インタビュー
2023.07.20
2023年8月4日(金)大阪・住友生命いずみホール「シューベルト——約束の地へ」トップバッターとして登場!

神尾真由子が語るシューベルトの魅力、室内楽の難しさと醍醐味、合理的な考え方

住友生命いずみホールが2023年度の年間企画としておくる「シューベルト——約束の地へ」。トップバッターとして、大阪府出身、世界で活躍するヴァイオリニストの神尾真由子さんが登場。
2007年のチャイコフスキー国際コンクール優勝以来、ソリストとして数多くの舞台に立ち続けてきた神尾さんですが、今回は「神尾真由子with Friends 」としてシューベルトとボッケリーニの「弦楽五重奏曲」に挑みます。共演するのは、神尾さんの桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)時代の同級生4人で、いずれも国内外で活躍するトップ奏者たち。神尾さんにシューベルトや室内楽の面白さ、難しさについてうかがいました。

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

「神尾真由子with Friends 」
前列左から神尾真由子、滝 千春
後列左から横坂源、横溝耕一、富岡廉太郎
©Hikaru Hoshi

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シューベルトの大好きな曲を演奏したい気持ちから室内楽に挑戦

——シューベルト最晩年の傑作に数えられる「弦楽五重奏曲」は、50分を超える大曲であり、またとても難しい作品だといわれています。

神尾 実はこの曲は、いちばん好きな曲のひとつなんです。通常、弦楽五重奏曲は弦楽四重奏にヴィオラが1台プラスされる形ですが、この作品はチェロが2台という編成で、その結果として低音が充実した美しい響きを獲得しています。ただ、ヴァイオリン・パートはとても難しいですね。シューベルトはあまりヴァイオリンが得意ではなかったようで、どのように弾いても弾きにくい箇所があります。

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——一般にシューベルトは「歌曲の作曲家」というイメージが強く、つまりメロディの美しさというのがクローズアップされがちだと思いますが。

神尾 ヴァイオリニストである私にとって、シューベルトは室内楽と交響曲の作曲家です。独特の和声進行を持ち、聴けばすぐに「シューベルトだな」とわかるものが多い。息の長い横のフレーズの中で和声が途切れず、常にうつろっていくのが特徴です。

神尾真由子(かみお・まゆこ)
4歳よりヴァイオリンをはじめる。2007年に第13回チャイコフスキー国際コンクールで優勝し、世界中の注目を浴びた。国内の主要オーケストラはもとより、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、バイエルン州立歌劇場管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団などと共演。
これまで里屋智佳子、小栗まち絵、工藤千博、原田幸一郎、ドロシー・ディレイ、川崎雅夫、ザハール・ブロンの各氏に師事。楽器は宗次コレクションより貸与されたストラディヴァリウス1731年製作「Rubinoff」を使用している。
大阪府知事賞、京都府知事賞、第13回出光音楽賞、文化庁長官表彰、ホテルオークラ音楽賞はじめ数々の賞を受賞。

©Makoto Kamiya

——今回演奏されるもう1曲のボッケリーニ作品についてはいかがでしょうか。

神尾 これもシューベルトと同様チェロが2台ですが、こちらはチェロがびっくりするぐらい頑張らないといけない曲です(笑)。有名な第3楽章の「メヌエット」は文句のつけようがないくらいにいい音楽ですし、他の楽章も同じように明るくて甘美で楽しめる作品だと思います。

——ソリストである神尾さんにとって、室内楽の演奏とはどのようなものなのでしょうか。

神尾 毎回、難しいなと思います。もちろん楽しい部分はありますし、いい曲もたくさんありますが、ずっとソロをやってきた身からすると気力がみなぎっていないとできないな、と感じてしまいます。特に人数が多くなるとどうしても言語化しないといけないことが増えますが、普段そうした話し合いに慣れていないので負荷がかかるんですね。それでも挑戦したのは、やはりシューベルトの「弦楽五重奏曲」が大好きだから。この曲をこのメンバーで弾きたいという気持ちが演奏会の実現につながりました。

中学生のときにはすでに“神尾真由子流・結果を早く出すための合理性”があった!

——このメンバーで今後挑戦したい曲はありますか。

神尾 チャイコフスキーの弦楽六重奏曲《フィレンツェの思い出》や、シューベルトではやはりピアノ五重奏曲《ます》、そして将来的には弦楽四重奏曲とも思います。私は弦楽四重奏曲は常設のカルテットが弾いたほうがいい結果が出せる、というのが持論なので、弾かないかもしれませんが。

——神尾さんはいつも、「こうしたほうが結果がいい」「この方法が早く到達できる」ということをおっしゃいます。そうしたいい意味での「合理性」は一体いつどこで身につけられたのでしょう。

神尾 すごくよく覚えていることがあります。中学1年生のとき、東京デビューの曲がメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」に決まったんですが、実はメンデルスゾーンが苦手だったんですね。そこで自己啓発本を買ってきて、そこに書いてある「得意なことと苦手なことを表にする」というのを実行してみました。例えば、チャイコフスキーのどういうところが得意で、メンデルスゾーンのどういうところが苦手か、を書き出す。そして苦手なメンデルスゾーンを得意なチャイコフスキーに寄せていくには、どの得意をどう活かせば良いのかを考えていったんです。

——一見まわり道に見えても、結果に結びつけるためにいちばん早いと思う道を開拓していくというのを中学生の頃から習慣づけられてきたんですね。それでは最後に、今回の住友生命いずみホール年間企画「シューベルト——約束の地へ」のトップバッターとしての意気込みをお聞かせください。

神尾 シューベルトというとおそらくみなさん、音楽室に貼ってある肖像画を思い浮かべられると思いますが、具体的にどういう作曲家なのかは意外に知られていないのではないでしょうか。この機会に、ぜひシューベルトの良さをみなさんに聴いていただければいいなと思っています。

公演情報
「シューベルト――約束の地へ」Vol.1 地に沁みわたる神性 神尾真由子with Friends

日時: 2023年8月4日(金)19:00開演

会場: 住友生命いずみホール

出演: 神尾真由子、滝 千春(ヴァイオリン)、横溝耕一(ヴィオラ)、富岡廉太郎、横坂 源(チェロ)

曲目: L.ボッケリーニ/ 弦楽五重奏曲  ホ長調op.11-5 G.275、F.シューベルト/ 弦楽五重奏曲 ハ長調 op.163 D956

料金: 一般6,500円、U-30(限定数/先着、小学生~30歳以下のお客様のための特別価格)2,000円、住友生命いずみホールフレンズ5,850円

問い合わせ: 住友生命いずみホールチケットセンター06-6944-1188

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取材・文
室田尚子
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室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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