インタビュー
2021.10.18
スパークリングワインと楽しむ癒しのひととき

熊本マリがいざなう音のスペイン旅~新譜『スパークリングナイト・イン・スペイン』でカタロニアの文化を伝える

ピアニスト・熊本マリさんの新譜『スパークリングナイト・イン・スペイン』には、癒し系スペイン音楽が収録されています。スペインを代表するスパークリングワインのフレシネとコラボした、お酒を楽しみながら聴きたい1枚です。カタロニアの特色やスペイン音楽の魅力について、お話をうかがいました。

伊熊よし子
伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...

写真:各務あゆみ

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スペイン・カタロニア地方の豊かな自然や文化を感じる

「スペイン音楽といえば熊本マリ、熊本マリといえばスペイン音楽」というほど、彼女とスペイン音楽は切っても切り離せません。そんな熊本マリさんが、スペインのスパークリングワイン、フラシネとのコラボレーションによる『スパークリングナイト・イン・スペイン』と題したアルバムをリリースしました。

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熊本マリ『スパークリング・ナイト・イン・スペイン』
2021年10月6日キングレコードより発売。

スペイン音楽のスペシャリスト・熊本マリが贈る、夜の癒しのひととき。
スペインを代表するスパークリングワインであるフレシネとコラボし、本拠地カタロニア地方に焦点を当てた選曲で、フレシネを呑みながら聴くのによい楽曲を 集めた。
世界150ヶ国以上で愛されているフレシネ。特長はシャンパンと同じ瓶内二次発酵製法由来の、グラスのなかできめ細かく立ちのぼる泡。

ここにはカタロニア(カタルーニャ)地方の作曲家の作品をメインに、ジャジーな曲まで多種多様な作品が選ばれています。

カタロニア州はスペイン北東部に位置し、スペインの自治州として知られています。美しい海をもつビーチリゾートとしても有名で、北部にはピレネー山脈が連なっています。州都はバルセロナで、特有の芸術や文化が育っています。カタロニア語という特有の言語をもつことでも知られています。

カタロニアは音楽面でも充実し、さまざまな作曲家が美しい土地や自然や人々の気質までをも映し出す作品を数多く生み出しています。今回の熊本マリさんの新譜には、そうした土地の風情や空気や色彩などを映し出す作品が数多く登場し、聴き手をかの地へとスーッと自然にいざなってくれます。その録音に関して、いろんなお話を聞きました。

「音楽は聴き手のためにある」という想いをもとに、心身が癒されるようなアルバムに

——スペインにはすばらしい作品がたくさんありますが、今回のアルバムの選曲に関しては、どんなコンセプトがあったのですか。

熊本 まず、私の大好きな曲を集めたということがいえます。とにかく自分が好きで、そのすばらしさをひとりでも多くの人に聴いてほしいと思ったのです。各々の作品に愛情を込めて演奏していますので、その愛を受け取ってほしい。

スペインには、本当に偉大な作曲家が書いたすばらしい曲が山ほどあります。スペイン音楽というと、情熱的で舞踊に根差した躍動的なリズムが特徴で、楽しく浮き立つような音楽。そんな思いを抱いている人が多いと思うのですが、今回はしっとりした旋律、ゆったりとしたリズム、心身を癒すような、そんな音楽を選びました。

熊本マリ(くまもと・まり)
東京に生まれる。5歳からピアノに親しみ、10歳で家族と共にスペインへ移り住む。
1975年よりスペイン王立マドリード音楽院でホアキン・ソリアノ氏に師事。スペイン青少年音楽コンクール優勝。ジュリアード音楽院、英国王立音楽院で研鑽を積む。
1991年、スペインの作曲家フェデリコ・モンポウ(1893〜1987)のピアノ曲全集の録音を完成(世界初)。1993年にはモンポウの伝記『ひそやかな音楽』を翻訳。
近年は、国際ピアノコンクールの審査員なども務め、テレビ、ラジオの出演、執筆活動など多才な活動で幅広いファンを獲得している。神奈川県のマグカル大使。

——それはコロナ禍で、多くの人たちが困難な状況にあるという時期だからこそ、というプログラミングでしょうか。

熊本 そうですね、みなさんがとても辛い時期ですので、音楽を聴いてほんの一瞬でも心身が癒されればいいなと考えたのです。私はこれまで赤のイメージというか、はげしく情熱的で華やかな曲をたくさん弾いてきましたが、今回は時代を意識し、自分の気持ちも考慮し、弾きたい曲を一から考え直してじっくり選曲しました。緑をイメージして。

もちろん、もっとたくさん弾きたい曲があり、候補曲は数限りないのですが、自分がいまもっとも向き合いたい曲という意味で、こういう選曲になりました。ですから、録音は楽しかったですよ。心から楽しみ、「音楽は聴き手のためにある」という精神を大切に、1曲1曲ていねいに弾き込んだつもりです。

熊本マリ『スパークリング・ナイト・イン・スペイン』

コロナ禍では「何を本当に弾きたいか」考える機会になったそう。今後についても「弾きたい曲を見つめて、自分の音を深めていきたい」と語る。

スペインを旅するような色彩感あふれる選曲

——熊本さんは1991年にスペインを代表する作曲家のひとり、フェデリコ・モンポウ(1893~1987)のピアノ曲全集の世界初録音を完成させていますが、今回もモンポウの作品がかなり含まれていますね。

熊本 私は10歳から17歳までスペインで暮らしましたが、モンポウに関しては、スペインを代表する偉大なピアニスト、アリシア・デ・ラローチャが弾いたモンポウの曲に魅せられ、以来いろんな曲を弾くようになったのです。ラローチャの演奏を聴いたのは、12~13歳のころでしたが、モンポウのハーモニーの美しさに魅了されたのです。

アリシア・デ・ラローチャによるモンポウ作品を収めたアルバム『Impresiones intimas』 

熊本 今回取り上げたなかでは、「湖」という曲をこよなく愛しているのですが、この曲は波がなく、透明感に富み、鏡のような湖面に映る自分を見ているような思いに駆られる、哲学的な内容を備えています。

ラローチャは私が敬愛するピアニストですが、彼女は子どものころから作曲も行ない、数多くの作品を書いています。今回は、彼女が17歳のときに書いた「インヴィテーション」という曲をアルバムの冒頭に置きました。

熊本マリ『スパークリング・ナイト・イン・スペイン』より「インヴィテーション」、「湖」

——ここにはアルベニス、グラナドスらスペインの作曲家の色とりどりの作品がズラリと収録されています。ふだんあまり耳にすることのない作品も多く含まれ、スペインの風が心身に吹き込んでくるようですね。

熊本 音楽を聴いていろんな土地を「旅」をしてほしい、そんな願いを込めました。スペインは各地にさまざまな歴史や伝統、文化、芸術が息づき、それぞれがとても個性的です。画家が多く生まれていることでもわかりますが、音楽も色彩感が多様で、今回の収録曲にもたくさんの「色」が存在します。それが曲によって、微妙に変化していく、それを味わってほしいですね。

カタロニアでは人々のテンポや会話のリズムが速く、太陽の光線が強くて日陰と日向の差が大きい。こういった特色も音楽に表れているという。

——アルバムの最後にはガーシュウィンの曲が2曲収録されていますが……。

熊本 スペインの曲は自由で創造性に富み、多分に即興的でもあり、ジャジーな曲もある。そこで最後は以前から収録したかったガーシュウィンを入れました。これはグレインジャーの編曲で、とても聴きやすいんですよ。

熊本マリ『スパークリング・ナイト・イン・スペイン』より「ザ・マン・アイ・ラヴ」、「ラヴ・ウォークド・イン」

スパークリングワインとともに「お酒に酔い、音楽に酔う」

熊本 そうそう、モンポウの「かわいい踊り」「タンゴ」ですが、とてもかわいい曲です。スペインとアルゼンチンのタンゴが一緒になったような曲で、こういう曲は、ぜひフレシネのグラスを傾けながら、夕方から夜にかけてしっとりと聴いていただきたい。

熊本マリ『スパークリング・ナイト・イン・スペイン』より「かわいい踊り」、「タンゴ」

スペインではタパス(小皿料理)が有名ですが、私は日本のおでんも合うと思うの(笑)。フラシネはリーズナブルで買いやすく、いろんなおつまみに合う。いまの時期、秋の夜長にゆったりした気分で「お酒に酔い、音楽に酔う」、そんなときの愛聴盤になれたら最高ですね。

伊熊よし子
伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...

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