ウィーン・フィルの ニューイヤーコンサート2025~楽団の伝統と「今」を感じるプログラム
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートといえば、1月1日にウィーンの楽友協会で開催され、日本でもテレビ中継で視聴できる新年の風物詩。2025年のプログラムについて、特徴や聴きどころを紹介します! 生誕200年を迎えるヨハン・シュトラウス2世の作品はもちろん、ウィーン・フィルの「今」が見えてくる挑戦的なプログラムに期待が高まります。
ムーティが2021年以来の登場!
「ワルツ王」として知られるヨハン・シュトラウス2世(1825~99、以下「シュトラウス2世」と略)。2025年は、彼が生まれてから、ちょうど200年目のアニヴァーサリーイヤーとなる。
そんな記念すべき1年の幕開けにおこなわれる、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(以下「ウィーン・フィル」と略)主催の「ニューイヤーコンサート2025」。これまでも、シュトラウス2世、あるいは彼の父親ヨハン・シュトラウス1世(1804~49、以下「シュトラウス1世」と略)、弟のヨーゼフ・シュトラウス(1827~70)やエドゥアルト・シュトラウス(1835~1916)の作品が主軸となっている。
しかも今回指揮台に上るのは、ウィーン・フィルと緊密な関係で結ばれ、ニューイヤーコンサート7回目の登場となるリッカルド・ムーティ(1941~)。彼が80歳を迎えた年にあたる前回2021年には、コロナ禍の下でロックダウンが起きる中、ニューイヤーコンサート史上初の無観客上演となった。
というわけで、前回のリベンジマッチという意味合いもあるのだろう。これまでもムーティがニューイヤーコンサートにおいて指揮した曲(《入り江のワルツ》、ワルツ《トランスアクツィオン》など)を回顧しながら、最近のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの傾向を反映して、新たなレパートリーも手掛けるという挑戦心あふれるプログラムとなっている。
ムーティ指揮による2021年のニューイヤーコンサート
女性作曲家の作品に象徴されるウィーン・フィルの「今」
ニューイヤーコンサート初登場となるいくつかの曲の中でも要注目なのが、コンスタンツェ・ガイガー(1835〜90)作曲《フェルディナント・ワルツ》。ガイガーは19世紀半ば、天才少女ピアニストとして話題を呼び、作曲活動も展開するものの、やがて忘却の彼方に葬られてしまった人物だ。
そんな忘れられた天才の再発見、しかもジェンダー平等の世相を反映して、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでは初めて女性作曲家の作品が取り上げられる。かつて男性しか入団できなかったのとは対照的に、最近では女性も次々と正式メンバーに加わりつつある、ウィーン・フィルの「今」を示す1曲だ。
ウィーン出身のピアニスト、作曲家。作曲家の父の元に生まれ、6歳のときにはすでにピアニストとしてコンサートに出演するなど、早くから才能を見出された
また、ウィーン・フィルとニューイヤーコンサートの繋がりということでいえば、ワルツ《オーストリアの村燕》、ワルツ《加速度》、《ジプシー男爵》序曲が目を引く。これらの曲目は、ニューイヤーコンサートの定番というだけにとどまらず、カルロス・クライバー(1930〜2004)やヘルベルト・フォン・カラヤン(1908〜89)が指揮をし、伝説的な名演となった1900年代末のニューイヤーコンサートを彷彿させるものだからだ。
しかもムーティ自身、カラヤンに重用され、クライバーと親しかったことを考えると、これは自らの尊敬する先達あるいは仲間に捧げられた、彼自身のオマージュということもできる。
クライバー指揮による1992年のニューイヤーコンサート。3曲目にワルツ《オーストリアの村燕》、5曲目に《ジプシー男爵》序曲が入っている
ヨハン・シュトラウス2世が生きた時代と現代を往還する
シュトラウス2世が生きていた時代のウィーンは、名門貴族ハプスブルク家の治める巨大帝国の都として、数世紀にわたる伝統と格式を保ち続けていた。と同時に、産業革命や科学革命がおきつつあった社会に相応しい近代都市へと変貌も遂げつつあった。ウィーンの誇るいわばポップスターだったシュトラウス2世自身、そうしたウィーンの世相を採り入れた作品を数多く残している。
今回の演奏会でも、そんなシュトラウス2世や「同時代性」を反映した作品も光る。ポルカ《取り壊し屋》はその典型で、古い市壁が取り壊され、現在のウィーンの中心街を成す豪華な環状道路や真新しい建物が姿を現しつつあったウィーンの姿を如実に伝えてくれる1曲だ。
かと思えば、都市改造の一方でウィーンの森やドナウ河を中心に美しい自然が保たれ、今や世界を代表するエコシティになっているウィーンを象徴するかのように、ワルツ《オーストリアの村燕》が取り上げられるのもミソである。つまりここには、「過去」のウィーンを振り返りつつ、その遺産が「現在」にも受け継がれているウィーンならではの姿が浮き彫りになっている。
そんな「過去」と「現在」の往還を、世界でも唯一無二の響きを通じて鮮やかに示してくれるオーケストラこそが、ウィーン・フィルに他ならない。
ポルカ《取り壊し屋》、ワルツ《オーストリアの村燕》
時代の流れとともに変化するウィーン・フィルで「引き継がれるDNA」
もちろん、同じオーケストラであっても、年月とともに団員は変わってゆく。とくに近年のウィーン・フィルは、女性を含め若い団員が増えており、昔の音が変わったと指摘する声も少なくない。
たしかにかつての録音と、近年の録音を聴き比べてみると、この老舗オーケストラの音色も変化している。とくにニューイヤーコンサート草創期の指揮者クレメンス・クラウス(1893~1954)が指揮した1940・50年代の録音、さらに彼の指揮の下でコンサートマスターを務めていたウィリー・ボスフコフスキー(1909~91)の1960・70年代の録音に聴かれた「鄙びた味わい」は、後退している。
ただし、ワルツを奏でるときの三拍子のリズムの崩し方、メロディの艶やかな歌わせ方を聴いていると、オーケストラのDNAは若い世代の団員にも脈々と受け継がれていることがよくわかる。それもこれも、録音技術が存在しているおかげであって、それを通じて私たちは過去と現在のウィーン・フィルの「差異」と「共通性」を同時に知ることができる。
ムーティも今年で84歳。彼自身、その伝統形成の一翼を担ってきたウィーン・フィルのニューイヤーコンサートが、いよいよ幕をあける。
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