インタビュー
2018.09.12
波多野睦美(メゾソプラノ)×大萩康司(ギター)インタビュー

名画の旋律を角田隆太(ものんくる)の鮮烈なアレンジで聴かせる、歌とギターのアルバム『コーリング・ユー』

『ティファニーで朝食を』『バグダッド・カフェ』『卒業』『サウンド・オブ・ミュージック』……往年の映画ファンなら、タイトルを聴いた瞬間に劇中歌のメロディが頭に浮かぶという方も多いのでは。世代を超えて愛される名画の旋律の数々を、透明感溢れる波多野睦美さんのメゾ・ソプラノと、大萩康司さんの語りかけるようなギターで収録した珠玉のアルバム《コーリング・ユー》。
角田隆太さん(ものんくる)によるアレンジも冴え渡る本盤の聴きどころや、お二人の共演歴などをお話していただきました。映画ファン必聴の一枚です。

取材・文
東端哲也
取材・文
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

写真:堀田力丸

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古楽からロマン派歌曲、シャンソン、日本のうた……とジャンルを跨いで癒しと情熱を紡ぐメゾ・ソプラノ、波多野睦美と、層の厚い日本ギター界の頼もしい牽引役である名手、大萩康司の組合せによる夢のスクリーン・ミュージック・アルバムが登場。日本語ポップス×ジャズの新感覚ユニット、ものんくるのメンバーとして知られる気鋭のベーシスト、角田隆太の手掛けた鮮烈なアレンジも話題の本盤について、2人にお話を伺った。

幅広い年齢層から反響があった

――お二人の最初の出会いは?

波多野: つのださん(※つのだたかし:リュート奏者で音楽制作オフィス「ダウランド アンド カンパニイ」主宰)がプロデュースしたHakuju Hallの公演で、初めて大萩さんの演奏を生で聴いて、何て綺麗な音なんだろうと感動して、自分の企画である同ホール「朝のコンサート」に出演していただいたのがきっかけです。その後は数え切れないほど、共演を重ねています。

大萩: 確か最初に「朝のコンサート」で共演したときにも、本盤の収録曲である《イパネマの娘》を一緒にやった記憶があります。

――この《CALLING YOU》には有名なものから知られざる佳曲まで、名画を彩った様々な名曲が波多野さんの歌唱とギター・ソロで収録されていますが、お二人にとって意外だった選曲は?

波多野: プロデューサーから提案された《アイルランドの女》(※スタンリー・キューブリック監督『バリーリンドン』の愛のテーマ)には驚きました。でもCDを聴いた幼馴染みの友達から凄く良かったって言ってもらえた。他には《クライ・ミー・ア・リヴァー》や《コーリング・ユー》とかは1回くらいしか歌ったことがなかったし、《また会いましょう》は初めてでした。

本盤は特に幅広い年齢層から反響を頂いたのが嬉しかったですね。そして長年のファンの方から「波多野さんのこういう声を初めて聴いた」みたいな反応を沢山いただきました。今回、オンマイク(※マイクを撮りたい音にできるだけ近づけて録音すること)でのレコーディングだったので、これ以上できないほど軽く、小さく、ささやきながら歌えたのです。

大萩: 僕の演奏を聴き慣れていらっしゃる方にとって《想いの届く日》はギター・ソロでお馴染みの曲なので、今回初めて歌唱付きで聴いたっていう反応もありました……でもオリジナルはタンゴ・カンシオンですものね。そして、ギター・ソロといえば、意外なことに《カヴァティーナ》(※映画『ディアハンター』のテーマ)の録音は本盤が初めてでした。

 

――それにつけても、本盤の大きな聴きどころのひとつは角田さんよる新感覚なアレンジですね!

大萩: そうですね。特に《私のお気に入り》とか最初に楽譜を見たときには斬新すぎて何の曲かわからなかった(笑)。でも凄く角田くんらしいお洒落なアレンジ。中には難しいテクニックを必要とするものもあったし、曲によってはハープやリュートのような音が求められたり、いろんな意味で大変でしたが、本当に演奏するのが楽しかった。自分でも、例えば《アイルランドの女》ではガット弦的なカサカサした音が欲しくて爪をガリガリに削ってみたり、いろいろと工夫したりできたし。

波多野: 『ロミオとジュリエット』のテーマとか、シェイクスピア的な古めかしいソネット風の歌詞に英国っぽいヴォーン・ウィリアムスみたいな雰囲気がよく合っていたし、カルメンの《ハバネラ》にビゼーを通り越してアンダルシアなかんじを醸し出したり、(つのだたかしを父に持つ)角田さんの育った豊かな音楽環境がバックボーンにある気がして素敵だと思いました。

そして、とっても「ものんくる」なアレンジだなって(笑)。イメージしているものが凄くクリアで緻密。かといってそれに固執するでもなく、現場でどんどん音を削ぎ落としていったり……あのアカペラで始まってさりげなくギターが絡んでいく《ローズ》はそうやって生まれました。《ムーン・リバー》のアレンジも爽やかで、大萩さんのギターの持ち味がよく活かされている。それでいて時々は、大萩さんにこう弾いて欲しいっていう角田さんのアンビションも見え隠れするのが面白い……「自分で弾くには、きついですけどね」なんて言いながら(笑)。

――もともとテレビ番組のテーマとして書かれた《風のオリヴァストロ》(作曲:宮川彬良/作詞:安田佑子)のような新しい日本語の歌も、このラインナップの中に違和感なく馴染んでいました。

波多野: 実はボーナストラックのようなこの曲が、そもそもこのアルバムの企画の始まりだったという複雑な経緯があります。それだけに、これをどこに置くかで悩んだのですが、最終的には大萩さんのソロ演奏による《11月のある日》の後で、さらっとこの曲の日本語が聞こえてきて、最後に同じ音程で《ムーン・リバー》の最初(ギター)に繋がっていく流れが自分でも気に入っています。

――アルバムを聴いているうちに映画の方もまた改めて観たくなりました。往年の名画が多いのですが(笑)。

大萩: ブローウェルの《11月のある日》は自分のデビュー・アルバムのタイトルでもあるので、想い入れのあるナンバーなのですが、この曲がもともと同名のキューバ映画のために書かれたことは殆ど知られていないと思います。日本ではなかなか観る機会がないのですが、黒澤明監督の『生きる』にもどこか通じる人生讃歌がテーマのいい映画ですよ。

波多野: 《ククルクク・パロマ》はメキシコに伝わる民族舞踊曲をもとに1950年代に書かれた曲ですが、やはりアルモドバル監督の映画『トーク・トゥ・ハ-』(2002年)で聴いたカエターノ・ヴェローゾの個性的なヴァージョンが鮮烈でした。今回のアルバムにはそんなヴェローゾを始め、《私のお気に入り》のジュリー・アンドリュースや《ローズ》のベット・ミドラー、《ムーン・リバー》のオードリー・ヘプバーンなど、オリジナルの歌い手への私からのオマージュな気持ちを込めたかもしれません。

――アルバムごとリピートして何度も聴きたくなります!

大萩: 最後の《また会いましょう》(※キューブリック監督のブラック・コメディ映画『博士の異常な愛情~』でもラストシーンで効果的に使用された)で何となく希望を持たせて締めて、それから冒頭の《ククルクク・パロマ》に戻ると新しい朝が来たみたいなかんじになっていい(笑)。随所でいろいろと細やかな表現をギターでやっているのをちゃんとエンジニアの方が拾って収録して下さったので、イヤホンとかでじっくりと聴いてみて下さい。もちろん、優しく語りかけるような波多野さんの声にも魅了されますよ!

『コーリング・ユー』
メゾソプラノ:波多野睦美
ギター:大萩康司
発売日: 2018/7/25
© King Record Co.,Ltd.

コンサート情報

~インストアライブ~
波多野睦美&大萩康司 『コーリング・ユー』発売記念 ミニライヴ&CDサイン会

■日時:2018年10月28日(日)15:00
■会場:タワーレコード渋谷店7Fイベントスペース
■内容:ミニライヴ&CDサイン会

 

~CONCERT~
大萩康司 ギター・リサイタル〜スクリーンからの響き〜

■日時:2018年12月27日(木)開場18:30 開演19:00
■会場:東京文化会館小ホール
■ゲスト:波多野睦美(メゾ・ソプラノ)
■チケット代金:全席指定 ¥4,500 (税込)

取材・文
東端哲也
取材・文
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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