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2021.07.28
日本フィルとのプロジェクト第5弾《醸化する音楽会》

落合陽一はオーケストラという“メディア装置”に合わせてメディアアートをどう創る?

今年で5回目のプロジェクトとなる日本フィルとの音楽会を、メディアアーティスト落合陽一はどう捉えているのだろうか。7月中旬、サントリーホールでの機材リハーサルに伺い、8月11日のコンサートの企画や、オーケストラや音楽の受け止め方について話を聞いた。

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

撮影:編集部

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「醸化」を意味するプログラムとは?

メディアアーティストの落合陽一日本フィルハーモニー交響楽団が2018年に始めたプロジェクトが、8月11日(水)のコンサートで5回目を迎える。今回は《醸化する音楽会》のタイトルのもと、コロナ禍による地域の分断で気づかされた土着の発酵性に注目する。

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プログラムには、黛敏郎のテープ音楽「オリンピック・カンパノロジー」、伊福部昭の「土俗的三連画」、和田薫の交響曲「獺祭~磨migaki~」より第2楽章“発酵”、ヨハン・シュトラウス2世「シャンパン・ポルカ」、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」、ムソルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」より「バーバ・ヤガー~キエフの大門」などが並び、鐘、民俗性・土俗性、醞醸(うんじょう)、酒などの共通項で結ばれる。

《醸化する音楽会》メインビジュアル。

また今回は、コロナ禍で失われた身体性を回復するために、「五感、解禁。」をコンセプトにして、視覚や聴覚に加え、嗅覚と味覚を刺激するものとして、音楽を聴きながら味わえるアイテムが配布される予定である。香料はこのコンサートのために調合された3種類が用意される予定。

そのほか、コンサート会場となるサントリーホール 大ホールの隣り、ブルーローズ(小ホール)では、落合が撮影したこのプロジェクトの写真展もひらかれる。

去る7月16日に、サントリーホールで“機材リハーサル”が行なわれた。そこでは、天井から吊り下げられた28枚のLEDパネルと舞台上に並べられた17枚のLEDパネルによって一つの映像が作り出され、音楽とのマッチングが試された。

リハーサル時の様子。曲によってLEDで描かれる映像が変化していく。

リハーサルのあと、落合に話をきいた。

——このプロジェクトを聴きにくるお客さんが、普段のクラシックの演奏会とは違うように感じます。落合さんはどういう客層に来てほしいと思って企画しているのですか?

落合 先入観にとらわれない人、メディアアートの好きな人。そして、耳が解像度に飢えた人にもおススメです。

——解像度に飢えた人とはどういう人ですか?

落合 より細かいものが聴きたい、より複雑なものが見たいという人です。

——「耳で聴かない音楽会」というテーマも掲げられましたが、それは、音楽は耳で聴くものではないという、根源的な問いかけなのでしょうか?

落合 そうですね。僕はメディアアーティストなので、時間と空間を考えます。音が持っている空間的なものは、耳だけで聴くわけではない。それは、感覚が共感覚になっているとか、シナスタジア(共感覚)を持つとかに近いと思います。

 ——音楽は「心で聴く」ともいいますね。

落合 僕は音楽を聴くと、身体が心から外れていくような気がして好きなんですよ。身体が物質化していく感じがする。自分の身体も音の一つになっていくというか。心が解放されているのか、自分の身体から心が流れ出して、なくなっているのか、どちらかわからないけど、僕は後者を信じます。自分の身体から心がなくなって、無心になっていく様が美しいと思う。

だから、僕は「身体で聴く」のほうが合っていて、鳥肌が立つのも身体の反応に自由になっているんだなと思います。

——メディアアーティストにとって、オーケストラはどのような存在ですか?

落合 オーケストラというメディア装置の特徴は、生(なま)であること、人数が多いこと、音源の空間配置が多様であること、音の解像度が高いこと、録音再生ができないので時には演奏でのミスもある(笑)、日々のコンディションで違う音を出す、指揮者が必要。そして、オーケストラの基本言語は楽譜。プログラムでは動かない。プログラムで動く映像装置を合わせようとすると、齟齬が起きます。

だから、映像はその場でテンポなどに合わせて人間がリアルに生成しなければならないのです。僕は、オーケストラというメディア装置がどんなメディアと合うかを考えてつくっています。

——オーケストラは音の解像度が高いと言われました。

落合 生のオーケストラの解像度は、ホールによって全然違います。サントリーホールは響きがいいから、土着的な音楽が合うように思います。

——今日の機材リハーサルの感想はいかがですか?

落合 LEDパネルは、上からのと下ので解像度が違うんですよ。下の解像度はきれいに出たけど、今日は上のはきれいに出なかった。上と下で重量が違うし、上のほうが遠いので、解像度を揃えるには解像度を変えないといけないけど、解像度を変えるとモアレの出方も違ってくるし、難しいところです。

あと、黛の「オリンピック・カンパノロジー」(注:1964年に制作された電子音楽)の響きですね。初めて大ホールでスピーカーからサンプルの音を出してみたら、スカスカで音が足りない。昔の録音はデータが詰まってないから。ある程度ハイレゾにして出していくしかないかなと思いました。

——クラウドファンディングもやっているのですね。

落合 コアなファンがついてくれています。今年は(リターンで)どんなグッズが来るのだろうと思ってくれるような。みんなお揃いのTシャツやステッカーがあると盛り上がるし、そういうつながりがあればいいなと思って、やっています。リターンは面白いものが多いですよ、今年は獺祭(注:日本酒)とか。※クラウドファンディングは7/25で終了

公演情報
【配信あり】落合陽一×日本フィル プロジェクトVOL.5 《醸化する音楽会》

日時: 2021年8月11日(水)19:00開演

会場: サントリーホール 大ホール

出演: 

演出・監修:落合陽一
指揮:海老原光
映像の奏者:WOW
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

曲目:

  • 黛敏郎:オリンピック・カンパノロジー
  • 伊福部昭:土俗的三連画
  • 和田薫:交響曲《獺祭~磨migaki~》第2楽章“発酵”
  • J.シュトラウスⅡ世:シャンパン・ポルカ 
  • バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
  • ペルト:カントゥスーベンジャミン・ブリテンへの哀悼歌
  • ムソルグスキー(ラヴェル編) 組曲《展覧会の絵》より「バーバ・ヤガー~キエフの 大門」

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取材・文
山田治生
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山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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