イベント
2020.03.18
高崎芸術劇場/特集「人がホールをつくる」

3つのホールが織りなす新たな文化の発信地~高崎芸術劇場

2019年9月に開館したばかりの群馬県の高崎芸術劇場。3つのカラーの異なる劇場が、多彩なジャンルや編成のプログラムを組み、高崎市民ばかりでなく、近県からも多数訪れる文化の発信地となっている。交通の要所であり、お祭りが好きで賑わいの街である高崎の風土が反映されたラインナップとは?

ナビゲーター
小倉多美子
ナビゲーター
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

高崎芸術劇場の外観(写真提供:高崎芸術劇場)

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高崎市が誇る新しい文化拠点

高崎の駅から、専用の1本道で5分。バリアフリーで滑り込むように入れる「高崎芸術劇場」。

燦燦と陽光に包まれ、広々とした快適な新文化拠点には、2027席の大ホール、412席の音楽ホール、スタンディングで最大1000人収容可能なスタジオシアターをはじめ、オーケストラ(14型ぐらい)が練習できるリハーサルホールや、種々の活動に使用可能な創造的スペース9室を備え、既にソールドアウトのイヴェント続出の賑わいを見せている。年会費も無料の「高崎芸術劇場メンバーズ」は2月の時点で2万名近くになっている。

高崎駅から高崎芸術劇場まで、歩行者専用通路ができていて圧巻。
駅からのデッキから、ガラス張りの明るい館内に入った2階には、赤を基調とした大劇場が存在感を示す。
スタジオシアターの能舞台は、日本初の吊り下げ方式。檜造り・本屋根を有す本格舞台で、野村萬斎らの「翁」(能)や「二人袴」(狂言)などで、2月にこけら落としをした。
412席の音楽ホール。世界トップクラスの奏者のアンサンブルなど、希少価値の高い公演を企画。

全国でも上演機会の少ない話題の舞台を

「今ここでしか観られない、ここに来れば聴けるんだ!」という公演が続々。新国立劇場バレエの《不思議の国のアリス》(6月27日28日)は、2011年に英国ロイヤル・バレエで世界初演されたあと、2019年の新国立劇場で日本初演されて全公演完売した話題作。

6月には新国立劇場バレエの《不思議の国のアリス》を上演。

5月にはモーリス・ベジャール・バレエ団の、クイーンの名曲とヴェルサーチの衣装、映像も交えての傑作《バレエ・フォー・ライフ》(5月29日)があり、6月には夏木マリ演出・土屋太鳳出演の「印象派 NÉO」vol.4 「The Last of Pinocchio ピノキオの終わり」(6月27日)が続く。

モーリス・ベジャール・バレエ団《バレエ・フォー・ライフ》

夏木マリ演出の印象派NÉOシリーズでは、童話を題材にした作品を上演。主人公が主役とは限らない、童話の残酷性と現代社会が演出のコンセプト。

「印象派 NÉO」vol.4 「The Last of Pinocchio ピノキオの終わり」

実は、ベジャールや新国立劇場バレエに向けては、1月に「ODS(オーディエンス)シアター」で、パリ・オペラ座の「バレエ・リュス」、3月にマシュー・ボーンの《白鳥の湖》の映像が上映され、これを観たら、次はこの舞台も見てみたい、そしてだんだん知識や鑑賞が深まれば、と思ってもらえる関連性を腐心している」(高崎芸術劇場部 事業課課長・串田千明さん)とのこと。企画を担当する4人の精鋭部隊が、複合施設を巧みに活用したプログラムを続々と繰り出している。

(公財)高崎財団 高崎芸術劇場部事業課課長・串田千明さん。「高崎市は文化に対する理解がある。インパクトがあって遊び心のあるもの、いいものを求める土壌がある」と話す。

本拠地とする群馬交響楽団も満足する音響

そして、群馬といえば、地元が愛する群馬交響楽団。オープニングを《第九》で飾り、ここを本拠に定期公演を行なっていく。

2019年9月20日のこけら落とし公演は、群馬交響楽団が高崎第九合唱団とともに大劇場に登場。群響は館内にオフィスや楽器庫、練習場をもち、本拠地として活動している。

4月には世界の大植英次。現在チェコを代表する円熟のミハル・カニュカ(チェロ)がプラハ室内管と共演する。『ディアパソン』誌で年間賞(ディアパソン・ドール)を受賞したハイドンで登場(557定期)。

5月は、人気指揮者の飯森範親が、映画「ベニスに死す」を全編彩ったアダージェットも美しいマーラーの「交響曲第5番」を振るほか、2019年のブラームス国際コンクール優勝で国際舞台に登場したピアニスト三原未紗子を聴ける558定期)。

6月の広上淳一指揮は、ブルックナー「交響曲第8番」(ハース版)を選んでいる。独特の弱音で開始するブルックナー。新劇場で広上がどう響かせるか、群響ファンならずとも注目が集まっている559定期)。

7月は、ミュージック・アドバイザー小林研一郎が振るブラームス第1番。作曲家としても溢れる才能を示している若手人気ピアニスト・阪田知樹が、ベートーヴェンの協奏曲第3番を弾くとあり、「カデンツァはどうするのだろう」など、注目度大560定期)。

大劇場の舞台は、以前の拠点であった群馬音楽センターと同様で間口が広く、ステージに身近な席が多いのも嬉しい。そして長年、群響事務局で運営に携わり、現在は劇場の事業企画担当部長である栗田弘之さんが「残響2秒は切望し、実現しました」という音響だ。

「管、コントラバスは、今までにない響きを聴いていただけるようになりました。弦の響きの充実も促進しています。実際『音が良くなった』という声もいただいていますし、何よりコンスタントに9割近くの席が埋まり、多くのお客様が足を運んで下さるようになりました」

事業企画担当部長である栗田弘之さん。群馬交響楽団の演奏者の意見も踏まえて、劇場内部の導線などにも気を配った。

しかも、「群響と山中千尋(ジャズピアノ)が重なる」「群響と渡辺香津美(ギター)が重なる」とハシゴするお客さんもいるなど、手応えは予想以上だ。

各ホールのホワイエにカフェがあり、劇場1階にはレストランも。あらゆるジャンルの舞台が用意されているので、どうかお楽しみに!

ナビゲーターがオススメする3つの企画

1. ここでしか聴けない、同族楽器のシリーズ

小松亮太バンドネオン・カルテット(6月6日)、ホルン4本によるベルリン・フィル・ホルン・カルテット(7月4日)、ドイツ名門楽団首席たちによるトロンボーン・ユニット・ハノーファー(7月8日)、イタリアのコントラバス4人のザ・ベース・ギャング(10月17日)と凝った企画。特に奏者自体が少ないバンドネオンは、トッププレイヤーたちが一堂に会す様相を呈する。音楽ホールにて。

2. ブルーノートジャパンと共同で年間6公演

日程: 5月31日(日)~

本格的なジャズを提供していこうと。「ブルーノートジャパンに声をかけ、アーティストの共同招聘・年間6公演の提携を進めた」(栗田)という意気込みも。ブルーノートが急遽ブッキングしたアーティストでも、柔軟に招聘していくという。

3. バーリ歌劇場の《アイーダ》

日程: 11月19日(木)

「オペラへの要望も高く、年に1~2本は公演したい」と、昨年は豪華なトリエステ・ヴェルディ歌劇場を招聘してくれた(すぐ完売)。今年は、日本ツアーを行なう「バーリ歌劇場の《アイーダ》の高崎芸術劇場公演が決まっている」(栗田)とのこと。 

高崎芸術劇場

[運営](公財)高崎財団

[座席数]大劇場 2027席

スタジオシアター 389~568席

音楽ホール 412席

[オープン]2019年

[住所]〒370-0841 群馬県高崎市栄町9-1

[問い合わせ]Tel. 027-321-3900

http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/

ナビゲーター
小倉多美子
ナビゲーター
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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