自主運営で道を拓く! 東京フィルが個性際立つマエストロたちと贈る2021シーズン
2021年に創立110周年を迎える東京フィルハーモニー交響楽団。活動の核となる自主企画の新シーズンは、キャッチに〈新しい景色をみたい〉を掲げています。1月から、どのような展開になるのでしょうか。専務理事で楽団長の石丸恭一さんに話を伺いました。
1962年東京生れ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。 多彩な執筆、講演活動のほか、1993年からNHK、日本テレビ、WOWOW、クラ...
コロナ禍では、いち早く観客ありで定期演奏会を再開
はじめに。
1911年創立。現在約160名のメンバーを擁する東京フィルハーモニー交響楽団。長い歴史を持ち、多彩なステージで演奏してきたこのオーケストラは、前向きだ。老舗という看板、伝統という土壌に甘えることなく、他の楽団に先駆けて創造の地平を拓く。
コロナ後、ホールと手を携えて感染対策を講じ、2020年6月に、シンフォニー・オーケストラとしてはいち早く「有聴衆」での定期演奏会を再開した。外国人アーティストが来日できず、また新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインに従い、企画内容変更を余儀なくされながらも、東京フィルは「定期」に向けて動いた。
東京フィル率いる首席指揮者アンドレア・バッティストーニとのベートーヴェン交響曲第5番
自主運営する芸術団体・東京フィルは、動き続ける
1960年代から打楽器奏者として活躍、ベルリン留学を経て1973年東京フィルに入団。演奏活動後、同フィルの運営に携わるようになった専務理事・楽団長の石丸恭一さんは、誇らしげに語る。
石丸「こう行くと決めたら、動きは早いです。歴史が長いためもありますが、うちは何をするのも最初です。決して一番乗りを意識している訳ではないのですが(笑)。
動きが早い——その理由は極めてシンプルです。東京フィルが自主運営のオーケストラだからです。ウィーン・フィルが世界に先駆けて(2020年6月5日に)100名ほどの聴衆、通常の編成で演奏を再開しましたよね。
ウィーン・フィルも東京フィルも自主運営、思いは同じです。考えられる感染症対策を全部やったうえで、私たちは日頃支えてくださっている社会のためにも、楽団員の生活のためにも演奏を続けなければなりません。団体の芸術であるオーケストラの活動は、とにかく止めては、止まってはいけないのです」
国内随所で出演し、クオリティも一層高まる
近年、国際コンクールで認められた若手やヨーロッパで経験を重ねた中堅のプレイヤーが、管弦打の要所で活躍。演奏のクオリティは高くなった。
時空を超えた交響曲、管弦楽曲、協奏曲は申すに及ばず、東京フィルは伝統的にオペラとバレエに強い。2020年11月も新国立劇場でのブリテン《夏の夜の夢》(指揮:飯森範親)、藤倉大《アルマゲドンの夢》世界初演(指揮:大野和士)を成功に導いた。いっぽう、NHK EテレやFM番組への出演も多い。フレキシブルなのだ。
オペラ指揮者としても名高いチョン・ミョンフン名誉音楽監督によるビゼーの歌劇《カルメン》より第1幕への前奏曲
カラーの異なる指揮者勢が財産
春でも秋でもなく、2021年1月(!)にスタートする東京フィルの2021シーズン。
〈新しい景色をみたい〉とのキャッチが躍る定期演奏会8プログラム、都合21公演を指揮するのは、名誉音楽監督チョン・ミョンフン(3プログラムを指揮)、首席指揮者アンドレア・バッティストーニ(3プログラムを指揮)、特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフ(1プログラムを指揮)、それに桂冠指揮者・尾高忠明(1プログラムを指揮)の4人。みんな「東京フィルの指揮者」だ。
石丸「それが東京フィルの特徴。財産です。スケジュール調整は大変ですが、チョン・ミョンフンもバッティストーニもプレトニョフも、自分が東京フィルで何をすべきか、何が合うかがわかっています。そして、お互いに何を指揮するかを知っています。東京フィルと長いお付き合いの尾高さん(1974年から1991年まで常任指揮者)もですが、それぞれの立場で、東京フィルのことを考えてくれているのです。個別に連絡して、曲目の調整をお願いしたことはないですね。バッティングしないのです」
東京フィルの指揮者たち
名匠ミハイル・プレトニョフ特別客演指揮者によるボロディンの交響詩「中央アジアの草原にて」
2021年の定期演奏会ラインナップ
「午後のコンサート」はマエストロのお話で人気シリーズに
そんなファン憧れの顔ぶれが腕を揮う定期演奏会とともに人気を博しているのが「午後のコンサート」シリーズだ。
いまBunkamuraオーチャードホールでの「渋谷の午後のコンサート」、東京オペラシティコンサートホールでの「平日の午後のコンサート」「休日の午後のコンサート」と3種を数える。
石丸「名曲コンサートやビギナーの方を対象としたコンサートは、世界中どこのオーケストラも行なっていますが、東京フィル『午後のコンサート』は、早いです(笑)。22年前に定期演奏会の企画とセットで始めました。
最初は『休日の午後のコンサート』でしたが、日曜のファミリー・コンサートとして企画したのではなく、定期の演奏内容やクオリティを、親しみやすくご提供しようと考えたのです。
そのために指揮者にトークをお願いしました。最初はマエストロからもお客さまからも「ええ!? お話をするコンサートなの?」と言われましたよ(笑)。でも、絶対に上手くいくという確信がありました。3年我慢しました。
そうそう。最初の頃、ロシアの名指揮者フェドセーエフにもトークをお願いしました。フェドセーエフは、初めての経験だと言いながらも、とても協力的でした。師匠の齋藤秀雄先生から、指揮者は喋るな、いい指揮者は喋るもんじゃない、と教えられたという尾高さんにもお話をお願いしましたよ(笑)。最近ではバッティストーニも話します。
おかげさまで完売公演が増えました。今、指揮者が曲についての解説をしたり、開演前にプレコンサートトークをするのは普通ですよね。定期演奏会と同じ主催公演で、指揮者がトークをするというシリーズをつくったのは、東京フィルが最初です」
桂冠指揮者・尾高忠明による指揮と心温まるトーク「午後のコンサート」公演ダイジェスト
2021シーズン——6名の指揮者が熱を入れるテーマを、エピソードとともに
2021シーズン、東京フィル自慢の「午後のコンサート」シリーズでタクトを執り、お話をするのは、川瀬賢太郎(4月)、バッティストーニ(5月、11月)、尾高忠明(6月、7月)、小林研一郎(9月)、円光寺雅彦(10月)、三ツ橋敬子(2022年2月)。古き良き時代の名曲あり、交響曲の楽章抜粋あり、往年の映画を彩った名曲あり、愛や夢をキーワードとしたロシアン・ロマンありと、プログラムを眺めているだけで楽しい。
首席指揮者バッティストーニによるケテルビー《ペルシャの市場で》、ワルトトイフェル《スケーターズ・ワルツ》、ヴォルフ=フェラーリ《マドンナの宝石》間奏曲、プッチーニ《マノン・レスコー》間奏曲なんて、今ライヴではまずお目にかからない「昔」の小品たちだ。
尾高忠明の指揮で聴くサミー・フェイン《慕情》のテーマ、マックス・スタイナー《風と共に去りぬ》からタラのテーマ、古関裕而《スポーツショー行進曲》、あのワーグナー家とは関係ないヨーゼフ・フランツ・ワーグナーの行進曲《双頭の鷲の旗の下に》もそう。ONTOMOの若い読者にとっては、未知の領域かも。これらのナンバーは、祖父母や両親世代が親しんだ(であろう)「懐かしの名曲」たちなのだ。
東京フィルと指揮者が、新たなファンをエスコート。「午後のコンサート」で、時空を超えたオーケストラ芸術に抱かれたいものである。
「午後のコンサート」2021シーズンの全12プログラム
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