。

『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』で山田は、川合ロンと共に、高橋悠治と初共演。筆者はこの公演を見逃したが、翌2014年、サティ《星たちの息子》全曲版を上演した青山円形劇場での『山田うん×高橋悠治』公演には足を運んだ。まるで絵画が少しずつ動き出すかのように、小さな動きからスタートし、高橋の音楽の展開と共に踊りを広げていった山田。円形劇場いっぱいに音の粒が広がるさまは、星空の只中にいるかのようだった。山田と高橋は、2019年にも『高橋悠治 山田うん エリック・サティ』公演で共演している。

『星たちの息子』より。
©羽鳥直志

2019年にCo.山田うんで発表した『プレリュード』も忘れ難い。

これは、ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー第一幕への前奏曲》《ローエングリン第三幕への前奏曲》、レーラ・アウエルバッハ《ヴァイオリンとピアノのための24の前奏曲》、ドビュッシー《牧神の午後への前奏曲》、ラフマニノフ《10の前奏曲23》、スクリャービン《左手のためのプレリュード》、カプースチン《24のプレリュード》、ヴィシネグラツキー《二台の四分音ピアノのための24のプレリュード》の計8曲の前奏曲で60分、一気に踊り抜ける快作だった。改めて、音楽の視覚化と呼ぶにふさわしい緻密で鮮やかな構成に唸らされたものだ。

なお、2021年には、日本のクラシック音楽(?)、聲明(声明の会・千年の聲)とCo.山田うんが共演する『Bridge』を振付・演出。「二つの小宇宙―めぐりあう今―」という企画の中で上演された本作では、聴覚と視覚、伝統と現代が混じり合い、豊かな世界が生まれていた。

新たに生まれる「ストラヴィンスキープログラム」

このように音楽との関係を深めてきた山田が、2013年の「ストラヴィンスキープログラム」以来9年ぶりに、再び同じ公演タイトルで送るのが、今月末の「ストラヴィンスキープログラム」だ。演目は、『春の祭典』『5本の指で』『ピアノ・ソナタ』。『春の祭典』は、カンパニーメンバーたちが踊った前回と異なり、今回は山田のソロダンスとして新たに創作される。一方、『5本の指で』と『ピアノ・ソナタ』はCo.山田うんの面々が踊る。注目したいのは3作品とも、演奏に、2013年以来、共演を重ねる高橋悠治が携わること。ここに至って、この9年における山田の音楽の2つの流れ、“ストラヴィンスキー”と“高橋悠治”が合流したようにも感じるではないか。

今回の公演のチラシ。

まず、『春の祭典』は、高橋と青柳いづみこの四手連弾演奏となる。

有名な《春の祭典》管弦楽版に先立って出版されていた連弾版。1968年まで世界初演されることはなかったが、ストラヴィンスキーは評論家の家でドビュッシーとこの曲を連弾したという。高橋は2017年、ドビュッシーの演奏や執筆で知られる青柳と、CD『ストラヴィンスキー : 春の祭典 | ペトルーシュカ』をリリース。今回も息の合った名演奏を聴かせてくれることだろう。

高橋悠治
え・柳生弦一郎
青柳いづみこ
©️Miho KAKUTA

山田は、「(群舞による『春の祭典』を)再演すればするほど、この音楽の別の可能性に気付き、別の顔をした『春の祭典』に出会いたくなった」(公演HPより)ところへ、高橋と青柳の連弾版に出会い、以来、構想を温めていたという。これまで幾多の舞踊作品になっている名曲だが、大人数での作品が多いなか、ソロはかなりレア。山田は一体どのような踊りを見せるのだろうか。

『5本の指で』『ピアノ・ソナタ』は高橋の演奏。前者は全8曲をダンサー5名が踊り、後者は楽章ごとに異なるデュオで構成するという。

ストラヴィンスキー没後50年の昨年は、Noism0+Noism1+Noism2やイスラエル・ガルバンが『春の祭典』を上演した(ほかにセルゲイ・ポルーニンの来日公演も予定されていたがコロナ禍で中止)が、今年も本公演、さらに3月には「黒田育世 再演譚」として黒田育世が『春の祭典』を再演するなど、まだまだ上演は続きそう。

理屈を超えた原初的なエネルギーが躍動し炸裂する“春祭”は、コロナが暗い影を落とし、先行きが見えない今こそ、私たちが求めるべきものなのかもしれない。

Co.山田うん「ストラヴィンスキープログラム」新作「春の祭典」「5本の指で」「ピアノソナタ」
公演情報
Co.山田うん「ストラヴィンスキープログラム」新作「春の祭典」「5本の指で」「ピアノソナタ」

日時: 2022年1月28日(金)19:00開演

2022年1月29日(土)15:00開演

2022年1月30日(日)14:00開演
会場: KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉

音楽: イーゴリ・ストラヴィンスキー

演出・振付: 山田うん

ダンス: 山田うん、飯森沙百合、木原浩太 黒田勇、田中朝子、西山友貴、仁田晶凱、長谷川暢、望月寛斗、山口将太朗、山崎眞結、山根海音
ピアノ: 高橋悠治、青柳いづみこ

空間美術・ドローイング: 光嶋裕介

照明: 藤田雅彦(株式会社金沢舞台)

衣装: 飛田正浩(spoken words project) 
舞台監督: 原口佳子(モリブデン) 

制作: KiKi inc. 、上原聴子

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高橋彩子
高橋彩子 舞踊・演劇ライター

早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...

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