ブルックナーを好きになりたいんですけど! 広瀬大介に苦手克服のヒントを直撃対談
作曲家の中でも、みんなから愛されがちなモーツァルトやショパンなどに比べ、ブルックナー、ワーグナー、マーラーといった作曲家たちは、すご〜く好きという人と、すご〜く苦手という人に分かれがち。じつはONTOMO編集部員にも苦手派のメンバーがいる。
苦手なら克服しようではないか! 好きな作曲家は多いほうが幸せ! ということで、この3人の作曲家を愛してやまない音楽学者の広瀬大介先生に、苦手克服のヒントを教えてもらいます。
ブルックナー、ワーグナー、マーラーの共通点は?
飯田 ではまず、編集部のみなさんのブルックナー、ワーグナー、マーラーに対する苦手ポイントを出しちゃってください。
編集部M 私はブルックナーのシンフォニーのどれを聴いてもピンときません。みんな同じように聞こえて、どう入り込んだらいいのかわからないんです。繰り返しも多いし、起伏が無いようにも感じます。
編集部K 自分もマーラーやワーグナーは進んで聴こうと思えないんです。学生時代はがんばってスコアを広げて聴いたりもしましたが、とても長いし……。
広瀬 うん、いいですよ、どんどんイヤなところ、あげてください。
編集部M すごく好きな人は好きじゃないですか。わかる人たちはどんな魅力を感じているのか、それは知りたいんです。それで、まずはブルックナーの生涯を知ろうと、ネットで調べてみたんです。そうしたら、ロリコンとか死体愛好癖があるとか火事現場にわざわざ野次馬に行くのが好きとか、そういう情報に出会ってしまって……。
広瀬 あ、それで余計に気持ち悪くなってしまった、と。ブルックナーは50代のころに10代の女性にいきなり求婚したりしますからね。ロリコンと言われても仕方がないか。ワーグナーだって、人妻にアプローチしたりして、ひととしてどうなの? っていうところはありますよね。
まぁ作曲家には変態……もとい、変人はやっぱり多くて、ベートーヴェンだって、毎朝コーヒー豆60粒きっちり数えて淹れていた変わったひとでしたね。でも、ブルックナーの死体愛好癖は一線を超えている、と。まぁ、たしかに。
編集部K ベートーヴェンに対する「楽聖」というイメージを見直そうという傾向はあるけれど、ブルックナーはそもそも、そういうエピソードがハンデになりますね。
広瀬 おそらく、作品に慣れていないひとにとっては、曲は長くてどれも同じに聞こえるし、伝記的なエピソードも気持ち悪いと感じてしまうものが多い。好きなファンたちが盛り上がっている一方で、その輪の中には部外者が入りにくい。こんなところでしょうかね。
じゃあ今日は、少し違った入り口を考えてみましょうか。
まず、3人の作曲家の共通点を考えてみます。基本的に作曲家たちは、何かオリジナルなものを突然変異的に生み出すわけではありません。前時代の誰かの影響を、かならずといっていいほど受けている。モーツァルトはハイドンほか多くの音楽家の影響を受けているし、ベートーヴェンも同様にハイドンから学んで次の世代の作品を生み出した。
もちろんブルックナーもワーグナーもマーラーも先人たちの影響は受けているんですが、彼らの場合、「誰からの影響を受けたか」というのが、ちょっとわかりづらい。それがこの3人の共通点と言える気がします。そして、その影響から離れて、「俺の音楽を聴け」的なマイワールドを突き詰めていった度合いが、他の作曲家にくらべて相当強め。
だから、彼らの音楽は、それ以前の音楽とは相当違う。そのとがった世界にいきなり入ろうとしても、やっぱりちょっと厳しいと感じるひとは多いでしょうね。
編集部K 純度の高いものだから、受け入れがたい人もいる。
飯田 逆に、いきなりピンポイントで共感してしまう人もいるんでしょうね。
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