正戸里佳&岡田将、ベートーヴェンを語り合う~ヴァイオリン・ソナタ全10曲を通して見えたもの
2019年10月23日に東京文化会館でのリサイタルを控えたヴァイオリニスト、正戸里佳さん。2018年にピアニスト岡田将さんと挑んだベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ10曲の演奏を踏まえ、9番《クロイツェル》と10番を再び演奏します。
ベートーヴェンに、お二人はどんな魅力を見出しているのでしょうか。リサイタルに向けて、お話を伺いました。
1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支...
10月23日、東京文化会館小ホールで開催される「正戸里佳ヴァイオリン・リサイタル」で、ヴァイオリニストの正戸里佳とピアニストの岡田将が再び共演する。
2人は昨年、ベートーヴェンの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」全10曲に3度の演奏会で挑み、気心知れたコンビ。
今回はベートーヴェンの最後の2曲である第9番《クロイツェル》と第10番の再演に、ブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ第2番」を組み合わせる。
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全10曲の演奏を通して得たもの
――ベートーヴェンの全10曲を演奏してみて思ったことは?
岡田 ピアノ・ソナタの全32曲を演奏した経験はありますが、ヴァイオリン・ソナタ全曲は初めてでした。全貌の解明は、まだまだ先かと思われます。
正戸 ベートーヴェンの人気度、日本では本当に高いと思いました。
第10番のソナタは、フランスのヴァイオリ二スト、ピエール・ロードの依頼で書かれたと言われていますが、作曲家自身は第10番のソナタを書くとき「このジャンルを完結させよう」と、思っていたのかもしれません。第1番から第9番《クロイツェル》までの知名度に比べ、第10番は演奏機会も限られ、有名でもない。でも実際に弾いてみると、第5番《スプリング》あたりより、格段に味わいがありますね。
岡田 第5番以降のソナタからなんとなくピアノとヴァイオリンがだんだんと対等な立場で絡むようになり、個人的に好きな絡み合いは、第6番です。 そして、対話や絡みを超えて2つの楽器が一体化するのがまさに第9番のクロイツェルソナタではないでしょうか! Don’t think! Feel という言葉が聞こえてきそうです。
正戸 ベートーヴェンがヴァイオリンを相当に研究し、自身の思う方向に深めていった気がします。2つの楽器のデュオの形式、絡ませ方も、次第に噛み合い、自在さを増します。
だからといって初期の作品が未熟ということではなく、例えば第2番には、後半のソナタにはない響きがあります。作品30-3曲ではベートーヴェンを象徴するハ短調で書かれた第7番(作品30-2)のインパクトが大きいものの、第6番(作品30-1)の、ピアノが主導してヴァイオリンが伴奏に回る変奏の面白さとか、随所に聴きどころがあります。そして第9番に至り、一気に突き抜けるのです。
岡田 ピアニストの負担も、曲によって違いますね。ピアノ・ソナタと同じく、ベートーヴェンが当時の鍵盤楽器の改良、発達を率先して取り入れたことと深く関係しています。
正戸 モーツァルトは、お父さん(レオポルド・モーツァルト)が今日なお使われているヴァイオリン教則本を著した高名なヴァイオリン教師であり、その英才教育を受け、自身もヴァイオリンが達者でした。
ベートーヴェンはもっぱら鍵盤楽器の名手だったので、ヴァイオリン独特の音型の部分、ヴァイオリンぽくない音型の部分が混在して、一筋縄でいかないから手ごわいです。
岡田 ピアノにしても、近未来の楽器の発展を見越して書いていたので、作曲当時の楽器では出ない音がいくつもあります。子どもの頃は固い岩のように思い、敬遠していました。
正戸 私も“頑固オヤジ”と思っていました。高校入学で上京、桐朋学園に入ると、周りがやたらベートーヴェンを崇拝していたのです。私は「へえ、そんなものなの」と、驚きました。
岡田 ピアニストとしても絶対、避けて通れない作曲家です。
息の合ったコンビ、出逢いは?
――正戸さんと岡田さん、どのように知り合い、共演に至ったのですか?
正戸 学校が同じ桐朋学園というだけで。
岡田 面識、なかったです。
正戸 私は岡田さんの演奏を何度か聴いたことがあり、すごいピアニストだと思っていましたよ。
ベートーヴェンの10曲のヴァイオリン・ソナタには是非いつか取り組みたいと考えていたのですが、まさか昨年、その機会を授かるとは思っていませんでした。特に《クロイツェル》は難しいと思い込んでいた時期もありますし、初めて取り組む曲もありました。でも10曲すべてを弾く過程では、自然に入って行けたのです。
全曲演奏会の経験を踏まえ、発展の先の突破口、そして完結編へ
――今度のリサイタルはベートーヴェンから2曲、そしてブラームスを1曲ですね。
正戸 全曲演奏会の経験を踏まえ、最後の2曲を選びました。発展の積み重ねの先の突破口、その後の完結編です。ブラームスは3曲の中から2人で相談して、幸せに語り合う第2番です。
岡田 今回演奏する3つの曲を一度に聴けるのはとても贅沢なプログラムだと思います。 中でも唯一の後期の作品である第10番は特に気に入ってます。出だしの優しい語りかけに、誰しもが心の扉を開いてしまうと思います。そして、後期のピアノソナタがそうであるように、穏やかな展開部のアプローチ、なんとも言えない色合いの変化や切なさ。ここにベートーヴェンの真実の心情を見てとることができるように思います。
正戸 ブラームスはヴァイオリン・ソナタ全3曲とも弾きたいですが、次はホルンを交え、ホルン三重奏曲とかもやってみたいです。
――お2人とも新進時代を経て、中堅の域に進まれていますが、いま思うことは。
正戸 書道でもデッサンでも、ピカソの絵にしても、精密な土台があっての自由の世界です。過去の作曲家が創造した作品を今に生きる演奏家が再現する場面においても、自分らしさだけ追求するわけにはいかず、技法の歴史、文化の基礎知識などさまざまな角度から究めていくわけですが、いろいろな意見を聞くと、みな違うことを言います。楽譜の平面に白黒の丸と直線、ハネなどが並んでいるだけで、それをただ音にしても、音楽にはなりません。楽譜を見たときの感動を自分がどのような音楽として表現するべきか、じっくりと融合を考える時期にきています。
岡田 楽譜からいろいろと読み取り、音にする作業を随分と長い間、粛々とやってきました。時には「縛られている」とも思ったものです。ちょっと歳をとってくると、楽譜の中から心に響くフレーズ~若い頃には感じなかったもの~がポンポン、出てくるようになりました。作曲家と共感、共鳴できる部分を見つけながら、自分の表現に磨きをかけたいと思います。
――ありがとうございました。
日時 2019年10月23日(水)19:00開演
会場 東京文化会館(小ホール)
共演 岡田将(ピアノ)
入場料 全席指定5,000円
演奏曲目
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」イ長調 Op.47
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第10番 ト長調 Op.96
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.100
ほか
お問い合わせ
コンサートイマジン Tel.03-3235-3777
※コンサートイマジンHPより24時間お申込み可
主催 コンサートイマジン
協賛 NPO法人音楽は平和を運ぶ、医療法人ケーエスワイ、株式会社JUNSHIN
協力 キングレコード株式会社、広島大学附属高等学校 同窓会 アカシア会
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