インタビュー
2025.09.19
じっくりショパコン2025 第1回

ショパン研究所広報にきくショパンコンクール最新情報と楽しみ方

2025年10月に控えた第19回ショパン国際ピアノコンクール。開幕直前ということで、8月末に来日したポーランド国立ショパン研究所の広報担当、アレクサンデル・ラスコフスキさんにお話をうかがいました。

取材・文
三木鞠花
取材・文
三木鞠花 編集者・ライター

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

ショパン研究所所長のアルトゥール・シュクレネル氏(左)と広報担当のアレクサンデル・ラスコフスキ氏。大阪関西万博ポーランドパビリオン視察中に撮影。シュクレネル氏には課題曲についてインタビューを実施し、「音楽の友」10月号(9月18日発売)に掲載されます。

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開催期間中、ポーランドではみんなコンクールのことを話題に

——ポーランドの方々はショパンコンクールをどのように楽しむのでしょうか?雰囲気を教えてください。

ラスコフスキ ポーランド人はショパンコンクールが大好きです。スポーツのようにとても情熱的に追いますね。ほとんどの家庭で話題に挙がり、みんながわくわくしていると思います。テレビで中継もされるので、レストランやカフェでも話題になります。

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——普段はクラシック音楽に興味のない人でも、コンクールに熱くなるのですか?

ラスコフスキ そうですね、ショパンコンクールは“現象”なんですよ。クラシック音楽を聴かない人でも、コンクールのことは知っているし、興味を持って追っています。2つ面白い例をお伝えしますね。

数か月前にタクシーに乗っていたのですが、コンクールの約1年前にもかかわらず、運転手さんが私が誰か気づいて、審査員について質問攻めにあったんです(笑)。とても詳しい質問でした。もうひとつ、今家をリフォームしているのですが、その作業をしてくれている人の一人が私に気づいて「ショパンコンクールのチケットを用意してくれませんか? 妻と聴きに行きたいんです」と言ったんです。「売り切れてしまっているから手配できない」と答えたのですが、そう聞いてくれたことは嬉しかったですね。

——ラスコフスキさんのFacebookで「I don’t have tickets for the Chopin Competition」と書かれた写真を投稿されているのを拝見しました(笑)。テレビでも見られるし、家族や友達との話題にものぼるのですね!

ラスコフスキさんのFacebookのカバー写真

——ライブ配信について今回なにか変更点はありますか?

ラスコフスキ 中継はポーランド国営放送、YouTube、Facebookに加えて、今回初めてTikTokでも配信します。TikTokは縦長なので、映像を縦長に変換するための機器を用意しています。ピアノがどんなふうに見えるのか、私も楽しみです。

TikTokでの配信を通して、新しい若い人たちの集客を期待しています。すでに多くの若い人たちがコンクールを視聴してくれていますが、TikTokから新しい層のみなさんに届けられたら嬉しいです。K-PopやJ-Popが好きな人たちが興味をもってくれたら、ショパンコンクールも彼らの心に響く部分があると信じています!

——視聴者がいちばん気になるのは、会場と配信の音の違いだと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

ラスコフスキ これまでも音質には誇りをもって配信をしてきました。ポーランド・ラジオのエンジニアが音をデザインしているので、とてもクオリティは高いと思っています。さらに今回は、新たに通常のステレオかバイノーラルか選べるようになります。バイノーラルは立体的な音で、予備予選のときにテストを聴いてみましたが、素晴らしかったです。ステレオが平面の絵画だとしたら、バイノーラルは立体ですね。

——より良い音で配信を楽しめるようになるのですね。楽しみです。

予備予選免除枠の変更や審査員について

——今回、予備予選の免除枠に変更がありましたが、どのような影響がありましたか?

ラスコフスキ 免除枠の変更によって、予備予選を経ずに本大会に参加できるピアニストの数は増えました。その結果、すでにほかの重要なコンクールで優勝経験のあるような実力者が、ショパンコンクールに挑戦するケースも増えています。

もっとも、それはそれぞれのピアニストの個人的な判断です。すでに優勝経験を持つ人が、あえてショパンコンクールに挑戦するのは、このコンクールが「コンクールの中のコンクール」として位置づけられている証でしょう。

多くのピアニストにとってショパンコンクールは、より大きなチャンスであり「究極のコンクール」と考えられています。だからこそ、すでに「優勝者」という称号を持っている人であっても、「ショパンコンクール優勝者」というタイトルを手に入れたいのです。しばしば「ショパンコンクールはピアノのオリンピックだ」と言われますが、それは誰もがオリンピックで金メダルを取りたいと思うのと同じ気持ちなのです。

——結果的に予備予選の通過者の人数が減ってしまうことになりましたが、それについてはいかがでしょうか。

ラスコフスキ このようなルールになった以上は、仕方ないと言わざるを得ないですね。もっとも優れた出場者たちが予備予選を通過したことに変わりありません。私たちは彼らの演奏を本当に楽しみにしています。

私自身、実際に演奏を聴いたり、批評家や審査員の話を聞いたりしても、今回の予備予選の水準は並外れて高く、素晴らしいピアニストたちの多くが本選に進めなかったことを知っています。それは本当に残念で、結果を読んだときには心が痛みました。でも、いつだって結果を読むときは心が痛むのです。セカンドステージに進む40人でも、サードステージに進む20人でも、ファイナルに残る10人でも。

——今回の審査員について教えてください。初めてポーランド人以外のギャリック・オールソン氏が審査委員長を務めますね。

ラスコフスキ ショパンコンクールの審査員は、卓越した専門家たちで構成されています。その多くはピアニストであり、また多くはショパンコンクールの入賞経験者でもあります。彼らは伝統を守る存在であると同時に、音楽は生きており、ショパンの時代とは異なる現代の人々のために創られるべきものだと理解している芸術家でもあります。実際、世界は非常に速いスピードで変化しており、今日の人々は2021年の前回コンクールのときともすでに違っています。

メディアでは「初めてポーランド人以外が審査委員長になった」とよく取り上げられています。しかし私たちにとって、ギャリック・オールソン氏は偉大な音楽家であり、素晴らしい人物であり、心優しい人間であり、そしてショパンコンクールのすばらしい優勝者です。彼を審査委員長に迎えられることを、私たちは誇りに思っています。

心をオープンにして思い切り楽しみましょう!

——ショパンコンクールを楽しむヒントを教えてください。また、コンクールに長く携わってきたご経験から、今年はどんなコンクールになると期待していますか?

ラスコフスキ いちばん大切なのは、オープンな心で聴いて音楽を楽しむことです。もうひとつ、より楽しめると思っている方法があります。各ステージの結果が出る前に、通過すると思うコンテスタントの名前を書きだしてみることです。友達も誘って一緒にやってみてください。そして、誰が審査員の感覚にいちばん近かったかチェックしてみるのです。審査員にいちばん近かった人には、ちょっとした景品を用意してもいいですね。ケーキ1切れとか。

真面目な話に戻りますと、今年のコンクールも本当に素晴らしいものになると思っています。審査員もコンテスタントも申し分ない。チケットは売り切れて、ホールは満席。何万人もの人たちがこのイベントを心待ちにしている。一緒に楽しみましょう!

取材・文
三木鞠花
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三木鞠花 編集者・ライター

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

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