福川伸陽の呼びかけで全国のトップホルン奏者が大集結!聴く人が元気になれる音楽を
2020年3月、コロナ禍によりほとんどの演奏活動がストップしてしまったとき、当時NHK交響楽団に在籍していたホルン奏者・福川伸陽さんの声がけにより日本中からホルン奏者が集結。3日間かけて大編成ホルンアンサンブルのCDレコーディングとリアルタイム配信を行なった。その名も「ジャパンホルンサウンド」。この奇跡のアンサンブルが、2024年に復活し、アルバムを発売した。
取材前日、トップ・ホルン奏者24人が全国各地から集結した演奏会「JAPAN HORN SOUND~2024 CONCERT TOUR」東京公演を大成功で終えて、興奮冷めやらぬ福川さんに話を聞いた。
ホルンの演奏歴は35年を超えるが、その間、一度もレッスンを受けたことがないのが自慢(?)。もちろん腕前は推して知るべし。東京外国語大学でドイツ語を専攻するも日本語を使...
トップホルン奏者たちが「抑圧から解放」されたハッピーなアルバム
——コロナ禍も明け、それぞれのオーケストラの仕事がある中で、ホルン奏者だけでも21人。CDのレコーディングによくこれだけの人が集まれましたね。
福川 レコーディングは2023年の12月23、24日がメインでしたので、オーケストラの演目はだいたい《くるみ割り人形》か《第九》。土日はほぼマチネですから、17時からレコーディングを始めて、夜中の1時くらいまで。重ねて録音しなければならない人は、朝の5時とか6時までやっていました。
——そのモチベーションは何でしょう。
福川 「フェスティバル感」でしょうか。世界中で行なわれている音楽祭と同様に、今回のジャパンホルンサウンドも日本を代表するホルン吹きたちが一期一会で集まったわけで、自分たちでも吹いていて「すごい音が聴こえてくる」とワクワクしたものでした。とにかくみんながハッピーになれる時間で、その感じがアルバムにも出ているのではないかなと思いますね。
——CDも聴いていてハッピーになれるものでした。
福川 ひたすら楽しいアルバムにしたいと思い、僕が好きな曲、そして元気になれる曲を集めました。ただ《フィンランディア》だけは「コロナ禍の抑圧からの解放」という強いメッセージを込めています。
▼福川伸陽 with ジャパンホルンサウンド
ホルンってすごい! を伝えたい
——冒頭《ルパン三世のテーマ’78》からエキサイティングですね。ホルンらしいハーモニーとジャジーさの融合が本当に格好いい。アドリブソロは書き譜ですか?
福川 そうです。われわれはクラシックのプレーヤーなので、書かれた譜面をガツンと吹く方がいい。アレンジはジャズ作曲家として大活躍されている挾間美帆さんです。
依頼の際にはデュオパートも入れてほしいとお願いしていたので、アドリブソロをデュオでやるという、普通ならできないことが実現しました。
——リードの《エル・カミーノ・レアル》は吹奏楽の名曲ですが、ホルンの作・編曲でおなじみの小林健太郎さんによるアレンジです。
福川 今回のためにホルン十重奏版を作っていただきました。打楽器も入っていますが、編成が大きい分ゆとりもあって、「もうホルンだけでもいいんじゃないかな」と思うくらい、原曲の魅力を出せたと思っています。
——組曲《天空の城ラピュタ》では映画のワンシーンが目に浮かぶようでした。それぞれの曲がどこに使われていたという記憶はないにしても、です。《オペラ座の怪人》に至っては、まるでミュージカル全編を見たような印象さえ受けました。
福川 そう言っていただけると嬉しいです。《オペラ座の怪人》では僕の好きな曲ばかりをピックアップして、ストーリーに沿って並べてあります。どちらも元神奈川フィルのホルン奏者、大橋晃一さんのアレンジですが、さすがですよね。
——《フィンランディア》はとくに中間部のメロディが泣けるほど美しかったです。マニアックなことを言うと、Allegro moderatoに入ってからティンパニと低弦で5小節間、長く音を伸ばすところがあるのですが(弦は実際にはトレモロ)、ホルンで一息で吹くのは難しいから交互にブレスを取る。それをあえて強調していたのが印象的でした。
福川 より緊迫感が増しているでしょう? 弦楽器が長く音を保持するのとはまた違う、ホルンならではの表現だと思っています。実は、もとのアレンジはティンパニのロールしかなかったんですよ。でも現場で「やっぱりホルンも入れよう」と。この曲に限らず、録音しながら変えていった部分は少なからずあります。
——ラストの《リベルタンゴ》は闊達な、それでいて有機的なアンサンブルが印象的でした。
福川 編成が大きくなればなるほど「音による会話」は難しくなっていくので、ホルン4本+ピアノという小編成のこの曲ではより親密な会話をしたかった。そこがよく出せていたのかなと思います。
——基本的にホルンという楽器のみによるアルバムなのに、一色にならずまったく飽きないで聴けるのが素晴らしかったです。
福川 ホルンを吹く人はもちろんですが、広く「音楽ファン」に聴いていただいて「ホルンってこんなにすごい楽器なんだ!」と思ってほしいです。
それから、楽しい雰囲気を分かち合って元気になりたい人にも。誰が聴いても満足していただけるアルバムになったと思っています。
KICC-1615 定価:¥3,300 (税抜価格 ¥3,000)
演奏: 福川伸陽 with ジャパンホルンサウンド
ホルン:福川伸陽/五十畑勉/今井仁志/上里友二/上間善之/大森啓史/勝俣泰/
熊井優/西條貴人/鈴木優/高橋臣宜/竹村淳司/谷あかね/田場英子/日橋辰朗/信末碩才/野見山和子/坂東裕香/藤田麻理絵/村中美菜/栁谷信 (順不同)
ピアノ:新居由佳梨 打楽器:秋田孝訓
録音:2023年12月23-25日 キング関口台スタジオ
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