インタビュー
2018.11.25
ドイツ・グラモフォン創立120周年 目前スペシャル

ミレニアル世代の「アイコン」誕生か!? クラシカルDJ、Aoi Mizunoが誘うクラシック音楽の新しい楽しみ方。

世界最古のレーベル、ドイツ・グラモフォンが2018年12月6日に創立120周年を迎える。クラシックとクラブカルチャーの融合「Yellow Lounge」を成功させたほか、前代未聞のクラシックリミックスCDをリリース。その名も『MILLENNIALS -We Will Classic You-』。

本作のリミックスで老舗レーベルから衝撃的なデビューを果たしたクラシカルDJ、24歳、Aoi Mizuno(水野蒼生)――ミレニアル世代の新たなスターに注目だ。

取材・文
東端哲也
取材・文
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

写真:蓮見徹

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黄色いロゴマークが目印の、カラヤンやバーンスタインのCDなどでお馴染みのクラシックのレーベル、ドイツ・グラモフォン(※以下DG)は、19世紀末の1898年にドイツで設立された世界で最も古い歴史を持つレコード会社。レコード盤からCD、ダウンロード、ストリーミングとここ数年で音楽の聴き方は劇的な変化を遂げたが、超一流アーティストによる名演奏と録音クオリティの高さで、これまでずっとシーンをリードしてきた最強ブランドである。

そんなDGにとって創立120周年を迎える2018年は特別な年。12月5日には小澤征爾らが出演する記念ガラ・コンサートをクラシックの殿堂、サントリーホールで開催することが決まっているが、それだけじゃない! 既に9月にはホールや歌劇場を抜けだし、クラブ・カルチャーと融合して若い世代の聴衆に門戸を開いたイベント「Yellow Lounge」を日本で成功させ話題を呼んだばかり。

イベントでも大活躍した「クラシカルDJ」水野蒼生(Aoi Mizuno)が、DG史上初の大胆リミックスCD盤『MILLENNIALS -We Will Classic You-』をリリースした。彼こそは、老舗レーベルがその未来を託した期待の逸材。果たして水野蒼生とは何者なのか?

そもそも「クラシカルDJ」って、いったい!?

クラシックの一流アーティストが集ったクラブ・イベント「Yellow Lounge」でDJプレイ

――9月12日にお台場で開催され大成功を収めた、クラシックの超一流アーティストたちを集めたクラブ・イベント「Yellow Lounge」で鮮烈なDJプレイを披露されていました。

水野 アリス=紗良・オットさん(ピアノ)やミシャ・マイスキーさん(チェロ)ら憧れのクラシック演奏家に加えて人気ジャズ・ピアニストの山中千尋さんと、大御所のアーティストさんばかりでドキドキでしたが、楽屋が大部屋で皆さんとお話する時間も長くいただけて緊張がほぐれ、本番は楽しかった!
デジタルアートとクラシックがどう結びつくのだろうって実は当初、少し不安視していたのですが、水流のプロジェクションマッピングが客席を流れていたりして、会場のネイチャーな雰囲気が、もともと自然にインスピレーションを得て作曲された音楽と見事に呼応しているのを感じてなかなか面白かったです。

――日本の音大を半年で中退し、浪人生活を経て留学。合格者わずか2名という狭き門を突破して、現在オーストリアはザルツブルクにあるモーツァルテウム大学(※あのカラヤンらを輩出した名門校)で指揮を学ばれているとか?

水野 日本の音大を中退する手前、お世話になった先生に相談したら「とりあえず20歳まで頑張ってみなよ」って言われたのですが、いやいや、20歳になったら今の自分が持っている野心とか促進力が失われちゃうでしょう、10代だからこそできることってあるのでは? と思って日本を飛び出しちゃったんです。結果的にはこれで良かったと思います。現在、ザルツブルクでは学部の4年目ですが、もう単位を取り終わったので半年間休学させてもらって、来年の春までは日本でアーティスト活動に集中したいと思っています。

――日本でどんな活動がしたいですか?

水野 うちの大学は世界中から人が集まっている超インターナショナルな大学で、ドイツ語以外の言語も多く飛び交っています。それでいろんな国籍の人と友だちになれたのだけれど、やはりみんなクラシックを学びにザルツブルクに来ているので、どうしても周りは音楽の話ばかりになってしまう。子どもの頃からさまざまなジャンルのクリエーターに刺激を受けるのが本当に大好きなんです。東京では人脈を広げて、新たなコラボ先を開拓したいと思っています。

異例の大抜擢――クラシックの名盤をリミックス

――これまでにもザルツブルクと東京を行き来しながら、ライヴハウスで楽しむ大音量のピアノ・リサイタル「東京ピアノ爆団」をプロデュースしたり、クラウドファウンディングで若手室内オーケストラを立ち上げたり、刺激的なことに携わってきた水野さんですが、今回のDG音源を使った公式リミックスCDは前代未聞の企画ですね。

水野 正直、いきなりこんな大プロジェクトを任せられて、これは本当に現実なのか? って、思いました(笑)。やはりクラシックって、コンクールの受賞歴がものをいう世界なので、これまでプロのオーケストラを指揮した経験があるとはいえ、自分なんかは異例の大抜擢ですから。

でも作業自体はとても楽しかったですね。まずは「DG縛り」でとにかく好きな音源をどんどんリストアップしていった……許諾については後でゆっくり詰めていくことにして。結局、カラヤンとバーンスタイン関連はNGだったのですが、じゃあその代わりに誰の演奏を使おうかってどんどん聴いて探していくうちに、今まで聴いたことがなかった素晴らしい盤に次々とめぐり会って、結果的に新しい発見がいっぱいあって勉強になったし、音楽的趣向も広がった。

――収録されている7つのトラックそれぞれが、ひとつの作品として独自性をもっていますね。単にプレイリスト風のメドレーで繋げるのではなく、自然な流れでありながら構成に創意工夫がある。しかもキャッチー! 例えば[02]〈ザ・レイテスト・ロマンティックス〉は有名なR.シュトラウス《ツァラトゥストラはかく語りき》で幕を開け、途中にはワーグナー「ワルキューレの騎行」のような、誰もが知っている旋律が盛りだくさんです。

水野 楽曲をただ繋ぐのではなく、自分の作品を創造するつもりで試行錯誤を繰り返しました。[02]はプレゼン用に最初に作った粗削りだったトラックをブラッシュアップさせたもの。ストラヴィンスキーの組曲《火の鳥》に「火の鳥の踊り」っていうインタールード(曲と曲の間に演奏する、間奏曲)みたいな数小節の曲があって、それと「ワルキューレの騎行」のモチーフがよく似ているので重ねてみたら面白いかもっていう発想が活きた作品です。

そしてこれ以降のトラックではより、統一感をもたせることにこだわって、キャッチーな曲を太い柱のようにして、その間に別の音源をオカズのように挿入していく手法を確立していきました。

「ワーグナーやストラヴィンスキーが現代に生きていたら」

――それぞれのトラック・タイトルに込められた意味や全体の流れについて教えて下さい。

水野 複数の楽章で構成されるクラシック作品のように、それぞれのトラックごとにテーマをもたせて、それら全体を通してひとつの世界観が浮かび上がるようなコンセプト・アルバムを目指しました。特に[03]以降はストーリー性が強いですね。

例えば[03]〈レザレクション…?〉はマーラーの歌付き交響曲の第2番《復活(レザレクション)》が太い柱なのですが、そこでは“私は復活するために死ぬ”と歌われていることから、ワーグナー「ジークフリートの葬送行進曲」やベルリオーズ《幻想交響曲》の「断頭台への行進」、ストラヴィンスキー《春の祭典》の「生贄の踊り」など、まさに死へと向かっていく楽曲を合間にミックスしました(※それって復活なの? っていう疑問を〈レザレクション〉のあとの“?”で表現)

水野 そして、《幻想交響曲》の「サバトの夜の夢」を柱にした次の[04]〈ダンス・パーティ・イン・ザ・ヘル〉で地獄に堕ち、マーラーの交響曲第5番「アダージェット」の[05]〈フォーギヴネス〉で救いを得て、[06]〈メロディ・ウィズ・ユア・ディーエヌエー〉でベートーヴェン《第九》の「歓喜の歌」に繋がる……といった流れです。

――トラックによっては拍手や足音、話し声、扉を閉める音、テープを止める音などの効果音が挿入されているものもありますが、とても自然ですね。サウンド・エフェクトも多用せず、さりげないかんじで程よくアクセントのように使っているのが印象的でした。

水野 やはりオリジナル盤に対するリスペクトの気持ちが大きいです。父親が結構なコレクターで家にたくさんのCDがあったおかげで、中学生の頃からDG好き……自分にとっては青春のレーベルなんです(笑)。だから、あまり音源をいじりたくない。考え方として、もしワーグナーやストラヴィンスキーが現代に生きていたとして、彼らがエフェクトをかけるとしたら、こうやるかも……みたいな。

――『ミレニアルズ』というアルバム・タイトルは直球ですね。

水野 はい、1994年生まれのミレニアル世代ですから! 目指したのは、自由と個性を重んじるデジタル・ネイティヴなミレニアル世代による、同じミレニアル世代のためのクラシック入門アルバム。やはり自分たちの世代が聴いてくれないと、もはやクラシックに未来はない気がするんです。高校時代コンサート・ホールに足を運んで、ふと周囲を見回すと団塊より上の世代が圧倒的に多い、という状況を見て、かなり危機感を募らせました。それ以来、友だちと好きな音楽の話をするときにはいつも、クラシックのアーティストを推しまくっています(笑)。

将来のことはまだわかりませんが、自分は指揮者のキャリアを積んで、ゆくゆくはベルリン・フィルやウィーン・フィルを振りたいとか、そういうタイプではないのかも。自分がなりたいのはクラシック・シーンの「アイコン」みたいな存在。クラシックの間口を広げるような役を担いたいのです。

――水野さんの魅力に惹かれて、クラシックに興味をもつようになる若い世代が増えそうです。

水野 実際、クラシックって本当にカッコイイ。このアルバムでいいなと思う曲があったら、検索して元ネタをどんどん掘って聴き込んでほしい。みんなをクラシックの魅力で揺さぶりたい、あっと言わせたい。

アルバムのサブタイトル「ウィ・ウィル・クラシック・ユー」にはそんな想いを込めました。もちろんクイーンへの敬意も込めて……フレディ・マーキュリーが大好きなんです。フレディをベートーヴェンと同じくらい尊敬しています。本アルバムの発売日が奇跡的にフレディの誕生日と同じ9月5日になったのにも運命を感じますね(笑)。

『MILLENIALS -WE WILL CLASSIC YOU-』Aoi Mizuno
CD(2018/9/5)
レーベル: ユニバーサルミュージック
ASIN: B07F83JZY4

【おまけ】水野蒼生が偏愛する、ドイツ・グラモフォンの名盤5枚

  1. ブラームス:ピアノ協奏曲第1番/クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ)、サイモン・ラトル指揮&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
    ……今回は使えなかったけれど、衝撃の1枚。

  2. バーバー、コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲、他/ギル・シャハム(ヴァイオリン)、アンドレ・プレヴィン&ロンドン交響楽団
    ……高校時代、吉祥寺のディスクユニオンで購入した1枚です。

  3. マーラー:交響曲第2番《復活》/レナード・バーンスタイン指揮&ニューヨーク・フィルハーモニック
    ……バーンスタインのマーラーは全部好きですね。

  4. ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱》/ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
    ……第九はあらゆる名盤を聴いたけれど、カラヤン&ベルリン・フィルは別格。特に弦楽器の音が最高。

  5. ベートーヴェン:交響曲 第7番/カルロス・クライバー指揮&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
    ……中学時代、毎日これを聴いてから学校に行ってました。

公演情報
ドイツ・グラモフォン120周年記念ガラ・コンサートpresented by 小澤征爾 &サイトウ・キネン・オーケストラ

日時 2018年12月5日(水) 19:00 開演
会場 サントリーホール・大ホール
出演 指揮:小澤征爾、ディエゴ・マテウス/ヴァイオリン:アンネ=ゾフィー・ムター/サイトウ・キネン・オーケストラ

曲目 チャイコフスキー:オペラ『エフゲニー・オネーギン』 よりポロネーズ/チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64/J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042/ベートーヴェン:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第1番 ト長調 Op.40/サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 Op.28

料金 VIP 50,000円(前日ゲネプロ一部参加、スペシャルグッズ付) /S席 30,000円/A席 25,000円/B席 20,000円/P席 15,000円/学生(A席50席限定)10,000円

お問い合わせ キョードー東京チケットセンター 0570-550-799(平日:11時~18時/土日祝:10時~18時)

https://www.universal-music.co.jp/classics/dg-gala-concert/

取材・文
東端哲也
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東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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