イベント
2021.03.18
東京芸術劇場/特集「ホールよ、輝け!」

縦横無尽に新しいライブ芸術を創る! 池袋の東京芸術劇場

野田秀樹率いる演劇部門の創造発信も活発な東京芸術劇場。音楽部門でも、音響を生かした多くのプロ・オーケストラの演奏会のみならず、オペラやジャズ、電子音楽など、超多彩で主張あるプログラムが行なわれている。コロナ禍前後の状況や、2021年の主催企画について事業企画課長の鈴木順子さんに伺った。

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

メイン写真:「音楽の友」の「コンサートベストテン2020」で第1位に選ばれたエサ=ペッカ・サロネン&フィルハーモニア管弦楽団のツアー公演にて。©️Hikaru.☆

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

ますますの活気! オーケストラにふさわしい東京芸術劇場

1990年にオープンした東京芸術劇場は、2020年1月、エサ=ペッカ・サロネン&フィルハーモニア管弦楽団を招聘し、多彩なプログラムによって音楽ファンを魅了した(一連の演奏会は、「音楽の友」誌の「コンサートベストテン2020」の第1位に選ばれた)。

2020年1月に招聘した、フィンランド出身の指揮者エサ=ペッカ・サロネンと、ロンドンに本拠地を構えるフィルハーモニア管弦楽団。本公演のほか、ゴーグルを装着してのオーケストラVR体験や野外のグローバルリング シアターでのサラウンド音響なども話題を呼んだ。©️Hikaru.☆

しかし、その翌月、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、劇場は閉鎖されることになってしまった。

それでも、さまざまな対策を施し、6月18日の「ナイトタイム・パイプオルガンコンサート」でコンサートホールは再開され、7月5日には、鈴木優人&読売日本交響楽団がソーシャル・ディスタンスを意識した小振りな編成で演奏会をひらいた。また、演劇も、7月24日からのシアターイーストでの野田秀樹作・演出による《赤鬼》で公演再開となった。

「7月5日の読響の演奏会では、お客さまの反応が素晴らしかったです。デジタルとは違って、ライブは身体的な感動が得られるのですね。心と体の両方で感動できるものなのだとつくづく感じ、ライブ芸術の素晴らしさを絶対に推し進めていこうと思いました」と鈴木順子事業企画課長は振り返る。

東京芸術劇場 事業企画課長 コンサートホール・ジェネラルマネージャーの鈴木順子さん。
©ヒダキトモコ

東京芸術劇場の隣りの池袋西口公園に、野外ステージであるグローバルリング シアターが完成したのは2019年11月のことであった。池袋が劇場機能を増し、ますます活性化したその矢先にコロナ禍に襲われた。それでも昨年9月にはN響メンバーによる室内合奏団がそこで演奏するようになった。

「昨秋、開館30周年を記念して《フィガロの結婚》の上演をしましたが、11月1日日曜日の昼の公演が終わったあと、ちょうど西口公園(グローバルリング シアター)でコンサートをやっていて、お客さまたちが立ち止まって聴いているのを見て、池袋でそういう賑わいができるようになったのかと感慨深かったですね」

東京芸術劇場の前の池袋西口公園野外劇場「GLOBAL RING THEATRE(グローバルリング シアター)」。カフェも併設している。
©️各務あゆみ

開館30周年記念 シアターオペラvol.14 モーツァルト/歌劇『フィガロの結婚』~庭師は見た!~野田秀樹演出(2020年10月公演より抜粋)

現在、東京芸術劇場と読売日本交響楽団は事業提携を結び、読響は「芸劇マチネーシリーズ」として年間20公演をそのコンサートホールで行なっている。

昨年9月からは、NHK交響楽団が、NHKホールの改修工事に伴い、同団の主催公演を東京芸術劇場でひらくようになった。そして、2021年9月からは毎月2プログラム計4回、定期公演を開催する。

すでに東京都交響楽団も定期演奏会をひらいていて、東京芸術劇場は今や東京のオーケストラ音楽の一大スポットとなっている。

「日本の各オーケストラが積極的に使ってくださり、オーケストラにふさわしいホールだということは、だいぶ浸透してきたと思います」

井上道義指揮、読売日本交響楽団によるマーラー「交響曲第3番」の公演(2019年12月)。写真は夜の公演だが、2021/2022シーズンも「土曜・日曜マチネーシリーズ」は20公演を予定。©️Hikaru.☆

新しいものを創り、多くの人に楽しみを〜2021年の自主企画

各オーケストラがコンサートを開催するだけでなく、東京芸術劇場自体も、ライブ芸術を推し進めるための創造を行なっている。

「30年前に開館したあとは貸し館事業が中心でしたが、2008年の在り方検討会から、創造発信型の劇場にしていこうと舵を切り直しました。

2009年に野田秀樹芸術監督が着任して、演劇系が創造活動を強く打ち出し、音楽系もそれに追いつくように徐々に創造的な活動を行うようになりました。私たちが自主事業で力を入れているのはクリエーション、すなわち、新しいものを創るということです」

©ヒダキトモコ

東京芸術劇場の2021年度の主催公演のラインナップを発表した。ここでは鈴木順子さんおススメの4つの公演を紹介しよう。

大編成でジャズを!「NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇」

「クラシック音楽の周辺のお客さまにも興味を持っていただける取り組みとして、間美帆さんのプロデュースで『NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇』を始めました。3回目の今年は7月30日に開催し、挾間さんが現在、常任客演指揮者を務めるオランダのメトロポール・オーケストラと同じ(ビッグバンドに弦楽合奏を加えた)編成に編曲したジャズの名曲を、彼女自身の指揮で聴いていただきます」

「NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇」2020年8月の公演で指揮を振る挾間美帆。©️Hikaru.☆
ビッグバンドに弦楽合奏を加えた、異色の編成。

演劇の演出家・岡田利規が演出! シアターオペラ vol.15《夕鶴》

「10月30日の『シアターオペラ』は15回目です。このシリーズは、オペラとは異なるジャンルの方に演出していただいて、名作オペラに新たな魅力を発見するという取り組みです。今回は、没後20周年となる團伊玖磨の《夕鶴》を、演劇カンパニー・チェルフィッチュを主宰し、ミュンヘンのカンマーシュピーレでも活躍する劇作家、作家、演出家の岡田利規さんに演出していただきます。彼にとって、初めてのオペラ演出となります」(他館との共同制作)

新しい音を楽しむ「ボンクリ・フェス 2021」

「ロンドン在住の作曲家、藤倉大さんが選んだ新しい音を楽しむ『ボンクリ・フェス』(10月1日・2日)は、5年目になります。今年も筝や笙などの邦楽器奏者が参加します。ノルウェーのミュージシャンたち、オーストラリアのアンサンブル・スリーも来る予定です。スペシャル・コンサートでは藤倉大さんのヴィオラ協奏曲の世界初演があります。

夜の『大人ボンクリ』は電子音楽のコンサート。照明や音響も凝ってます。毎年、300人~400人くらいで、まったり楽しんでいます(笑)」

「ボンクリ・フェス 2020」の映像/藤倉大「Longing from afar」(ライブ版 世界初演)

回転するパイプオルガンを楽しめる!

「東京芸術劇場のパイプオルガン(クラシックとモダンの2つの面を持ち、回転することができる)は、世界に2つとないもので、初めて聴いた人、見た人は感動しますね。

毎月のランチタイムとナイトタイム交互のオルガンコンサートに加え、7月20日から23日の昼間と816日夜には、Tokyo Tokyo FESTIVAL助成事業として『オルガンは回る』~トウキョウ・オルガン・マラソン~があります。7月20日から23日の毎日12時には、オルガンを回転させます」

途中パイプオルガンが回転する映像があり。演奏はモダン・オルガン(フランス古典)

デジタル環境を整え、2021シーズンは映像配信にも期待

コロナ禍を契機に、東京芸術劇場も映像配信などのデジタル事業への取り組みを本格化させている。

「もともとYouTubeの芸劇チャンネルは、公演のプロモーション的なものでしたが、過去のアーカイブ映像(たとえば、「ミーツ・ベートーヴェン・シリーズ」の山下洋輔と清水和音のピアノなど)も扱うようになってきました。デジタルと共存して、興味をもったお客さまに生の演奏会にも来ていただく、というような相乗効果が生み出されればよいと思います。

今年5月には、デジタル配信のための容量を増やす工事をすることになっています。サロネン&フィルハーモニア管弦楽団がやっていた360度のVR体験が生で配信できるほどの容量です」

東京芸術劇場

[運営](公財)東京都歴史文化財団

[座席数] コンサートホール1999席

プレイハウス834席+立ち見90人

シアターイースト272~324席

シアターウエスト195~257席

[オープン]1990年

〒171-0021

東京都豊島区西池袋1-8-1

[公演問い合わせ]0570-010-296(休館日を除く10:00〜19:00)

http://www.geigeki.jp/

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ