インタビュー
2025.06.28
特集「ウェルビーイングとクラシック音楽」

「体は“生きた楽器”そのもの」ソプラノ・森麻季に聞く、声のコンディションの整え方

透明感と豊かさをあわせ持つ声で、多くの聴衆を魅了し続けているソプラノ・森麻季さん。その美しい歌声の背景には、日々の暮らしの中で続けている、声と体のケアが欠かせません。舞台に立ち続けるために、森さんはどのように身体と向き合い、声のコンディションを保っているのでしょうか。クラシック音楽とウェルネスの視点から、そのセルフケアの方法をうかがいました。

取材・編集
寺田 愛
取材・編集
寺田 愛

編集者、ライター。女性誌編集、ECサイト編集・ディレクター、WEBメディア編集長、書籍編集長などを経て現在。はじめてクラシック音楽を生で聞いたのは生後半年の頃。それ以...

撮影:齋藤大輔

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音楽は「暮らしの延長線上」にある

——声楽家にとって「体」はどういう存在でしょうか。

森麻季(以下、森): 私にとって体は、“生きた楽器”そのものです。弦楽器や管楽器とは違い、自分の内側から音を奏でる唯一無二の存在。舞台では下半身を安定させて、息の流れを絶やさないようにして声を届け続けます。

技術を磨くほど、この楽器はより豊かに響いて、繊細な表現も可能になりますし、自分の体が音楽を導いてくれる“教師”のようにも感じています。

——「教師」という表現が印象的です。歌っている自分を客観的に見ている感覚があるのでしょうか。

森: そうですね、体の中にもう一人、自分の声や音程を冷静に聴いている人がいるような感覚です。

たとえば「今ちゃんと響いている?」とか、「支えは大丈夫?」と、もう一人の自分がいつも確認しています。実際に声を出している私と、それを見守っている私がいて、それはどちらもとても大切です。

森麻季(もり・まき)
東京藝術大学、同大学院、文化庁オペラ研修所修了後、ミラノとミュンヘンに留学。プラシド・ドミンゴ世界オペラコンクールをはじめ、多数の国際コンクールに上位入賞。1998年ワシントン・ナショナル・オペラでアメリカ・デビュー。ドレスデン国立歌劇場《ばらの騎士》、トリノ王立歌劇場《ラ・ボエーム》に出演を重ねて、国際的な評価を高める。近年は2017年より鈴木優人指揮BCJオペラ《ポッペアの戴冠》《リナルド》《ジュリオ・チェーザレ》《魔笛》《ドン・ジョヴァンニ》に出演。2023年BBCプロムス・デビュー。2024年山田和樹指揮バーミンガム市響《蝶々夫人》のタイトルロールは英国の聴衆の喝采をあびる。透明感のある美声と深い音楽性に定評があり、人気と実力を兼ね備えた日本を代表するオペラ歌手として全国各地で演奏会を行う。国立音楽大学客員教授、東京音楽大学特任教授、東京藝術大学でも教鞭を執る。ワシントン・アワード、五島記念文化賞、出光音楽賞、ホテルオークラ賞受賞。

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