インタビュー
2021.09.19
新国立劇場2021/2022シーズンがロッシーニの傑作で開幕

歌手・脇園彩の原点でゴール〜個々が手を取って調和を産むオペラ《チェネレントラ》

オペラの殿堂ミラノ・スカラ座をはじめ、ヨーロッパを舞台に活躍するメゾ・ソプラノ歌手の脇園彩さん。芸術家人生のターニング・ポイントでいつもそばにあったという、童話「シンデレラ」を原作としたロッシーニのオペラ《チェネレントラ》アンジェリーナ役で、新国立劇場のシーズン・オープニングを飾ります。危機にあった脇園さんへ、天にいるロッシーニが伝えたメッセージとは?

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

写真:増田慶

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来る10月1日、新国立劇場2021/22シーズンが開幕する。オープニングの演目は、ご存知「シンデレラ」の物語をオペラにしたロッシーニの傑作《チェネレントラ》。この《チェネレントラ》でタイトルロールのアンジェリーナを演じるのが、イタリアを拠点に世界中で活躍するわれらがメゾ・ソプラノ脇園彩さんです。

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脇園 彩(メゾソプラノ)
東京生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修了。2013年、パルマ・ボーイト音楽院に留学。14年、ペーザロのロッシーニ・アカデミーに参加し《ランスへの旅》に出演。同年、ミラノ・スカラ座アカデミーに参加、《子供のためのチェネレントラ》アンジェリーナでスカラ座にデビュー。18年にはロッシーニ・オペラ・フェスティバル《セビリアの理髪師》ロジーナに出演。《セビリアの理髪師》ロジーナ、《チェネレントラ》アンジェリーナ、《フィガロの結婚》ケルビーノ、《ドン・ジョヴァンニ》ドンナ・エルヴィーラ、《コジ・ファン・トゥッテ》ドラベッラなど、ロッシーニとモーツァルトをレパートリーの中心に活躍している。新国立劇場へは19年《ドン・ジョヴァンニ》ドンナ・エルヴィーラでデビューし、20年《セビリアの理髪師》ロジーナ、21年《フィガロの結婚》ケルビーノに出演した。

「日本のオペラ文化を牽引する存在である新国立劇場のシーズン・オープニングでタイトルロールを任された責任を感じています」という脇園さんに、《チェネレントラ》という作品について、また日本人としてオペラを歌うことの意味などについて伺いました。

留学時代に理解した「私の復讐は彼らを許すことです」という言葉の意味

《チェネレントラ》の副題は「善良さの勝利」。この作品の主人公であるアンジェリーナは継父や姉たちからひどい扱いを受けますが、最後は王子様と結婚して幸せになります。そのフィナーレでアンジェリーナが歌う大アリア「苦しみと涙のうちに生まれ」のレチタティーヴォの中に、「私の復讐は彼らを許すことです」という言葉が出てきます。脇園さんはこの言葉こそ、この作品のテーマであると語ります。

脇園 ミラノ・スカラ座のアカデミー時代に最初に演じたのが、『子どものためのチェネレントラ』という抜粋版でした。実はこのとき、私は生まれて初めて人種差別を受けたんです。それも、私の歌手としてのキャリアを支配するような立場の人から。自分でコントロールできない理不尽な状況に最初は悲しみ、やがてそれが怒りに変わっていき、そしてどうにもならないという絶望のどん底に落ちました。

そんな中で、この「私の復讐は彼らを許すことです」という言葉が、ストンと心の中に入ってきたんです。この状況を打開する唯一の方法は、相手を許すことなんだと思ったんですね。自分の人生を輝かせるためには絶望の淵にとどまっていてはいけない。悲しみや怒りを手離せば、もっと幸せになれるんだよ、とアンジェリーナに言われたような気がしました。

どんなに理不尽な状況に置かれても、決して前を向くことや幸せを選ぶことを諦めないアンジェリーナの「生き方」が、脇園さんの実人生と重なった瞬間です。

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